社説:首都直下地震 減災への道筋を確かに
毎日新聞 2015年04月01日 02時30分
政府が首都直下地震について新たに減災の数値目標を掲げた。
想定される最大約2万3000人の死者数、最大約61万棟の全壊・焼失建物数を、今後10年間でおおむね半減させるという。
具体的な数字を示すことで関係機関や住民の意識を高める。そうした考え方は理解できる。
肝心なのは、目標達成までの道のりをどう具体的に描けるかだろう。東日本大震災の教訓を生かし、国、自治体、住民が一体となって対策を積み上げていきたい。
被害想定は、今後30年間に70%程度の確率で起きるとされるマグニチュード7級の地震を基に出されている。首都圏に住んだり、会社に勤めたりする以上、経験する可能性は非常に高い。
中央省庁職員の招集、鉄道など主要インフラの完全耐震化といった首都機能を維持するための政策目標は、比較的近い将来に100%の達成率となる見通しだ。
最大の課題は火災対策だろう。住宅が密集する首都圏には木造家屋が多い。火がでれば、周辺に燃え広がり、死者を増やす危険性が高い。
耐震化や建て替え、道路の拡張などが有効だが、現状を前提とした場合、電気が原因の火災を防ぐ感震ブレーカーの設置率を上げたい。政府は2024年度までの設置率25%を掲げたが、目標が低すぎないか。
横浜市では独自の補助金制度によって普及が進みつつある。それでも各家庭任せでは、地域全体の防火にはつながりにくい。自治会など地域ぐるみでの設置をぜひ進めたい。
対策が急務とされる南海トラフ巨大地震についても、政府の応急活動計画がまとまった。
発生から3日以内に自衛隊や警察など最大約14万人を太平洋側の10県に派遣する。食料や毛布など必需品6品目については、被災地の要請なしに輸送を始めるという。
東日本大震災では、広い地域が津波被害に遭った。交通事情などに左右され、自治体間で救援や救出の手厚さに差が出た。今回の計画は、そうした教訓を踏まえ作成された。
被災初期の段階での大量動員と支援物資搬入は、被災地にとって心強いだろう。計画では、けが人の救出や医療チームの派遣、物資の輸送など、陸地と空、海を交通手段とした支援の流れを時系列で想定した。
高速道路のサービスエリアなど防災拠点となる施設を選び、石油業界が系列を超えて協力し、救援に必要な燃料の補給も滞らない予定だ。
ただし、想定はあくまで想定だ。被災した後にスムーズに計画を運用するためには、継続的な訓練と計画の見直しが欠かせない。