東工大・細野教授ら、新規ルテニウム触媒によるアンモニア合成で緊急シンポ開催

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東工大 細野秀雄教授

東京工業大学が、2012年12月15日、「Beyond Haber-Bosch Process: アンモニア合成のブレークスルーを目指して」と題する緊急シンポジウムを都内で開催した(共催・科学技術振興機構(JST))。東工大フロンティア研究機構 細野秀雄教授と同大応用セラミック研究所 原亨和教授のグループが先ごろ発表した高活性なアンモニア合成触媒を中心に、これからのアンモニア合成技術と再生可能エネルギー社会の展望について、活発な議論が交わされた。

土曜開催だったが会場の野村コンファレンスホール日本橋には約300名の聴衆が集まった。このうち半数以上は関連企業からの参加者で、新規触媒によるアンモニア合成技術への産業界の強い関心を印象づけた。

アンモニア合成触媒のしくみ

今回のシンポジウムの中心テーマである新規アンモニア合成触媒は、石灰とアルミナから構成される化合物12CaO・7Al2O3(略称:C12A7)の構造中に電子を取り込んで「C12A7エレクトライド」とし、その表面にルテニウムのナノ粒子を担持させた物質である。C12A7エレクトライドの開発は細野教授が行い、原教授が中心となってこれをアンモニア合成用のルテニウム触媒として完成させた。

C12A7の結晶構造。C12A7エレクトライドでは、カゴの内部に酸素イオンの代わりに電子が入っている (出所:東工大)

現在、工業化されているアンモニア合成技術は、100年程前に開発されたハーバー・ボッシュ法を使用している。ハーバー・ボッシュ法が、200~1000気圧、400~600℃の高温高圧プロセスを用いるのに比べて、新規ルテニウム触媒によるアンモニア合成は低温低圧化が可能という特徴がある。具体的には、400℃以下の比較的低い温度と大気圧条件下でルテニウム触媒が効率的に作動するため、アンモニア合成にかかるエネルギー消費を小さくできる。

アンモニア(NH3)は、水素(H2)と空気中の窒素(N2)を反応させて合成する。

N2 + 3H2 → 2NH3

このとき、強く結びついた窒素の三重結合(N≡N)を解離させるために触媒の働きを利用する。新規ルテニウム触媒で使われているC12A7エレクトライドは、カルシウムとアルミニウムのカゴ状の結晶内部に電子が入った構造を持っており、このカゴから電子を出し入れすることで、窒素解離を促進する強力な電子注入効果が実現される。同時に、電子がカゴの中に入った状態であるため窒素やアンモニアと直接反応することがなく、材料としての化学的安定性が保たれるという特徴もある。

ルテニウム担持した各種触媒のアンモニア合成触媒性能(黒棒)と活性化エネルギー(赤棒)の比較 (出所:東工大)

圧力条件を変化させたときのアンモニア合成触媒性能 (出所:東工大)


触媒性能の指標として、新規ルテニウム触媒のTOF(Turn Over Frequency:触媒原子1個あたりの反応速度)を調べると、既存の触媒に対して1~2桁高い値を示した。また、活性化エネルギーは40~50kJ/molとなり、既存の触媒の1/2程度に下げることができた。つまり、新規ルテニウム触媒では、従来の10倍の速度と半分の活性化エネルギーでアンモニア合成反応を促進できることになる。

ルテニウム担持C12A7エレクトライド上でのアンモニア合成メカニズム (出所:東工大)

新規ルテニウム触媒のもう1つの特徴は、カゴ状の結晶構造の内部に電子だけでなく、水素イオン(H)を収納できることにある。通常のルテニウム触媒には、ルテニウム表面が窒素よりも水素と結びつきやすいという性質がある。このため、反応速度を上げようとして圧力を高めると水素分圧も上がり、ルテニウム表面が水素で覆われることで触媒としての窒素解離能力が落ちてしまう「水素被毒効果」が知られている。一方、新規ルテニウム触媒では、水素分圧が上がっても触媒性能が下がらないことが確認されている。ルテニウムを使っているにもかかわらず水素被毒効果が見られないのは、カゴ状構造の内部に水素イオンが収納されるためであると考えられるという。

触媒だけでないC12A7の応用可能性

C12A7は、炭酸カルシウムとアルミナを混ぜて焼結することで簡単に作ることができる。C12A7に金属カルシウムを添加すると、カゴ構造内に電子を取り込んだC12A7エレクトライドの黒い粉末が得られる。ただし、このままでは高い電子注入効果というC12A7エレクトライドの材料特性は発揮されない。カゴの部分が最表面に現れるように適切な表面状態を作ることで、はじめて電子の出し入れが効果的に行われるようになる。表面状態の観察は、走査トンネル顕微鏡(STM)を用いて行うことができる。表面状態の制御を精密に行えば、C12A7エレクトライドの性能を現在よりもさらに高められる可能性を示唆している。

