2015-04-01 出版状況クロニクル83(2015年3月1日〜3月31日)
■[出版状況クロニクル]出版状況クロニクル83(2015年3月1日〜3月31日)
出版状況クロニクル83(2015年3月1日〜3月31日)
15年2月の書籍雑誌の推定販売金額は1477億円、前年比3.5%減。その内訳は書籍が同5.1%減、雑誌が1.6%減。雑誌のうちの月刊誌は1.1%増だったが、週刊誌は12.6%減と大幅に減少。
返品率は書籍が34.0%、雑誌が38.5%と雑誌のほうが高いままで推移していて、それが今後常態化していくかもしれない。
これも繰り返し言及しているが、月刊誌にはコミックとムックが含まれているので、コミックの返品率の低さを考えると、月刊誌とムックが月を追うごとに売れなくなり、それらの返品が止まらないことを示している。
雑誌によって支えられてきた近代出版流通システムの危機は深まっていくばかりで、それは今回本文に記したように、出版社、取次、書店の共通認識になっているにもかかわらず、再販委託制から一歩も踏み出せないことが、出版業界の宿痾ともいうべき問題であろう。
1.前回の本クロニクルで既述しておいたように、リブロ池袋本店は7月末までに閉店すると公表。
[この閉店に関する新聞報道などは、ほとんどが3月4日のリブロのプレスリリースをなぞったもので、独自の取材や調査によるものでないといっていい。
出店契約終了、代替店舗検討中といったコメントは、閉店情報とともにマニュアル対応例として伝わってきていたもので、とても額面どおりには受け取ることができない。
西武百貨店にしても、リブロに代わる千坪の書店テナント誘致は容易ではないだろうし、リブロにしても、売上の2割近くを占める本店にして年商37億円の旗艦店を失うことはイメージ的にも大損失である。それらを冷静に考慮すれば、西武、リブロ、親会社日販の様々な事情と要因がクロスし、今回の閉店に至ったと考えるほうが妥当であろう。
前回、本クロニクルがリブロ池袋本店閉店を発信したのは、これが現在の出版危機下における象徴的事件と見なせるからだと書いておいたが、ここでさらに補足しておこう。
この情報が寄せられてきたのは2月20日頃で、本クロニクル更新後に、自分も知っていたけれど、このようなことを公表するのは非常識だという出版社や書店のツイッターも目にした。これらの事実からすれば、閉店情報は業界紙も含めて、出版業界にかなり広まっていたと考えられる。しかしそれに対して、リブロではないけれど、出版業界もまた箝口令がひかれたかのように、誰もが発信せず、10日ほどが過ぎていたことになる。したがって、もし本クロニクルが伝えなければ、リブロの公表は間違いなくさらに遅くなっていたことだろう。
そのような中で、本クロニクルがあえて発信したのは二つの理由がある。ひとつはこの事実をリブロ関係者全員がまだ知らされていないのではないか。それは今後のリブロのリストラ問題にも波及していくのではないかということ、もうひとつは数ヵ月後に出版社に大返品が押し寄せてくることを、早く伝えなければと思ったからだ。前者については説明するまでもないが、後者についてはおそらく10億円ほどの返品が生じることになり、それが毎月のその他の閉店の書店の返品とダブるわけだから、通常月の2倍以上の返品があることを覚悟するべきなのだ。それは出版社の資金繰りを直撃し、ただでさえ資金的にタイトになっている出版社を疲弊させることになろう。それを昨年のトーハンの大返品によって経験したばかりである。
現在において、大半の出版社は返品をダイレクトに受けておらず、倉庫会社へと戻るので、大手出版社のみならず、中小出版社にしても、返品問題に鈍感になっている。だが大型店の閉店による大量返品は取次以上に出版社を直撃することを、あらためて認識すべきだ]
2.『週刊ポスト』(3/27)がトップ記事として、「『米ネットTV』上陸で日本のテレビ局が全滅する!?」を掲載している。
[これも同じく前回の本クロニクルで取り上げたネットフリックスに関する、初めての包括的、啓蒙的な紹介記事である。
