合格者は40人。
大地に深く刻まれた鋭い爪痕。
荒野に向かって続いています。
ここは南米パタゴニア。
実は最近恐竜の化石が相次いで発掘されています。
これは恐竜の足跡の化石。
さっきのものとそっくりですよね。
もしかしてこの爪痕恐竜の生き残りのものでしょうか?いえいえ足跡の主はこちら。
ダーウィンレアです。
ダチョウに似た飛べない鳥で背の高さは1メートル以上。
体重は30キロ近くになります。
恐竜のような爪痕を残したこの足で…荒野を全力疾走!最高時速はなんと60キロ!ダーウィンレアは逃げ足の速さを頼りに荒野を生き抜いてきたんです。
でも恋の季節オスたちはひょう変します。
勇猛果敢にライバルと真っ向勝負。
その後は子育てを一手に引き受ける超育メンになるんです。
かわいい我が子に近づくものには猛攻撃!恋に子育てに全力疾走。
荒野を生きるオスたちの物語です。
(テーマ音楽)南米大陸の南アルゼンチンとチリにまたがるパタゴニア。
アルゼンチン側には見渡す限りの荒野が広がっています。
1年を通して気温が低く乾燥した強い風が吹きつけるため背の高い木はほとんど育ちません。
この厳しい荒野で暮らせる生きものは限られています。
グアナコは乾きに強いラクダの仲間です。
変わった動物を見つけました。
アルマジロです。
毛が変化して出来た硬いよろいをまとい身を守ります。
こちらスカンクは強烈な臭いで敵を撃退します。
隠れる場所が少ない荒野で生きるために身を守るすべを持つことはとっても重要です。
さあ今日の主役を探しましょう。
協力してくれるのはアマンダ・マネロ博士です。
おっ早速発見!どこ?どこ?遠すぎて分かりません。
また発見!う〜んでもまだ遠い。
とっても警戒心が強いダーウィンレア。
なかなか近くで観察できません。
いきなり撮影は難航です。
そこで作戦変更。
目立たない迷彩色のテントの中に入りダーウィンレアが私たちの存在に慣れてくれるのを待つことにしました。
ひたすら待つこと1週間。
お〜!カメラマンが隠れるテントのそばに来ています。
間近で見るダーウィンレア。
名前はあの進化論のチャールズ・ダーウィンにちなみます。
顔をよく見ると…うわかわいい!童顔ですが立派な大人です。
背の高さは小学1年生の子どもと同じくらい。
鳥の中ではかなり大きいほうです。
このダーウィンレアダチョウに似ていると思いませんか?どちらも「走鳥類」に属しています。
文字どおり走ることが得意な鳥の仲間です。
ダチョウが暮らすのはアフリカの大草原サバンナ。
一方ダーウィンレアが暮らすのは南米パタゴニアの荒野です。
同じような環境で同じような暮らしをするうち同じような姿になったと考えられています。
ではダーウィンレアの暮らしぶりを詳しく見ていきましょう。
しきりに地面をつついていますね。
草を食べているんです。
根っこまで一緒に丸のみ。
昆虫など動物性の食べ物も大好物です。
厳しい荒野を生き抜くためにとにかくいろいろ食べるんです。
たくましいですね〜。
あっ食事をやめて突然走りだしました。
あっという間に遠くに行ってしまいました。
一体どうしたんでしょうか?どうやら馬に乗った人の姿に驚いて逃げたようです。
警戒心がとても強く臆病な性格のダーウィンレア。
少しでも異変を感じるといちもくさんに逃げ出します。
走る速さは尋常ではありません。
その走り方とにかく足の回転が速いんです。
1秒間に何歩足を出しているのか数えてみると…。
なんと1秒間に6歩!究極のピッチ走法です。
更に足がすごい速さで動いているのに上半身はピタッと安定しています。
まるで一直線に飛んでいく矢のようです。
マネロ博士の研究によると最高時速は60キロにもなるそうです。
ダーウィンレアがこれほどまでのスピードを身につけた訳はこちら。
ピューマです。
瞬発力を武器に一瞬で獲物をしとめるパタゴニアで最強のハンターです。
更に体長90センチもあるクルペオは持久力も兼ね備えています。
こうした足自慢の肉食動物たちから逃れるためダーウィンレアも俊足に磨きをかけたと考えられています。
パタゴニアは春。
(鳴き声)うん?車のエンジン音でしょうか。
低い音が響き渡ります。
(鳴き声)この1羽が鳴いているんです。
ひときわ大きなオス。
まっすぐ伸ばした首を膨らませて音を響かせています。
恋の季節を迎えメスへのアピールをしています。
(鳴き声)ふだん20〜30羽の群れで暮らすダーウィンレア。
恋の季節オスたちの戦いが勃発。
そして勝ったオスだけが6〜7羽のメスを呼び込み「ハレム」と呼ばれるグループを作るんです。
見事ハレムを作り上げたこちらのオス。
他のオスにメスを奪われないよう絶えず監視の目を光らせます。