C12A7エレクトライドの電子注入効果が利用できる分野は、アンモニア合成触媒だけに限らない。細野氏の最近の研究によると、有機ELの電子注入材料として使われているリチウム錯体をC12A7エレクトライド薄膜で代替することで高効率の有機EL発光が実現する可能性があるという。また、カゴから電子やイオンの出し入れできる性質を二次電池の電極材料に使うといった応用も考えられる。

液晶ディスプレイでの商用化を実現した酸化物半導体IGZOや、鉄系高温超伝導材料など、細野氏の研究領域は多岐に渡っている。アンモニア合成触媒もそうした領域横断的なアプローチの成果の1つといえる。今回のシンポジウムでも、細野氏は「研究者が自分の専門分野に籠らずに隣の領域にどんどん入っていかないと新しいものは生まれない」という考えを強調していた。

新しいアンモニア合成の実用化への課題

右手前から、モデレータの北澤宏一氏(JST)、パネラーの嘉藤徹氏(経産省)、細野恭生氏(千代田化工)、小島由継氏(広島大)、細野秀雄氏(東工大)、原亨和氏(東工大)、千葉泰久氏(宇部興産)

パネルディスカッションの部では、今回の触媒によるアンモニア合成を実用化していく上での課題などが議論された。

パネラーの一人、千代田化工建設の細野恭生氏からは、今回の新規触媒を現実のアンモニア量産プラントに適用した場合のエネルギーバランスに関する試算例の報告があった。アンモニア合成反応器の圧力を現状の150barから26barに下げると仮定すると、低圧化によって原料ガスの昇圧プロセスにかかる投入エネルギー0.65(単位:Gcal/t-NH3)が0.1程度に減るというメリットがある。しかし、合成したアンモニアガスを冷却して液化するプロセスを考えると、高圧ガスでは冷却水を使って液化できるのに対して、低圧ガスの液化には冷凍システムが必要となる。冷凍システムで-30℃程度まで冷却すると1.0程度の熱量が必要になり、冷却水による高圧ガスの冷却に要する熱量0.3程度から逆に投入エネルギーが増えてしまう。結局、反応セクション全体での投入エネルギーを合算すると、高圧プロセスの0.51が低圧化することによって0.76程度まで増えてしまうという試算となった。また、プラントの設備コストについて考えると、触媒の高活性化によって反応器を小型化できるが、低圧化は逆に反応器や周辺機器の大型化につながるとの指摘もあった。

ハーバー・ボッシュ法による高温高圧でのアンモニア量産プラントは、100年の歴史の中で確立された技術である。新規ルテニウム触媒の特徴である低温低圧プロセスでこれを単純に代替しても、すぐに省エネルギー化が図れるわけではないことが分かる。工業的な実用化を行う上では、既設プラントとの調和も含め、反応器や冷凍システム、周辺機器などのトータルな技術革新を進めていくことが不可欠であると考えられる。

一方、プロセス低圧化という特徴からは、小規模・分散型サイトでのアンモニア合成という従来にない新たな用途の可能性も出てくる。科学技術振興機構前理事長 東京大学名誉教授の北澤宏一氏からは、新規ルテニウム触媒について「常温常圧で使えるのであれば、家庭菜園やビニールハウスでアンモニア合成ができる。個人が自前で肥料生産するのに最適」とするコメントもあった。

こうした発想の延長線上に、再生可能エネルギーの貯蔵媒体としてアンモニアを利用する社会を思い描くこともできる。太陽光や風力などの自然エネルギーで発電した電気で水を電気分解して水素を生成し、これを大気中の窒素と反応させれば、アンモニアが合成できる。広島大学 先進機能物質センター教授 小島由継氏は、アンモニアについて「体積あたりの水素密度が最大となる水素化物であり、水素放出に必要なエネルギーが有機ハイドライドの半分以下で済む優れた水素キャリアである」と指摘する。

新規ルテニウム触媒が本当の意味でハーバー・ボッシュ法を超えるインパクトを持つのは、エネルギーをアンモニアの形態で保存し燃料電池用の水素生成に使用したり、あるいはアンモニア発電所で直接燃焼させることで、二酸化炭素の排出がないクリーンなエネルギー循環が実現するときかも知れない。

(取材・執筆 / 荒井聡)

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