前回と重複してしまうが、もう一度紹介すれば、ネットフリックスは映画やドラマをインターネット配信する米ネットTVの最大手で、今秋 日本でもそのサービスを開始する。これは月額千円ほどの料金で、ハリウッド映画やテレビドラマなどの10万本、それに日本の映画やドラマも加え、いつでも好きなだけ自分の都合で見放題に映画やドラマを観ることができるものだ。まさに日本のテレビ局にとって「黒船来襲」で、電波利権にあぐらをかいてきた日本の「テレビ60年体制」の終焉を迎えるかもしれない。それを告げるように、今春 発売された東芝やパナソニックの新型テレビのリモコンには今までの「地上波」「BS」「CS」に加え、もうひとつのボタン「ネットフリックス」が付いているようだ。
この『週刊ポスト』の記事は日本のテレビ局へのドラスチックな影響を予測しているが、それに次いで大きな波紋をもたらすのは、TSUTAYAを始めとする複合型書店であることは確実であろう。またそれをまったく視野に含まずにこの記事が組まれたことによって、よりリアルになっている。
今世紀に入って大型化した書店の大半は複合店であり、それは日販、MPDを取次とするDVDレンタルを兼ねるCCC=TSUTAYAチェーンに象徴されていた。大型店アイテムはレンタルと出版物販売の組み合わせによって、かろうじて稼働してきたが、ネットフリックスが日本においてアマゾンのように成長すれば、CCC=TSUTAYAのビジネスモデルはもはや成立しないし、駆逐されることになろう。ネットフリックスはテレビ局だけでなく、DVDレンタル市場をも直撃する。出版業界のかたわらで、CCC=TSUTAYAとゲオが成長を遂げてきたが、いよいよ衰退の時代を迎えることになるかもしれない。それは第三商品を推進してきた日販やトーハンをも巻きこむことになろう。
明らかにネットフリックス上陸を意識し、CCC傘下のT‐MEDIAホールディングスが映像配信サービス「TSUTAYA TV」を開始し、月額三千円から四千円で、映画やドラマが20本無料と新聞に一面広告を打っている。
だがその広告と『週刊ポスト』の記事におけるネットフリックスの迫力の差は歴然で、ネットフリックスは様々な方面にとっての黒船兼台風の目のようにして、今秋に日本へと来襲してくることになる]
3.『新文化』(3/5)が「文具・カフェで成功する複合化とは?」との大見出しで、トーハン複合売場開発部の醍醐貴広部長に聞いている。要約してみる。
* 5坪から70坪ぐらいの規模で文具、雑貨を展開したいという相談が多くなり、手がけている案件は50店舗以上になる。
* それらのモデルは次の4つである。
1 & DeLi(アンドデリ)/10〜20坪で輸入菓子、文具・雑貨を扱う売場
2 style F(スタイルエフ)/15〜20坪で、「日本の暮らし」などをテーマとする文具・雑貨のセレクトショップ。ふたば書房と共同開発した売場。
3 nota nova(ノータ・ノーヴァ)/60〜150 坪の大型文具・雑貨売場。カフェ事業とのジョイントパターンもある。
4 add文具/5坪程度で定番文具を中心とする売場。
1 と2 は実質的にトーハンが投資とする代理店メニューで、2、3年後の投資と回収を目途としているので、書店との契約は1年と設定しているが、成果を上げられない場合も少なくない。
いずれも坪当たり在庫は80万円で、買切、粗利40%。
* カフェ事業の「カフェnota nova」は35坪で50〜60席、50坪で70〜80席。その初期費用は2000万円台で提案する。チェーン店とのコラボの場合は5000万円はかかる。
* 大型の文具・雑貨売場やカフェの場合、書店との兼任は難しく、担当責任者が必要となる。
* これらの複合化は書店の売上と集客を挙げるためのもので、1〜4を100店以上出店することになっている。