(鳴き声)今度はオスが警戒の声を出し始めました。
別のオスが現れたんです。
首を伸ばして宣戦布告。
恋のライバルです。
互いにけん制するかのようににらみ合う2羽のオス。
あっ!勢いよくぶつかった。
転んだ1羽が逃げ出し勝負あり。
こちらではがっぷり組み合っています。
くちばしでくちばしをくわえての押し合いです。
あっ今の攻撃!相手の首にくちばしを突き立てています。
痛そう〜。
なおも激しい押し合いは続きます。
おっと!大ワザさく裂!名付けて「首折り」。
これで決着がついたようです。
いや〜手に汗握る戦いでした。
ふだんは臆病なダーウィンレア。
でもオスたちの恋のバトルはとっても激しいんです。
強いオスにメスは心惹かれたよう。
互いに翼を広げ首を曲げて愛を確かめ合います。
しゃがんだメスの背中をオスが優しくなでています。
こうして2羽は結ばれるんです。
メスが愛の結晶である卵を産むのは数日後です。
第2章ではかわいいヒナが誕生。
するとオスは1羽でたくさんのヒナを守り育てます。
近づくものには体当たり!孤軍奮闘!育メン父さんに密着です。
今回の舞台南米パタゴニアの荒野は世界有数の強風地帯。
風速を測ってみると…。
秒速22.6メートル!台風並みの風です。
この強風の中観察用のテントを立てるのは大変な苦労でした。
せっかく立てても一晩たったらこのとおり。
風に押されてポールが折れてしまうこともあったんです。
わずかに生える木も強風を受け続けこんな姿になりました。
パタゴニアの荒野を激しく吹き抜ける乾いた風。
その大本は地球規模で吹く偏西風です。
太平洋を渡ってきた偏西風はパタゴニアの西側南米大陸の端にあるアンデス山脈にぶつかります。
この時空気中の水分は雪となってアンデス山脈に降り積もります。
そして水分を失った風が山脈の東側を吹き抜けていくのです。
こうしてパタゴニアの東部には乾燥した荒野が作られました。
一方アンデス山脈周辺には長い年月をかけて降り積もった雪によって氷河が出来上がりました。
南極グリーンランドに次ぐ世界で3番目に大きな氷河です。
東と西で全く異なる顔を持つパタゴニア。
偏西風によって作り上げられた大自然の芸術です。
南米パタゴニアの荒野を生きるダーウィンレア。
春メスを巡ってオス同士が激しい戦いを繰り広げます。
そして戦いに勝ったオスだけがメスと結ばれます。
ここからは子育てに密着です。
マネロ博士が子育て中のダーウィンレアを見つけてくれました。
画面の中央。
分かりますか?姿勢を低くして隠れるようにしゃがんでいます。
食事に出かけた隙にのぞいてみるとうわ〜卵がたくさん!巣に座って温めていたんですね。
卵1つの重さは600グラムほど。
ニワトリの卵のおよそ10倍もあります。
オスが作った地面の巣。
そこにハレムのメスたちが代わる代わる2〜3個ずつの卵を産みました。
実はこの先の子育ては全てオスの役目。
たった1羽で1か月以上卵を温めるんです。
そんなオスにとってやっかいな相手がパンパスギツネ。
食事などで巣を離れると卵を狙ってやってきます。
オスが異変に気付きました。
キツネが巣の間近に迫ったその時。
オスが攻撃!キツネを威嚇します。
どうやらキツネは諦めたようです。
オスにとって卵を温める1か月間は気が抜けません。
観察では食事に出るのも1日わずか30分ほどでした。
試練の時期です。
ところでメスたちは何をしているんでしょうか?あ〜!なんと他のオスと一緒です。
どうやら新たな恋に走ってしまったようです。
ちょちょっと待った!あやっぱり来ましたねヒゲじい。
そりゃそうでしょう。
ひどいじゃないですか!オスが1羽で子育てを頑張っているのにメスたちは新たな恋に走っているなんてあんまりじゃないですか!う〜ん確かにそう思うかもしれませんがこれには事情があるんです。
これから説明しますので落ち着いて聞いて下さいね。
ううん…ははい。
春パタゴニアでは冬の天気に逆戻りすることがよくあります。
そうすると寒さによって卵が死んでしまうことも少なくないんです。
はぁ厳しい環境なんですな。
それにね地面の巣では卵が天敵に食べられてしまうことも少なくありません。
ほうほうほう。
こちら見て下さい。
別の巣で偶然撮影した映像です。
卵がパンパスギツネに襲われています。
こうして天敵に食べられたり寒さで死んでしまったり卵の半数近くはふ化に至らないんだそうです。
そりゃ大変だ。
そのためメスは卵を産んでは次のオスへ渡り歩きできるだけ多くの卵を産みます。
子育てを行わないのは卵を産む役割に徹するからなんです。
あそういうことだったんですか。
はい。
そしてオスはメスから託された卵を一手に引き受け卵がかえった後も面倒を見続けます。
