太平洋沖の海底のくぼみ「南海トラフ」での巨大地震に備えて、国の中央防災会議がきのう応急対策活動計画をまとめた。

 事前に大まかな計画をつくっておく。実際に発生したら、被災状況がわからなくても救援に動き出す。そんな内容には、東日本大震災の教訓を生かそうとする姿勢が感じられる。

 この計画で、本物の災害時にどこまで有効に対処できるか。そこは不断の見直しによる更新を重ねてゆくしかあるまい。

 さまざまな運用訓練を続けて計画の中身を常に検証し、定期的に改善することが重要だ。

 静岡県沖の駿河湾から九州沖まで続く南海トラフでは、マグニチュード(M)7~8級の地震が繰り返し起きている。

 東日本大震災では、最大でM8程度と考えられていた宮城県沖でM9が起きた。このため、国は南海トラフ地震の想定を最大M9・1まで上げた。この規模だと死者が約32万人、経済損失が東日本大震災の10倍を超える220兆円に達するとみる。

 現代の地震学では、いつ、どれぐらいの地震が起きるかを予測することはできない。

 今回の計画は、あしたかも知れない巨大地震が起きた際に、最善を尽くすためのものだ。

 優先的に確保すべき道路をあらかじめ定め、災害時には通行情報を共有し、応急復旧や交通規制を一体的に進める▽海や空からの救助も事前に想定する。

 全国で1300以上に増えた災害派遣医療チームをフルに活用する▽食料や毛布などは要請を待たずに調達・輸送に動く▽防災拠点に燃料を優先供給できる体制を石油業界と築く――。

 東日本大震災での苦労や後悔が各所ににじんでいる。

 内閣府の担当者は「計画を作り込み過ぎないよう心がけた」という。詳細すぎると、現実と違う場合に混乱するからだ。

 当然、計画に寄りかからず、現実に対応して的確に判断できる人材がさまざまなレベルで求められよう。実践的な訓練を重ね、そうした人材を育てることが計画実行のカギになる。

 国は昨年、「今後10年間で死者数を8割減らす」など南海トラフ地震の減災目標を定めた。

 事後の計画だけでは目標は達成できない。建物の耐震化や津波避難場所の確保などが決定的に重要だ。医療機関など防災拠点の対策は、特に急がれる。

 国は北海道から千葉県沖で発生が予想される日本海溝と千島海溝周辺の地震についても、被害想定を見直している。

 警戒すべきは南海トラフだけではないと肝に銘じたい。