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【社会】

杉並科学館 実質閉館に 来月から指導員不在

保護者向けの理科移動教室の実験で、流水のはたらきを観察する参加者ら=東京都杉並区で

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 ノーベル物理学賞受賞者の小柴昌俊さんが名誉館長を務め、学校外の科学教育の先駆けとなった東京都杉並区立科学館が、行財政改革の一環で四月から指導員不在となり、事実上「閉館」になることが分かった。区は老朽化などを理由に二〇一五年度末で施設を廃止し、跡地に特別養護老人ホーム整備を検討。区民や科学系の学術団体などは存続を要望し、「やり方が強引」との声も上がる。 (石原真樹)

 「わあ、すごい」。三月初め、科学館で開かれた保護者向けの「理科移動教室」。流水の働きを学ぶ実験で、砂場で水をせき止めていた板を指導員が外すと、川筋に沿って水が勢いよく流れ、歓声が上がった。

 保護者向けの教室は、子どもたちが普段学んでいる内容を知ってもらおうと年三回開催。区民の豊川宜江さん(54)は「小学六年の息子から『科学館の実験は学校と違う』と聞いていた。面白い」と感心する。

 移動教室は区内の小中学生が理科授業の一環で来館し、流水や液体窒素を用いた実験、プラネタリウムなど学校では難しい学習を体験する。一三年度は計六十五校の延べ一万九千二百六十人が参加。年間の来館者は約三万三千人に上る。

 一九六九年の開館当時、小中学校では理科室の設備や資料などが不十分なことが多かった。館は独自教材を開発し、教員実技研修も実施。いち早く理科教育の充実に努め、国内の同様の施設をリードしてきた。

 日本地質学会元理事の高木秀雄早稲田大教育学部教授は「実験や観察の授業を一手に担う、当時国内では他にない施設だった。流水実験場などの設備や専門スタッフのノウハウもあり、もったいない」。豊川さんも「理科好きの子のよりどころをつないで」と願う。

 区は昨年春、学校理科室が整備されたことなどを理由に、区の施設の再編整備計画で科学館廃止の方針を表明。区民からは「伝統ある科学館の存続」を求める声が多数寄せられ、自然史学会連合や日本天文学会、日本地質学会も存続の要望書を出した。

 しかし区は、一四年度末で理科移動教室などの主な事業やプラネタリウムの終了を決定。不要になった指導員十六人も置かないこととした。学校の教育支援機能などは他の施設へ引き継ぎ、区は「理科や科学の予算は削らない」とする。

 横田政直区議(日本を元気にする会)は「科学館だからこそ全国から集まった優秀なスタッフが、離れてしまう」と危惧。「住民も(閉館方針を)知らないという人ばかり。区民に愛されてきた施設なのに周知がない」と批判している。

 ◇ 

 科学館では二十八日まで「サイエンス・ウィーク春」と題し、講座やプラネタリウム上映がある。問い合わせは同館=電03(3396)4391=へ。

<杉並区立科学館> 小中学校の理科学習支援を目的に区立科学教育センターとして1969年に開館。2002年に区立科学館に改称し、区民向け講座も充実させた。地上4階地下1階。プラネタリウム、実験室、天体観測室、生物・物理・気象の展示室、地震観測センサーのほか、名誉区民の小柴さんの生い立ちや研究紹介の展示もある。

 

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