産卵と子育てを夫婦で役割分担しているんですね。
う〜んなるほどね。
メスが新たな恋に走ったのも厳しい荒野で命をつなぐためだったんですなぁ。
オスとメスはきっとこう言ってますぞ。
「お互い頑張って荒野を生きてい『こうや』」なんて。
(鳴き声)取材を始めて2か月。
パタゴニアの荒野は初夏を迎えました。
この時期多くの生きものたちが子育てに大忙しです。
ダーウィンレアの子育てはどうなっているでしょうか?あっお父さんの傍らにヒナがいます。
大きさはおよそ20センチ。
生まれて1週間ほどです。
お父さんがヒナを連れて歩きだしました。
やってきたのは水辺です。
ここにはヒナが好む軟らかい草がたくさんあります。
ヒナたちは夢中で草をついばみます。
でもお父さんは食事もせずしきりに辺りを警戒しています。
ヒナには地上だけでなく空からの敵もいるからです。
どう猛な猛きんです。
お父さんはおいしい草に目もくれず警戒を続けます。
とても頼りになるお父さん。
おかげでヒナたちはすくすくと成長しています。
次第にお父さんから離れて遊ぶようになります。
あっ突然お父さんが翼を広げ駆けだしました。
マゼランガンがヒナに近寄ってきたんです。
でもマゼランガンはカモの仲間。
決して危険な相手ではありません。
それでもお父さんは必死で追い払いヒナを守ります。
ヒナに近づくことは絶対に許さない。
そんなお父さんの熱い思いが伝わってくるようです。
お父さんとヒナたちに密着して1週間。
左足を引きずっているヒナを見つけました。
天敵に襲われたのかケガをしてしまったようです。
そのためどうしても遅れがちになってしまいます。
俊足を頼りに身を守るダーウィンレアにとって致命的とも言える足のケガ。
お父さんはそんなヒナを見守り追いつくまで待ってあげています。
愛する我が子はみんな守りたい。
そう思っているんでしょうね。
ある日水辺を移動している時思わぬ事件が起きました。
お父さんが小川を越えて向こう岸に渡ります。
しかしヒナたちは川を渡れないようです。
向こう岸にはおいしい草でもあるんでしょうか。
お父さんに戻ってくる気配はありません。
もしこんなところをキツネに見つかったら一大事。
か弱いヒナは食べられてしまうかもしれません。
ところがお父さんは一向に戻ろうとしません。
大丈夫なんでしょうか?その時ヒナのところに別のオスがやってきました。
姿勢を低くしてヒナを優しく追い立てます。
1か所に集め守っているようです。
実はこのオスまだ自分の子どもがいない若者です。
ダーウィンレアの子育てではこのように若いオスが手伝うことがあるんです。
しばらくするとお父さんが戻ってきました。
若いオスがいたおかげでお父さんは安心しておいしい草を食べてこられたのかもしれませんね。
もし何らかの理由で…研究によると子育ての経験を積んだ若いオスはその後メスからの人気が高まることも分かっています。
育メンはモテるんですね。
ヒナが自分で身を守ることができるようになるまであと半年。
それまでオスたちの必死の子育ては続きます。
南米パタゴニアに暮らすダーウィンレア。
逃げ足の速さで荒野を生き抜いてきました。
しかしメスから大事な卵を受け取りお父さんになったオスは変わります。
体を張ってかわいい我が子を守るのです。
オスたちのひたむきな育メンぶりが荒野で命をつないでいきます。
2015/03/29(日) 19:30〜20:00
NHK総合1・神戸
ダーウィンが来た!「南米パタゴニアの育メン鳥 恋に子育てに全力疾走!」[字]
南米パタゴニアの飛べない鳥、ダーウィンレア。時速60キロの俊足で、天敵から生きのびてきた。メスの産卵後、オスは一羽で我が子を守る。鳥界で屈指の育メンぶりに密着!
詳細情報
番組内容
南米パタゴニアの飛べない鳥、ダーウィンレア。背の高さは1mほど。最高時速60kmの俊足は、ピューマなどの天敵を相手に、荒野を生き延びるために身につけた。「得意技は逃げること」というダーウィンレアだが恋の季節には一変。メスを巡ってオスたちが大激闘!さらに産卵後、オスは頼りになる育メンに大変身!ただ一羽で卵を温め、ヒナが独立するまで半年以上も寄り添う。恋に子育てに熱く生きるオスたちの物語!歌:平原綾香
出演者
【語り】近田雄一,龍田直樹,豊嶋真千子
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 自然・動物・環境
趣味/教育 – 旅・釣り・アウトドア
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
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