突然ですが、リトルプレスという本をご存知ですか? リトルプレスとは、個人や団体が制作から流通までを手がける冊子のことで、別名を小出版と言ったりします。
販売地域や流通チャネルが限定されていることも多いため、リトルプレスを探したいと思っても口コミや偶然の出会いに頼りがち。とは言え、リトルプレスはここ数年でじわじわと発行部数や媒体数を増やしている、今注目の本です。
そんなリトルプレスを豊富に揃えるのが、誰もが名を知る大型書店・ジュンク堂書店 池袋本店です。150種類を越えるリトルプレスを取り揃える雑誌コーナーの担当者・小高聡美(こだか さとみ)さん(以下、小高)に、その魅力をうかがいます。
- 【リトルプレス】「PERMANENT」が紡ぐ、考え、食べ、生きるためのヒント
- 【地域文化誌】わたししか知らない地元の魅力を「津和野時間」から
- 【地域文化誌】「悪くない」。それが盛岡の魅力です -ミニコミ誌「てくり」-
- 【フリーペーパー】「鶴と亀」イケてるじいちゃんばあちゃんならココにいるよ
都心に店を構える大型書店の役割とは
小高 ジュンク堂書店 池袋本店は専門書を扱う書店です。人文書や医学書、学術書など、様々な種類の本を幅広く扱うことが基本で、地下1階から9階のフロアはそれぞれが役割も雰囲気も、お客様の層も異なります。ですから、小さな書店が10店舗共存しているようなイメージと言ってよいかもしれませんね。
どのフロアにも共通して言える大切なことは、「欲しい時に欲しい本があること」。例え3年に1回しか売れないような専門書でも、いつお客様が必要になるかは私たちには分かりません。在庫を切らさないことが私たちの役割ですし、雑誌ならバックナンバーを取り揃えることも重要だと思っています。
けれど、今はインターネットで本が買える時代です。かく言う当店も、オンラインストアを設けています。本は基本的に同じ値段で同じものを販売しているため、当店ではバックナンバーの在庫量や、リトルプレスの取り扱いなどに注力して他店との差別化を図っています。
でも実は、私個人としてはこのお店はもっと開かれた空間であってほしいと思っています。どういう意味かと言うと、今この世の中で、本屋ほどオープンな空間ってないかなと思っていて。本を買い求めに来る以外にも、もっとフラットな気持ちでお店に寄っていただいて「今日は天気がいいですね」とか「元気ですか」とか、日常の会話ができるお店でありたいなと思っています。
寂しいことですが、今世間では孤独な人が増えていると言われています。独りで住んで、独りでご飯をいただいて。そういった暮らしの中で、彩りを加えてくれるのは本だったりしますから、それに出会える空間も、もっと身近なものであってほしいんですよね。
書店員は最後の編集者。恩返しのつもりで本を売りたい
小高 書店で働いている理由ですか? それはもう、本が大好きだからですね。
私はこのお店の雑誌コーナーの担当になって10年が経ちますが、私自身が雑誌に育ててもらった最後の世代だと思っていて。そして、私はその本の最後の編集者でもあります。作り手の想いを、しっかりと読み手の方に届けるための最後の編集です。
その編集は棚に置く位置だったり、取り扱う部数だったりしますが、ただ売るというよりも作り手の人と一緒に売りたい。そのために最善の働き方をしたいと思って日々心を込めて本に触れています。
作り手と読み手がしっかりと握手しているリトルプレス
だからこそリトルプレスの販売位置は、実は雑誌コーナーの一番奥に設置しています。
もちろん、一番目立つ入り口近くの棚に並べることもできますが、リトルプレスはざわざわした場所よりも、1人で静かに向き合える場所で手にとっていただきたいなと思っているからです。
リトルプレスは、一般的な雑誌とはやはり少し違います。個人で出版されている方もいらっしゃいますし、編集部を設けたり団体で発行されたりしている方など、制作体系はバラバラですが、基本的には作り手と読み手がしっかりと握手しているという共通事項があると思っています。
私たち雑誌コーナーの人間が担っているのは、そのリトルプレスとの出会いの場の提供することです。そもそも発行部数が少なかったり、流通地域が限定されているものも、当店では取り扱っていることがあります。探し方は本当にケース・バイ・ケースですね。日頃の暮らしの中で新しいリトルプレスを発見したらまず自分で購入して、読んで面白いと思ったら仕入れたいと打診したり。
あとは、当店がリトルプレスの取り扱いに力を入れていることをどこかから聞いて、「この冊子を置いてほしい」とご相談いただくこともあります。嬉しいのは、この売場でリトルプレスに出会ったことをきっかけとして、そこから自分でもリトルプレスを作ってみましたという人の話を聞けること。
リトルプレスは、誰もが作り手になり得る媒体だということも魅力の1つかもしれないですね。
リトルプレスは第3のフェーズを迎えている
小高 今、リトルプレスは第3のフェーズを迎えつつあると思っています。
第1フェーズはリトルプレスが誕生したと言われる2005年頃。
第2フェーズは当店がリトルプレスのフェアを始めた2009年頃。私の先輩方が「リトルプレスというおもしろい冊子がある」とフェアを組んだのがきっかけで当店でも取り扱いを始めました。当初は雑誌に混ぜて販売していたのですが、徐々に規模を大きくして専用棚を設けるまでになりました。
そして2015年を迎えた今が、リトルプレスでご飯を食べていける人が現れたという、第3のフェーズです。
出版業界は右肩下がりの一途をたどっていると言われていますが、近年生まれたリトルプレスという小出版が、新しい生業として成立しつつあるということは大きな変化だと思っています。
もちろん、リトルプレスという媒体は、ただ飛ぶように売れればいいというわけではないと思っています。作り手の方も、売れることだけを主目的に置いている人は少ないのではないでしょうか。でも、やっぱり届けたい人に届くという意味で、売れることは素晴らしいと思います。
リトルプレスはまだまだこれから盛り上がっていくと思います。派手ではなくても、きっと静かにしっかりと。
さいごに
小高 「本は世界そのもの」、「雑誌担当が扱えるものは森羅万象」と語る小高さん。本への愛が生み出す都心のリトルプレス売り場は、普段の生活では知りきれない豊かな世界との出会いの場です。
気が向いたら、あなたの読書生活にぜひリトルプレスを取り入れてみてください。作り手の愛を感じて、日々の暮らしがより一層愛しくなるかもしれません。
お話をうかがった人
小高 聡美(こだか さとみ)
2005年ジュンク堂書店池袋本店入社。現在まで、同店雑誌担当。
お店の情報
ジュンク堂書店 池袋本店
住所:東京都豊島区 南池袋2−15−5
最寄駅:JR、メトロ、西武線各線池袋駅東口
電話番号:03-5956-6111
定休日:元旦のみ
営業時間:月~土 10:00〜23:00(日・祝 10:00〜22:00)
公式HP:http://www.junkudo.co.jp/mj/store/store_detail.php?store_id=1