地方発 ドキュメンタリー「ずっと言えなかった〜福島 親子の手紙〜」 2015.03.30


東日本大震災と原発事故があった福島県南相馬市の小学校。
30年以上子どもの声に耳を傾けてきた先生がいます。
白木次男さんです。
子ども相手でも先生はいつも本気。
クラスの一員となって子どもたちの本音に触れようとしています。
大切にしてきた作文の授業。
自分の気持ちに正直に書いてほしいと伝えてきました。
一つ一つの事をもう一回しっかり思い起こして…震災が起きたあと前向きに夢を語る子どもたちの様子に白木先生は違和感を抱いてきました。
白木先生は気付きました。
何かが子どもたちを言えなくしている。
震災当時は2年生だった子どもたち。
子どもなりに震災原発事故に向き合い続けてきました。
だからこそ親を気遣うあまり家族の中に入ると何も言えなくなっていたのです。
ニュースとかで東電の事やるとさいろんな事言っちゃう。
(取材者)居心地悪いの?そういう話してる時。
卒業を前に先生は親子に最後の宿題を出しました。
本音をぶつけ合う親子の手紙を書こうというのです。
悩みや不安を伝えられずにいた親たちが初めて気持ちを言葉にしました。
「震災があって普通の事ができなくなりやっぱり親として力不足なんだと思いました。
どう安心させられるか情けないけど分かりませんでした」。
これまでずっと言えなかった親子の本音。
手紙を通じて向き合おうとする日々を見つめました。
東京電力福島第一原発から北に30キロ。
福島県南相馬市石神地区です。
事故の直後子どもを持つ親たちは市から避難を勧められました。
それから4年。
田んぼや畑では今も放射性物質を取り除く除染が続けられています。
ほとんどの子どもたちは親の送り迎えで学校に通っています。
おはようございます!おはようございます。
地区の子どもが通う石神第一小学校。
児童の数は震災直後1/3にまで減りましたが少しずつ戻ってきています。
しかしなかなか元に戻らないものがありました。
春には卒業を迎える6年生の教室です。
子どもたちは週に2回作文を書いています。
担任の白木次男先生59歳です。
赤ペンで返事を書き子どもたちと本音の対話を繰り返してきました。
書いた作文はみんなの前で発表します。
悩みや不安は一人で考え込まない。
それが白木学級のルールです。
この日気にかけていた男の子が手を挙げようとしていました。
あっどうぞ海星君どうぞ。
もっと大きく。
もう一回もう一回手を挙げろもう一回。
手を挙げろもう一回。
ほらこういうふうに挙げんだよ。
2年前避難していた福島市からクラスに戻ってきました。
昔は負けず嫌いだった海星君。
ところが今ボールを友達に譲っています。
じゃあさようなら。
(児童たち)さようなら。
(取材者)お父さんとかお母さんには何か言えないでいるなみたいな事あったりする?いや大丈夫です。
クラスの友達への言葉遣いまで変わっていました。
海星戻ってきてから…。
クラスに戻ってすぐの頃の海星君の作文です。
「学校から帰る時でした。
男子が手を振りながら見送ってくれたのです。
自分なんかのために手を振ってくれたのです。
自分なんかより友達の事がずっとずっと好きになりました」。
本音を隠していると先生は感じました。
「無理無理『いいこと』にしてはいけないよ。
自分の心にウソをついてしまうよ。
ありのままの海星くんでいいんだよ」。
海星くんは先生に正直な思いをそのまま書こうと言われ自分の気持ちに向き合う事ができたといいます。
例えば…
(取材者)やっぱりそのとおりなの?うん。
(取材者)実際うれしかったなって思う気持ちもあったのか…。
家でも海星くんは両親に気持ちを打ち明けられずにいました。
4520。
掛ける2。
以前は両親に算数の宿題を見てもらいながら「学校でケンカしちゃった」なんて何でも話していた海星くん。
そんな海星くんに変化が表れたのは原発事故のあと。
家族と福島市に避難してからでした。
お父さんは暗いうちから家を出て働きづめ。
心労がたたり倒れてしまいました。
一方海星くんは転校先で友達がなかなかできませんでした。
でもその事をお父さんに伝えた事はありません。
震災になってやっぱり…作文に前向きな気持ちばかりをつづろうとする子どもたち。
白木先生は文章の向こうに本音を押し殺そうとする姿を見て取るようになりました。
クラスでいつも私たちに近づいてくる男の子がいます。
冬でも半袖の体操服。
授業中も休み時間も友達を笑わせるムードメーカー三浦光くんです。
運動はちょっと苦手…かな?ところが作文の授業になると途端に元気がなくなります。
この4年間震災の体験を誰にも語った事がありません。
あの子は実はお母さんの事を亡くしているんですね。
私は一緒に過ごしながらその時の事を改めて3年たってきているので整理しながらあの悲しさみたいな事を語らせたいなというふうに思うんです自分からね。
でもあの子はそれをしない。
光くんのお父さん三浦良幸さんです。
自動車の販売会社で働きながら毎朝欠かさず光くんを学校に送っています。
