(テーマ音楽)
(出囃子)
(拍手)
(拍手)
(三遊亭鳳楽)お運びで御礼を申し上げますが。
昔の方は夢というのを大変に気に致しまして「正夢である」とかあるいは「悪夢である」とか。
夢というものはですから五臓がどこか疲れると人間てぇのは夢を見るんだそうでございます。
「夢は五臓の疲れ」と昔から言いますが心臓肝臓腎臓肺臓脾臓このうちどこか疲れると夢を見る。
まぁですから大体夢というのは若い方はあんまり見ないんだそうでございますがね。
日蓮上人のおっ母さんは日輪を飲み込んだ夢を見て懐妊を致しましてお生まれになりましたのが日蓮上人だそうでございます。
すごい夢ですね。
日輪太陽を飲み込んだ夢を見てお生まれになったのが日蓮上人。
私の知ってる人で七輪を飲み込んだ夢を見た。
(笑い)明くる日大やけどをした方がおりますけどもね。
(笑い)つまらない夢見るもんでございますが。
まぁ菅原道真公というこの方は学問の神様として祀ってございますが今頃になるってぇと受験シーズンや何かですと大変ですね。
絵馬というのを合格祈願でこれを書きましてですからみんなもうお参りをして「なんとか受かってもらいたい」というんで。
ところがこの菅原道真公という天神様と申しますが学問の神様でございましてそういう事ですから昔はなんとか字がうまくなるように一生懸命お参りをしたんだそうでございますが。
この方はせっかく右大臣という役職に就いたんでございますが藤原時平という「時」という字に「平」と書いて藤原時平歌舞伎のほうでは時平と言いますけどこの時平の讒言で九州の大宰府に島流しにされまして今と違いまして昔の大宰府でございますからね大変なさみしい所でもう生涯都には帰れないだろうというんで都を出る時にもうご寵愛になった梅の花がパア〜ッと満開という時でございます。
「東風吹かば匂いおこせよ梅の花主なしとて春な忘れそ」という和歌を残しまして。
ところが翌年この大宰府の天満宮に梅が見事にご寵愛の梅が咲いたんでそうでございますけどもね。
「おい。
お前天神様へお参り行ったんだって?」。
「ああ。
行った行った。
大変な人だね」。
「そうかい。
お賽銭なんざすごいかい?」。
「すごいなんてもんじゃないね。
ええ?銅貨だけじゃないよ。
銀貨金貨ね。
もう賽銭がお前山のようでねなかなか歩けやしないよ。
ええ?混んでて」。
「ヘエ〜。
札は無えのかい?」。
「ああ。
天神様は紙幣
(時平)がお嫌いだから」。
(笑い)粋な話があるもんでございますが。
「おいおい番頭さんや番頭さん」。
「へい。
え〜お呼びでございますか?」。
「ちょっとこっち来ておくれ。
お前ね家の店の噂を聞かないかい?」。
「店の噂でございますか?さあ〜私は別に聞きませんが」。
「いや私が2〜3日前に湯へ行ったんだ。
するとね町内の者が5〜6人でね『横丁の質屋の三番蔵がどうとかこうとか』言ってるんだよ。
でまぁ横丁の質屋といえば家だからね気になって傍へソ〜ッと近寄ってったら私の顔を見たらお前さんみんな蜘蛛の子を散らすようにいなくなっちまった。
そこで手を回して調べたところ家の三番蔵から夜な夜なお前化け物が出るという噂なんだ。
家はお前さんお客様の大事な物を預かる質屋ですよ。
その質屋にねそういう評判が立つようじゃこらぁお前暖簾に疵がつくからお前にひとつねその三番蔵に出る化け物を今夜どういう物が出るか確かめてもらいたいんだ」。
「へっ?私が?旦那様。
長年お世話になりました」。
(笑い)「今日限りでお暇を頂きます」。
「おいおい冗談じゃない。
急に暇を取られちゃ困りますよ。
どうしたんだ?」。
「私はもうその化け物と塩辛が大嫌いでございまして」。
「変な物と一緒にしちゃいけませんよ。
ええ?まぁね『幽霊の正体見たり枯れ尾花』なんてぇ事を言うがね人間怖い怖いと思うと棕櫚箒が鬼薬缶が天狗に見えるてぇやつだ。
『幽霊の正体見たり枯れ尾花』ええ?そんなところだよ。