[はっきりいってしまえば、バブル的に大型化した書店がDVDレンタルの後釜に文具・雑貨、カフェ事業を考えるしかない状況に追いやられている状況を浮かび上がらせている。もはや出版物売上だけではテナント料が払えなくなっているし、取次にとってもレンタル事業の限界が認識されているのだろう。日販にしてもオリオン書房ノルテ店内にカフェ「本棚珈琲」をオープンしたばかりだ。
しかし文具・雑貨、カフェ事業にしても、初期投資は高額で、書店の中型店出店と同様の経費を要するのである。再販委託制にどっぷりつかってきた取次や書店に、このような他の事業の成功の確率は低いことだけは誰の目にも明らかなように思われる]
4.名古屋ちくさ正文館の2 階に古書店シマウマ書店が出店。
[これも新刊書店の複合化の動きのひとつであり、古書とのジョイントは初めてのものではないが、他ならぬ「出版人に聞く」シリーズの古田一晴『名古屋とちくさ正文館』の試みなので、私も近いうちに訪れてみたい。
今年に入って、古本屋の閉店も増えているようで、名古屋でも神無月書店やイマジン・スペース・真理の実店舗閉店が伝えられている。
また読むのが楽しみであった『古本倶楽部別冊・お喋りカタログ』を出していた中野書店の中野智之が亡くなり、その遺稿集として『古本はこんなに面白いー「お喋りカタログ」番外編』(日本古書通信社)が刊行された]
5.紀伊國屋書店とDNPが印刷から販売までの出版流通の構造改革を実現するための合弁会社出版流通イノベーションジャパンを設立。出資金は1億円で、両社の出資比率は5対5で、代表取締役社長は高井昌史紀伊國屋社長。代表取締役は北島元治DNP常務。
新会社は紀伊國屋新宿本店に事務所を置き、その概要はネット書店のサービス強化、読者が使いやすいポイントサービスの強化、仕入れ・物流業にシステムの共有・合理・効率化、両社が持つ海外リソースを活かした新ビジネスモデルの構築、リアル書店とネット書店の相互連携の5点を調査・研究していくとされる。
[再販委託制による近代出版システムの実質的崩壊と書店の危機、アマゾンの成長と出版物シェアの拡大、スマホの出現がもたらした読書時間の減少に加え、まったく出版流通に関する構造改革がなされないことに対して、紀伊國屋と丸善CHIグループを傘下に置くDNPが一歩踏み出したと考えるべきだろう。
出版社、取次に対して、まずはバイイングパワーの提示ということになる。2015年の紀伊國屋売上高は1067億円、丸善CHIホールディングスの連結売上高は1688億円、両社で2755億円で、これは14年出版物推定販売金額1兆6064億円の17%に当たる。
他の物販において、これだけの売り上げシェアを占めれば、価格決定権も得て、それこそ流通革命=「出版流通イノベーション」を実現することが可能だが、出版業界にあっては困難だというしかない。出版社のみならず、出版業界の中枢を占めている書協に「出版流通イノベーション」への意志がまったく見られないからで、それは『出版ニュース』(3/下)掲載の書協の15年度事業計画にも明らかだ。
それゆえにせっかく出版流通イノベーションと命名した新会社が設立されたわけだから、その手始めに、書協と再販委託制の是非をめぐる真剣な公開討論の場を設けることをお勧めしよう。ただしシンポジウムは単なるパネラーの総花的アリバイ工作に終わってしまうので、それは不可である。
だがこのようなかたわらで、中小書店の閉店は相変わらず続いていて、横浜のブックス玉手箱が閉店、札幌の大志堂の自己破産が報じられている。前者は店主の急死によるもので、シャッターに「厳しい書店環境の中で長時間ご無理をされていたのでは。大変お疲れさまでした」という追悼メッセージが貼られていたという]
6.講談社の決算が発表された。売上高は1190億円、前年比1.0%減で、微減収減益。
その内訳は雑誌719億円、同1.2%減で、そのうちの一般雑誌は166億円、同7.0%減、コミックは553億円、0.7%増。書籍は213億円、同16.3%減。
野間省伸社長は決算報告会で、「いままでは作ったコンテンツがほぼ自動的に読者に届いていたが、その出版システムは急速に崩壊しつつある」とし、従来の27局4室から12局2室という大幅な組織変更を発表した。
