- 特集 ポストFUKUSHIMAのエネルギー戦略
- 原発放棄は短・中期的にとる政策ではない
- 地政学の視点からエネルギー問題を再考する
- [2011.11.25] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | FRANÇAIS | ESPAÑOL |
資源に乏しい日本にとって、エネルギーの安定供給の確保は、国家の存立を左右する重要な課題。「原子力発電に対する不安と怒りが渦巻く中でも、日本にとって何が必要かを冷静に考えなければ」と話す十市氏がエネルギー戦略を考察する。
再生可能エネルギーは救世主たり得ない
福島第一原発の事故後、脚光を浴びている再生可能エネルギーだが、今すぐに原子力に代わる救世主になるわけではない。日本には、太陽光、風力、地熱、バイオマスなど自然エネルギーの潜在的な資源量は相当ある。ただ、それを実際に商業的に利用するには、大きな課題がある。量的な効果とコスト、普及に必要な時間などの問題である。
石油や天然ガス、石炭の化石エネルギーは、ある意味では、太陽エネルギーが長い年月の間に蓄積されたストックといえる。一方、再生可能エネルギーは、地熱以外は、太陽エネルギーのフローだ。フローである以上、エネルギーの密度は当然低い。経済性を考えれば条件的には劣っている。それをいかに克服するかが技術的な課題になっている。
さらに再生可能エネルギーは自然条件で左右されるため、供給は不安定にある。しかもエネルギー密度が低いから、広い面積が必要になる。
面積の問題を考えてみよう。よく挙げられる例だが、100万キロワットの原子力発電所1基が年間に発電する電気をつくろうとすると、前提条件にもよるが、太陽光発電なら山手線の内側と同じ面積が必要となり、風力ではその数倍、必要になる。要するに、希薄な自然エネルギーを電気という極めて高品質なエネルギーに転換しようとすると、そこには大きなギャップがあって、それを埋めるために広い面積と技術的なイノベーションが必要になる。
さらに風力は、低周波公害や景観の問題、バードストライクなどの問題が全くないわけではない。小規模でやっている間はいいけれども、大規模に何千基というオーダーになってくると、新たな環境問題が出てくる。
地熱発電の場合、日本にはポテンシャルが結構ある。当然のことだが温泉の近くに多いので、地元の温泉関係者は、地熱発電を大規模に開発したら、湯が枯れて自分たちの生活が脅かされるとして、反対しているケースが結構ある。こういう問題を解決しようとするなら、地元関係者も何らかの形で地熱発電事業に参加して、そこで得られるメリットの還元を受けるといった、地域との共生を模索するなどの方法をとっていかないと、簡単には普及しない。
風力発電も、陸地では低周波騒音の問題があって限界があるので、今、日本では洋上発電の技術開発に力を入れている。ヨーロッパでも、デンマーク、ドイツなどは陸上の適地がほぼ満杯で、景観の問題もあり、大規模な洋上風力発電の開発を進めている。北海は比較的浅く、水深50メートル以下の海域が広い。だから、着地固定型の風車を並べている。それでも陸上に比べてコストは3割以上も割高といわれている。さらに日本の場合は、比較的深い海が多いため浮遊型が中心になりさらにコストが重む。漁業補償の問題などもあり、解決すべき課題が多い。
このように、再生可能エネルギーを使った発電は、資源があるからそれだけで供給を簡単に増やせるというものではない。
さらに再生可能エネルギーにはコストの問題がある。先に説明したようにエネルギー密度が低く、化石エネルギーに対して競争力がない。普及のためには公的な支援が必要になる。一番効果的なのは、固定価格買い取り制度。再生可能エネルギーの利用が進んでいるヨーロッパでも、高い値段で買い取るという制度があって初めて普及が本格化した。
日本でも、家庭用太陽光発電の余剰電力買い取り制度に続いて、2011年8月には「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」(通称再生可能エネルギー法)が成立した。その結果、その導入・普及に弾みがつくと期待されるが、その際に生じるコスト負担について国民的な合意が必要になる。
再生可能エネルギーの最大の問題は、供給面で不安定な点である。そのため、蓄電技術がセットで進化していかないと、この弱点を解消できない。つまり質の高い電気にならない。蓄電技術は、今、激しい技術開発競争が行われているが、それでも、いつまでに、どのくらいのコストでできるか現時点では分からない。
再生可能エネルギーは、そこまで対応しないと現在の火力や原子力の電力に代替できないということを理解すべきだ。
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(財)日本エネルギー経済研究所顧問。1945年生まれ。東京大学理学系大学院地球物理コース博士課程修了。理学博士。(財)日本エネルギー経済研究所主任研究員、米国 マサチューセッツ工科大学(MIT)エネルギー研究所客員研究員、(財)日本エネルギー経済研究所専務理事(最高知識責任者)・首席研究員などを経て現職。主な著書に『21世紀のエネルギー地政学』(産経新聞出版、2007年、第28回エネルギーフォーラム賞普及啓発賞受賞)『石油−日本の選択』(日本能率協会マネージメントセンター、1993年)、『第3次石油ショックは起きるか』(日本経済新聞社、1990年、第11回エネルギーフォーラム賞優秀作受賞)、『石油産業 シリーズ世界の企業』(編著、日本経済新聞社、1987年、第8回エネルギーフォーラム賞受賞)など。