だからひとつ見届けておくれよ」。
「いえ〜。
私はどうも」。
「それじゃねお前さんが1人で嫌なら誰か強そうな者を呼んで2人で見りゃいいだろう」。
「えっ?2人でよろしゅうございますか?」。
「誰かいるかい?強そうな人が」。
「じゃあ手前どものお店に出入りの熊五郎は如何でございましょう?」。
「あっ熊五郎ねありゃいいな。
うん。
右の腕には昇り龍左の腕には下り龍背中には文覚上人のお前彫り物をしてるんだ。
あの彫り物をサ〜ッと出すってぇとな化け物も驚くかもしれないからな。
おいおい定吉や定吉」。
「へ〜い。
お呼びでございますか?」。
「お前ね熊五郎の家へ行ってね私が用があるからすぐに来るようにとそう言ってきなさい」。
「へい。
かしこまりました」。
「おいおい。
お前はお喋りだから余計な事を言うんじゃないぞ。
ただ私が呼んでいるから急いで来るようにとそれだけ言えばいいんだから」。
「へ〜い。
こんちは」。
「うん何だい伊勢屋の定どんじゃねえか。
何だい?」。
「あのね旦那が用があるから急いで来てくれって」。
「旦那が?あっそう。
何だい?用ってぇのは」。
「分からない」。
「分からない?」。
「怒ってるよ『急いで来い』って」。
「怒ってる?何で怒ってんだよ?ちょいと話してくれよお前。
出し抜けに小言をくった日にゃこっちだってお前言い訳のしようが無えじゃねえかよ。
こういう事で叱られるんだな意見をされるんだなと思やぁよこっちも構えが違うからよな?ちょいとどんな訳か教えてくんねえか」。
「エヘヘ教えてやってもいいけどこういうものはただじゃあね」。
「嫌ながきだねこの野郎は。
何か欲しい物があるのか?」。
「うん。
あの〜芋羊羹」。
「芋羊羹?」。
「このごろ毎晩芋羊羹の夢を見るんだよ。
昨日なんかこんな大きい芋羊羹にね追いかけられちゃったんだ」。
「つまらねえ夢見やがるねおい。
分かった分かったじゃあ芋羊羹買ってやるから。
ええ?じゃあちょいとお店まで出かけてくるから。
いやだから出ていりゃ買ってやるよ」。
「出てるよあそこに」。
「この野郎見当つけといて言いやがんだからな本当に。
おい。
ちょいとこの小せえのを1本くれねえか?」。
「小せえんじゃ駄目だよ大きいやつ」。
「大きいんじゃなくていいだろ?小せえんで」。
「だって駄目だよ小せえんじゃ。
大きいのを3本」。
「そんなに買ったって食えやしねえよ」。
「余ったら前の岩どんにやるんだよ」。
「おい他人の物で義理するなよ。
しょうがねえな。
まぁじゃあいいやそれ3本包んでやってくんねえ。
ええ?いくらだい?あ〜そうかい。
へいじゃあここへ置くから。
じゃあ話をしねえな何だい?その小言の因ってぇなぁ」。
「あのねえ〜何だか分からない。
エヘヘ行けば分かりますよ」。
「そんなお前インチキがあるかよ。
おいおいおい。
何だいしょうがねえなありゃ。
すっかり騙されちゃったよ。
おいおい。
ちょいと戻ってこいよ」。
「ええっ?何?」。
「何じゃねえやい何だい?その小言の因ってぇなぁ」。
「あ〜あのね私もちょっとこうねズ〜ッと聞いてたんだけどねあの〜何でもねえ〜エヘッ化け物が出るんだって」。
「化け物?どこに?」。
「それがねあの〜大した事じゃないんだようん。
あの〜つまりねえ〜帯を買いたいなと思ってると呉服屋が来てね長屋にそれで『呉服を買ってくれ』って来るんだけどみんなね買わないんだって。
そうするとねそれじゃ商売にならないからまたしばらく経って行って『今日は買わなくても結構ですから見るだけで結構でございますんで見て頂きたい。
事によると掘り出し物があるかもしれませんよ』ってぇとねみんながそれをね長屋のおかみさんが見るんだって。
それで『呉服屋さん。
これは大層いい布だけどもこれはいくら?』『ええそちらは3分でございます』『じゃあ私これ買おうかしら。