[出版物売上において、書籍の落ちこみは最悪で、雑誌にしてもコミックに支えられ、微減だったことがわかる。しかも書籍と一般雑誌売上高合計は379億円であるから、コミックの553億円をはるかに下回り、講談社もまた総合出版社というよりも、コミックに依存する出版社であることが明らかだ。それはまた日本の現在の出版業界そのものがコミックにベースを置き、稼働していることを示していよう。
それをふまえれば、野間発言はコミックを除いて、「出版システムは急速に崩壊しつつある」と判断すべきだろう。それゆえに急務なのは書籍のトータルな出版システムの改革だが、その代わりに講談社の組織変更が行なわれたことになる]
7.ハースト婦人画報社と講談社が業務提携し、定期刊行誌14誌やムックなどのハースト婦人画報社の発行全出版物を講談社が販売。つまりハースト婦人画報社発行、講談社発売となる。
[これは講談社の初めての他社受託販売で、ハースト婦人画報社と競合誌はなく、理想的なラインナップとなり、ハースト婦人画報社にとっても、シナジー効果のある戦略的業務提携とされる。
それを補足すれば、講談社にとっては売上高への貢献、ハースト婦人画報社にとっては販売・流通コストの削減と正味メリットが考えられる。また講談社への会社売却も視野に入れての戦略的業務提携ではないだろうか。
また講談社は100%出資の新会社講談社学芸クリエイトを設立。人文系の書籍・雑誌をメインとする編集プロダクションで、当面は講談社の選書メチエや学術文庫の編集を手がける。こちらは不採算部門の分社化ともいえよう]
8.『出版月報』(2月号)が特集「コミック市場2014」を組んでいるので、コミックス、コミックス雑誌の売上推移を示す。
■コミックス・コミック誌の推定販売金額 (単位:億円) 年 コミックス 前年比 コミック誌 前年比 コミックス
コミック誌合計前年比 出版総売上に
占めるコミックの
シェア(%)1997 2,421 ▲4.5% 3,279 ▲1.0% 5,700 ▲2.5% 21.6% 1998 2,473 2.1% 3,207 ▲2.2% 5,680 ▲0.4% 22.3% 1999 2,302 ▲7.0% 3,041 ▲5.2% 5,343 ▲5.9% 21.8% 2000 2,372 3.0% 2,861 ▲5.9% 5,233 ▲2.1% 21.8% 2001 2,480 4.6% 2,837 ▲0.8% 5,317 1.6% 22.9% 2002 2,482 0.1% 2,748 ▲3.1% 5,230 ▲1.6% 22.6% 2003 2,549 2.7% 2,611 ▲5.0% 5,160 ▲1.3% 23.2% 2004 2,498 ▲2.0% 2,549 ▲2.4% 5,047 ▲2.2% 22.5% 2005 2,602 4.2% 2,421 ▲5.0% 5,023 ▲0.5% 22.8% 2006 2,533 ▲2.7% 2,277 ▲5.9% 4,810 ▲4.2% 22.4% 2007 2,495 ▲1.5% 2,204 ▲3.2% 4,699 ▲2.3% 22.5% 2008 2,372 ▲4.9% 2,111 ▲4.2% 4,483 ▲4.6% 22.2% 2009 2,274 ▲4.1% 1,913 ▲9.4% 4,187 ▲6.6% 21.6% 2010 2,315 1.8% 1,776 ▲7.2% 4,091 ▲2.3% 21.8% 2011 2,253 ▲2.7% 1,650 ▲7.1% 3,903 ▲4.6% 21.6% 2012 2,202 ▲2.3% 1,564 ▲5.2% 3,766 ▲3.5% 21.6% 2013 2,231 1.3% 1,438 ▲8.0% 3,669 ▲2.6% 21.8% 2014 2,256 1.1% 1,313 ▲8.7% 3,569 ▲2.7% 22.2% [14年のコミックス、コミックス誌合計推定販売金額は3569億円、前年比2.7%減と16年連続減だが、これはコミック誌の落ちこみによるもので、コミックは同1.1%増と2年連続プラス。