母親がいない暮らしの中で震災の半年後脳梗塞で倒れ今も左半身にマヒが残っています。
お父さんとお兄ちゃん。
男3人だけの仮設暮らし。
光くんのお兄ちゃん悠くん中学3年生です。
お母さんっ子だった光くんのそばにいつも座っています。
食卓のそばで3人を見守る写真。
お母さんの浩美さんです。
浩美さんはあの日沿岸部にある実家に向かう途中津波にのみ込まれました。
(良幸)はる。
そっちから洗濯物やって。
お母さんのいない今家事は父と子3人で分担しています。
手際よく洗濯物を畳む光くん。
お母さんと一緒にやってたのかな?
(取材者)うまいね畳むの。
褒められると弱いんだな。
えっ分かんない。
もう覚えてない。
光くんは震災のあと「ママ」という言葉を一切口にしません。
何でしないの?恥ずかしい?
(光)いやちょっと…何となく。
(光)よく分からないから寝る。
もう…。
話せないのはお兄ちゃんも一緒です。
(取材者)どうした?話したくない?うん…まあうん…。
微妙…。
覚えていない訳でも話したくない訳でもありません。
震災後お父さんが子どもたちを連れていこうとしない場所があります。
家族で暮らしていた自宅です。
連れていかない理由の一つはこの家が放射線量の高いホットスポットだった事です。
もう一つの理由それはこの家にお母さんがそろえた家具や思い出の品がそのまま残されている事です。
仮設には遺影以外持っていきませんでした。
悠も光もママの事が生きてる時の姿しか…。
最後火葬すっ時も見せなかったですし。
とりあえず俺らは3人しかいないんだからとりあえず3人で協力してやるしかねえよって。
…いう話は一回はしたけどね。
その話は亡くなって2日目か3日目かな。
それ一回だけして…。
母親の思い出から切り離された4年間。
子どもたちが見る事がなかった物がありました。
震災前のアルバムです。
いない。
今いなくたって実際こいつらにとってはあくまでも一生ずっとお母さんでママだからね。
いてもいなくてもそれは変わりないものだし。
震災から4年。
お父さんは仮設住宅を出てこの家に戻ろうと考え始めています。
ゆっくり話…今回いい機会なんで話して写真でも何でもこういうのあるんだよっていうのを多分分かってないと思うんで。
懐かしくなっちゃうよね。
見てっと。
光も悠もやっぱりそれなりに俺に対して気ぃ遣ってんのかもしれないけどね。
気ぃ遣ってんだか本当に分かんないんだか分かんないけども。
ようやく家族でお母さんの思い出話がしたいと考えるようになっていました。
3学期の初め。
授業を始める白木先生。
いつもと様子が違っていました。
卒業を前に親子がしっかりと話す機会を持つための宿題を出すというのです。
大事な手紙ですので必ずおうちの人に渡して下さい。
いいかな?親と子が互いの気持ちをぶつけ合うために手紙を書くのです。
「『これまで伝えられなかったこと』『今だからこそ伝えられること』を是非伝えてほしい」。
最初に書くのは親です。
親が気持ちを打ち明ければ子どもも心を開くようになると先生は考えました。
ため息でもあるいは…原発事故から4年。
親たちも不安や戸惑いを抱えながら暮らしています。
親の迎えを待っていた…電話頂戴って言ったのに。
電話するように言われなかったよ。
昨日言ったじゃん。
何時に終われるのかって…。
原発事故後の暮らしについて輝くんにずっと聞けずにいました。
はい。
学校から?学校から。
そんな時に受け取った白木先生からの手紙。
はい。
でもそれをちょっと…う〜ん聞けないな〜…。
聞いてしまうとやはり…謝ってももう取り返しつかないですからね。
門馬さんの家は代々田畑を守ってきた農家です。
早く元の暮らしを取り戻したいと原発事故の1か月後避難先から家族で戻る事を決めました。
一応この辺だと0.1なんですけど。
それでも子どもを連れて家に戻るのは不安で放射線量が高くなっていた防風林は全て切り倒しました。
この4年輝くんにはできる限りの事をしてきたつもりです。
しかし輝くんとの会話は少なくなる一方です。
2人の様子を見てきたお母さんの千秋さんも間を取り持つ事はできません。
避難ずっと遠くに避難してればよかったかなみたいな今でもちょっとそう思ったりね。
(伸博)なかなか難しい選択ですよね。
慣れない場所で苦労されてる方の話を聞くと。
夫婦で話してても「何言ってんのあんた」思っちゃったりね。
多分思ってる事は多々…。
言ってはいないけどお互い多分そういうのあるよね。
多分ね。
そこまで言っちゃってみたいな…。
子どもの姿が目に入ると会話もやめてしまいます。
お母さん手紙書いてよ。
手紙を書き始めようとした伸博さん。
伝えたい事はいっぱいあるんですけどもね。
多分親子でまともに震災の事ってしゃべってないからどうなのかななんて…。
でも隠さないで聞いたら多分話してくれるんじゃないかななんて思うんですけど。
輝はね。
パパ頑張って書いてね。
(伸博)いや。
俺書けねえな〜…。
まだねもうちょっと時間欲しいですよね。
震災の事はね。
これから2時間目の授業を始めます。
お願いします。
(児童たち)お願いします。
