演繹的か、帰納的か――
聞き手の文化でプレゼンを変えよ

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人々の思考様式は、育った文化圏によって演繹的か帰納的かに大別されるという。前者は物事の原理を追求し、後者は事例から逆算する。この傾向を意識すれば、異文化におけるプレゼンに役立つかもしれない。

 

 14年前に私(INSEAD教授)がシカゴからパリに移り住んだ時のことだ。フランスで初めて企業幹部向けの研修会を行うにあたり、プレゼンテーションの説得力をできる限り高めるために周到に準備をした。要点の説明を練習し、想定される質問に備えた。

 セッション当日。米国で長年にわたり研修の成功経験を積んでいた私は、その過程で学んだ教訓に従ってプレゼンを行った。最初に要点を説明したのちに、戦略と事例を紹介し、今後取るべきステップへと話を進めた。

 だがそれまでの経験とは異なり、聴衆の反応は思わしくない。間もなく1人が手を挙げて質問した――「これらの結論に達した根拠を教えてくれませんか。先生は、ツールと推奨されるアクションを示してくださいましたが、それが導かれた過程については十分な説明がありませんでした。調査対象者は何人で、どういう質問をしたのでしょうか」。矢継ぎ早に2人目の質問も飛んできた――「データの分析にはどんな手法を使ったのか、そこからどのようにこれらの見解が導かれたのかを、説明してください」

 プレゼンを中断させたこれらの質問は、場にふさわしくなく、尊大にすら思えた。どうして彼らは、話の信ぴょう性を確かめる必要があると感じたのだろう? 当時の私はそう首をかしげた。プレゼンの内容は実践的ですぐに実行でき、しかも興味をそそるものであったと自負している。一方、フランスの聴衆からの質問は非常に概念的であった。私が必要な時間をかけて回答しようものなら、彼らはきっと眠り込んでしまうだろう。

 そこで私は、「提案を裏づけた方法論は妥当であり、入念なリサーチに基づくものです」と断言した。「よかったら休憩時間中に詳しくお話ししましょう」と言って、プレゼンの結論、ツール、事例の説明に話を戻した。

 この後、事態はさらに悪化したとだけお伝えしておこう。

 障壁となったのは、私が「原則第一の思考法」と呼ぶものであった。これは「演繹法」とも呼ばれ、結論や事実を一般的な原則や概念から導く思考法だ。演繹的な文化圏(フランス、スペイン、ドイツ、ロシアを含めたくさんある)の人々は、出された提案や要求を行動に移す前に、その背景にある「why(なぜ)」を理解したがる傾向にある。

 これに対し、アメリカ人である私は「適用例第一の思考法」、つまり「帰納法」にどっぷり浸かって生きてきた。ここでは一般的な結論は、実世界で観察された事象のパターンから導かれる。帰納的な文化では、「why(なぜ)」よりも「how(いかにして)」に重点が置かれる傾向にある。私は後年、人が他者に影響を及ぼす方法は文化によって異なるのだと理解していく過程で、典型的なアメリカ式のプレゼンがヨーロッパ人の目にどう映るかを示す実例を数多く耳にした。

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