それと関連して、14年の特筆すべき現象はコミック販売部数が4億4038万冊と、コミック誌の3億9755万冊を初めて上回ったことである。売上比も63.2%対36.8%。コミックス新刊点数は1999年の7924点に対して、14年は1万2700点と4800点近く増えているが、返品率は上がったとはいえ28.4%であり、他の分野に比べ、健闘しているといっていい。
それゆえに7 で先述したように、日本の出版業界は講談社と同様に、コミックによってかろうじて支えられているといって過言ではない。したがってコミックの電子書籍化が何をもたらすかは火を見るより明らかであろう]
負債は関連会社と合わせ、26億円。14年売上高は12億円だったが、多額の負債と出版物売上の落ちこみにより、今回の処置に至ったとされる。美術出版社単体の負債は債権者550人に対して、19億5000万円。
同社は1905年に美術雑誌『みづゑ』を創刊して始まり、戦後は『美術手帖』を中心にして、美術、デザイン、建築書などの多くの名著を刊行していた老舗出版社。
[講談社の創業が1909年だから、美術出版社が老舗であることがわかるだろう。私たちの世代にとって、美術出版社は美術選書やA5判の箱入美術書の読書体験が共通するもので、現在でもそれは色褪せることのない記憶として残っている。だがそれをもたらした出版社は次々と退場へと追いやられていく。
美術出版社の一冊だけを挙げるとすれば、ルネ・ホッケの『迷宮としての世界』(種村季弘、矢川澄子訳)ということになろうか]
10.雑協、取協、印刷工業会、東京都トラック協会などによる出版物流協議会が開かれ、出版物の配送がいつストップするかわからない状況が報告された。
2004年に21億6300万トンあった出版物総重量が13年に14億トンまで減少したこと、それにドライバー不足も重なり、出版物流もまた深刻な状況に陥っているのである。
取協によれば、その原因は出版物の業量減少、慢性的ドライバー不足の他に、コンビニを中心とした配送時間制約店の増加と燃料代の高止まりが指摘されている。
また実際に配送を担う東京都トラック協会出版取次専門部からは、業量に応じた弾力的な輸送、コストに見合った運賃の設定、関係者間の連携強化を図ることが先決だとの意見が出されている。
[本クロニクル79 などで、コンビニの出版物売上高の落ちこみにふれ、最も売っているセブン‐イレブンにしても、月商40万円、日商にして1万3000円で、これでは取次の流通コスト、つまり運賃すらも吸収できないのではないかと既述しておいた。
まさにそれが現実となっているのであり、取次によるコンビニ出版物流通が困難になり始めている状況が伝わってくる。出版危機は物流にも反映されてきているし、印刷業界もまたしかりであろう]
11.楽天が、アメリカの公共図書館など3万を超える施設に電子書籍を配信するオーバードライブ社を4.1億ドル(500億円)で買収。同社は北米を中心に5000出版社が提供する250万超のタイトルを取り扱うとされる。
楽天はオーバードライブ社を傘下にすることで、アメリカでのkobo事業の電子書籍販売、専用端子の拡大を図り、オーバードライブ社は海外展開を加速させる。また電子書籍に関して、koboが購入、オーバードライブが貸出配信を担うとされる。
[本クロニクル48 でもふれてきたが、楽天のkobo事業はスマホの急速な普及もあり、専門端末が売れず、年間数十億円に及ぶ累積赤字の解消はもはや不可能だとも伝えられている。
今回の買収は日本の公共図書館が対象となっているとも考えられず、楽天のアジア進出のためのメニュー揃えのためであり、koboに続き、500億円の買収は高い買物になるのではないだろうか]
12.JPOが「リアル書店での電子書籍販売実証事業(BooCa)調査報告書」をホームページで公開している。
