最初から読みたい方はこちらをクリック どことなくおかしな話である。
しかし、佐緒里にはどこがおかしいのか上手く指摘できなかった。
「お姉さんなら佐藤さんを落ち着かせられると思うんです」
「え、あ、うん」
心底、困った様子のハルカにそう言われて、思わずそう答えてしまったので、それは暴走する明彦とセックスして宥めろという意味なのだろうかと問い質すタイミングを失っていた。別れた男に自分が必要なのだと言われたようで妙な嬉しさもある。
それ自体がおかしいともわかっていた。
「アタシたち、その、女ばかりでこういう、犯罪に手を染めてしまって、プロって言うのもそういうお店に三日居て逃げた子で、大人の男の人は写真とか撮って脅せば、それなりにお金は取れると安易に、本当にごめんなさい」
けれどもなにより、反省と恐縮するハルカを見ていると、力を貸してやらなければという気分にさせられる。愛らしい外見を持って生まれた女というのは得だ。それは佐緒里もそれなりに知っていることだった。
だが、得はそう長くつづかず、得以上の損もない訳ではない。
「佐藤さんはもうお金なんか全部くれてやるから徹底的にの一点張りで、その子と、アタシの友達でかなり遊んでる子が対応してるんですけど、もう立てもしない酷い有様で、次はアタシなんです。だれか代わりを探せなければもう、アタシ、こんな感じですけど、まだはじめても……」
遂に顔を押さえて泣きはじめる。
「わかった、行くよ」
佐緒里は頷いた。
元恋人だからというより、残っている気持ちが本物かどうか確かめる意味でも、EDを克服した明彦に会わなければならない。自分を見て萎えるようなら、原因はそういうことなのだ。ハッキリさせる意味でも、自分以外に適任はいないだろう。
「だから約束して、もうこんな危ないことはしない。今回のお金は明彦に払わせるから、仲間たちにもそれでやめるように言う。それでダメなら警察に行こう。明彦も捕まることになるかもしれないけど、それはそれで仕方ない。わたしもちゃんと付き合うから」
「……はい」
そうして佐緒里はハルカの指示で車を走らせた。
目的地は町外れの山の中にあるという廃屋、とても店には見えないが数人の男が騙されたのだと説明される。馬鹿げたシチュエーションとしか言えないが、明彦はそんな男の内のひとりということだ。
(この子を目の前にすれば、大概の男はコロッと行くでしょうね)
なんとも腹立たしい気分ではあった。
恋心を自覚したというのに、なぜこれほどまでにロマンチックの欠片もないような再会を果たさなければならないのか、廃屋の中でハルカの友人だという二人の若い娘に襲い掛かる明彦の姿を想像して、少なからずイメージが壊れている。
真面目な男だったはずだ。
(そんなに勃起したのが嬉しいの?)
実際に目の前にしたらもう恋心も粉々になっているかもしれない。
案内された山の入口には見覚えのある車が停められている。ナンバーまでは覚えていないが、車内にあるいくつかの物品、自分が渡した交通安全のお守りなどを見ればそれが間違いなく明彦の車だとわかる。
「ここから先は歩きです」
「そうなの」
いよいよ騙されそうにもない状況だ。
パワースポットの神秘性を高めるにしても、ほとんど人が歩いた形跡もない獣道を歩く間に疑問を持たなかったのだろうか。結果として効果が出てしまったということが不運にすら思えてくる。
「ここが、エロ磁場と説明した場所です」
しばらく歩いてハルカは道の脇の泉のほとりに立つ。
「綺麗な水ね……」
佐緒里は底まで透ける水面に近付く。
周りを囲われてもいない自然そのものの空間、それっぽいと言えばそれっぽい。
「井良町にいくつかある水源のひとつなので」
「飲めるの?」
「飲めます。アタシたちも時々……」
トン。
(え?)
会話の途中だった。
不意に自分の後ろに回りこんだハルカに、振り返った佐緒里は泉に突き落とされていた。踏ん張るも踏ん張らないも、そんなことをされるとは予想もしておらず、凍るような水の中にとぶんと沈んでいくことしかできなかった。冬場の着込んだ状態での着衣泳、じたばたともがいて、なんとか溺れなかったのが奇跡のように思える。


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