先生のもとに親からの手紙が集まっていました。
子どもには見せないよう震災後の生活と向き合い続けてきた親の思いです。
光くん。
それまで皆さんのおうちの人が生まれてからこの12年間どんな思いをしてあるいはどんな願いを持って皆さんを育ててきたのか。
じっくり読んでほしいと思います。
避難先で友達ができなかった悩みを打ち明けられなかった百井海星くんにお父さんから手紙が届きました。
「ひなん生活でお父さんもお母さんも余裕がなかったとはいえ海星の気持ちをちゃんと分かってあげられなかった事は申しわけなかったと思っています。
今思えば石神第一小学校にもどってからも海星は学校で自分の思いをなかなか正直に出すことができずにいたのかな」。
海星くんには一度も話さなかった後悔の思いがつづられていました。
震災以来お母さんの話を口にしなくなった三浦光くんです。
お父さんの手紙を読まずにしまってしまいました。
光くんは学校からの帰り道で手紙を読んでいました。
お父さんが光くんに宛てた手紙です。
「今までママの事は話をしないで我慢しているのかと思い少しずつ話をするようパパも頑張っています。
一人で考えすぎるなよ」。
初めてお父さんの気持ちを知った光くん。
でも手紙を受け取った事はお父さんに伝える事はできませんでした。
宿題も寝るまで。
光。
やる事やれこの。
言葉にはできなかったんだよね。
手紙を読んで親の気持ちを受け取った子どもたち。
まず目当てはね伝えたい事をはっきり伝えるために。
必ず「お父さんお母さんありがとう。
おかげでこんなに成長しました。
こんな立派になりました」だけじゃなくていいんだよ。
今だって反発してる人もあるでしょ。
そこはお互いぶつかり合って初めて親の思いを深く理解したりあるいは皆さんが親を乗り越えていくんだと思うんです。
今度は自分たちが言えなかった事を伝える番です。
海星くん書こうとしますが…進みません。
ここで言いたいの?あの時随分と書いたよな。
もっともっと自分の気持ちに自分の心の動くままにやっぱり考えていったらいいんじゃないかとあの時言ったんだよな。
そうだよな。
海星くん先生のアドバイスでなんとか書き上げました。
海星くんの手紙です。
「『海星の気持ち分かってあげられなかった』って書いてあってそれは確かにそうだったよ。
学校で友達が『家族みんなで遊んだ』って言っているのがうらやましかった」。
不満を持っていた事寂しかった事初めて言葉にする事ができました。
光くんも返事を書けないでいました。
光くんはちょっと来て。
いいね。
光くんのお父さんはあなたに伝えたくて一生懸命書いたんだと思うよ。
せっかくお父さんがあなたにピンポン球をポ〜ンとあるいはボールをあなたに投げかけたんだよ。
その事をもう一回「じゃあ僕はこうだよ」って投げ返さなくちゃお互いいつまでたっても分かんないじゃない。
違うかな?
(取材者)書けない…書けないの?書けない。
書き上げたのは放課後でした。
光くんの返事です。
「いきなり手紙があることを知っておどろきました。
とりあえず開けて見ました。
体は今ではたてより横に大きくなったけど前はすごく小さかったらしいです。
いつも心配かけてごめん。
あと今まで自分を育ててくれてありがとう。
これからもよろしくお願いします」。
3月11日。
この日は光くんにとってお母さんの命日です。
先頭に立ってお墓に向かったのは光くんでした。
凍ってるし。
そのひと言は光くんがお母さんに初めてかけた言葉でした。
福島県南相馬市石神第一小学校の6年生。
子どもたちは笑顔の奥でずっと言えなかった思いを抱えてきました。
口に出せば受け止めてくれる。
勝った〜!それが今の子どもたちの支えです。
2015/03/30(月) 13:05〜13:48
NHK総合1・神戸
地方発 ドキュメンタリー「ずっと言えなかった〜福島 親子の手紙〜」[字][再]

福島県南相馬市の小学校。原発事故から4年、子どもも親も、事故からの体験・思いを互いに伝えられずにいる。担任の先生が出した宿題「親子の手紙」。親子の心の変化は。

詳細情報
番組内容
福島県南相馬市の小学校。6年生の担任・白木次男先生は、事故後に子どもが書く作文に違和感を抱いてきた。津波で親を失った喪失感、放射能への不安、長引く避難生活…。つらい体験をしながら、子どもたちは自らの思いにフタをするかのように、よそいきの文章を書いていた。そして親も、子どもの気持ちを確かめられずに4年を過ごしてきた。卒業にむけ、先生が出した宿題「親子の手紙」。親子は、互いの気持ちを手紙につづる。
出演者
【語り】西田尚美

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事

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音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz

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