それによれば、2014年6月から11月にかけて、参加書店4店が販売した電子書籍(BooCa=カード)と端末(kobo、,Lideo)は前者が1358枚、その内訳は書籍が1154枚、コミックが204枚で、後者は288台。
[本クロニクル70 で、『FACTA』の「ネットに対抗する出版流通界の浅知恵。経産省の委託事業だが、失敗必死の愚の骨頂」というリードの記事「電子書籍を本屋で売る『アホ実験』」を紹介しておいたが、それを証明するような結果となっている。
一店当たりの半年間の販売は、電子書籍が340点、端末に至ってはわずか72台、つまり電子書籍は一日に2点も売れず、端末は1ヵ月で12台であり、まったく売れていないといっていい。
まさに「リアル書店での電子書籍販売実証事業」は「アホ実験」に他ならなかったことが明らかで、電子書籍がリアル書店の活性化に結びつくことは絶対にありえないことを知らしめている。これもまた「緊デジ事業」と同様に、税金の無駄遣い以外の何ものでもない。
この経産省とJPOの「アホ実験」を、楽天が事業の運営会社として継続するということは、楽天の電子書籍事業の将来と行方を告げているように思われる]
13.平成27年度税制改正の大綱が閣議決定され、これまで免税となっていたアマゾンなどの海外電子商取引事業者に対する消費税が10月1日から課税されることになる。
[アマゾンが消費税を納税していないことに関しては本クロニクル71 などでも言及してきたし、書協や雑協を主とする9団体が「海外事業者に公平な課税適用を求める協議会」を組織して訴えてきていた。
ただ今回の閣議決定を新聞報道で読む限り、それがアマゾンの電子書籍・音楽・広告配信だけへの課税なのか、全書籍・雑誌に及ぶものなのかは判然としない。そこで出版協会長の緑風出版、高須次郎に確認したところ、これは電子書籍だけへの課税で、紙の書籍、雑誌には適用されないとのことだった。それは何も変わらないのだ]
14.『文学界』(4月号)が特集「『図書館』に異議あり!」を組んでいる。リードは「本来、図書館は、長く読み継がれるべき本や、個人では購入しにくい高価な書籍を所蔵し、活字文化の基盤であるべきではないだろうか?」
内容は日本文芸協会によるシンポジウム「公共図書館はほんとうに本の敵?」の収録と与那原恵による、武雄図書館に関する現場ルポ「『民営化』の罠」。
[このシンポジウムや武雄図書館については 本クロニクルでも続けてふれてきたので、これ以上の言及はしない。
ただこの日本文芸家協会、作家や著者、出版社側からの図書館批判に対して、公共図書館からの反論と意見も出されている。それは「元国分寺市立本多図書館長、特定非営利活動法人共同保存図書館・多摩理事」、堀渡の「公共図書館と出版界の関係をねじらせるな―シンポジウム『公共図書館』はほんとうに本の敵?』を聞いて考えた」(『出版ニュース』3/上)である。名前に比べて、肩書とタイトルの長さにうんざりしてしまうが、両者を読むと、これもまた「ねじれ」が紛れもなく伝わってくるので、シンポジウム参加者たちは一読すべきだろう]
15.水声社の新刊、パトリック・モディアノ『地平線』(小谷奈津子訳)を紹介しておく。
[モディアノがノーベル賞を受賞したことで、これまで未訳だったものが刊行されるようになってきた。それはこれからも続くだろう。
今回、この『地平線』を挙げたのは、この小説の主人公の男女がいずれも書店員だった経歴を持ち、それが物語を彩る伏線ともなっているからである。
その中に「いつまで書店はやっていけるのだろう?」というモノローグが見出され、日本の書店状況をもオーバーラップさせてしまった。
なおモディアノに関しては、本ブログ「混住社会論」67 で『1941年。パリの尋ね人』についても書いているので、よろしければ参照されたい]
16.「出版人に聞く」シリーズ〈17〉の植田康夫『「週刊読書人」と戦後知識人』は遅れてしまい、4月中旬刊行となる。
《既刊の「出版人に聞く」シリーズ》
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