でもちょっと家へ行って亭主に聞かないと』『あっどうぞお持ち下さい』ってんでそれを家へ持って帰って旦那に『あの〜これ大変に気に入ったんだけど買ってもいいかしら?でもこれはとても安くて3分です』って言やぁいいのにね女はそんな事を言うと亭主が『高いから買っちゃ駄目だ』って言うんじゃないかってんで『2分でございます』ってそう言うんだって。
そうするとあと1分のお金をこしらえなきゃならない。
するとおかみさんがこしらえるのは大概は内職であとは亭主のお酒を誤魔化して5合買うところを2合にして残ったお金を竹筒っぽの中にカラカラスト〜ンって入れて貯めてそれで一月のうちに1分の金を貯めて亭主からもらった2分で3分でもってその呉服代を払うんだってさ。
うん。
それで亭主がある時腕組みをしてね晦日に考えてるから『どうしたの?お前さん』ってぇと『実はどうしても勘定が3分追っつかないんだ。
まぁこれがまとまった金なら借りる事ができるんだけど3分という金じゃなかなか借りにくい』『それじゃ私がこの間買ってもらったお前さん帯をいっぺん質屋に入れたらどう?』『だけどせっかくお前にこしらえてやった物をそれじゃすまない』『いやいやそんな事はない。
夫婦なんだからそんな事は遠慮しないで言いなさいよ』ってんでそれで『それじゃ頼むよ』ってんでその帯を伊勢屋というつまり家へ持ってくんだって。
そうするとね家で3分のお金を貸してやってそれでおかみさんが具合が悪くなっちゃうんだって。
それで寝たっきりになって妹が看病に来てそれでもってね妹が『もうもう姉さんも駄目だ』ってんで『お前にも本当に迷惑をかけて申し訳がない。
何か形見をあげたいんだけどこの間こしらえた帯は質屋に入ってるしア〜アッ悔しいのはあの質屋だ』ってんで質屋が恨まれるんだって。
それがね化けて出るんじゃないかって品物がええ?気が残って。
そういう事なんだよ。
うん。
だからお酒を誤魔化してカラカラスト〜ンってなぁそういう話。
さよなら」。
「何だか言ってる事が訳が分からねえな。
お酒を誤魔化して?竹筒っぽの中にカラカラストン。
あの事かい?こらぁまずいな〜。
あっどうも旦那遅くなりまして。
熊五郎でございますが」。
「あ〜何だな呼びにやったらすぐに来なきゃ駄目じゃないか。
ええ?さぁさこっち入んな」。
「あっどうも旦那いやどうも勘弁しておくんな。
ありゃね悪気があってやった訳じゃねえんでござんすよ。
先月ねこちらで法事がございましたでしょ?私も手伝ってくれってんで頼まれてね台所を片づけてるってぇとね片口にね何かいっペえ入ってるんですよ。
とお清どんに『何だい?こらぁ』っつったらね『こらぁ燗冷ましだ』ってんですよ。
『どうすんだい?』っつったらね『まぁ燗冷ましだからね〜糠味噌に入れるか煮物に使っちまうんだ』ってこう言うんですよ。
『冗談言っちゃいけねえ。
こちら辺りで使う酒がねいくら燗冷ましだからったってお前さんそんなええ?もったいねえ事する事はねえ。
私は酒が大好きなんだけど私がもらってっちゃいけねえかい?』っつったら『まぁどうせね〜そりゃ煮物か糠味噌の中へ入れちゃうんだから持ってったって別に構わないだろ』ってこう言うもんですからねそれをもらって帰ってきてねまあ〜燗冷ましといったってこちら辺りで使う酒だからうめえのうまくねえの。
ええ?これが7日ばかりで無くなっちゃってね嬶が『お前さん。
お酒が無いけどどうしようか?買ってくるかい?』ってぇから『冗談言っちゃいけねえやなお前。
ええ?あんないい酒を飲んだあとそこらの酒が飲めるかい』『じゃあどうすんだい?』『どうすんだいったってウ〜ッあの酒を飲みてぇな』っつったら『じゃあ私がもらってこようかね?』ってぇから『そんなお前高え酒をええ?たやすくくれる訳がねえじゃねえか』ってこう言ったらね『いやそりゃ断わりゃくれないだろうから黙ってもらってくりゃいいんじゃないか』ってんでで嬶が1升をねまぁどうやったかもらってきたというかまぁウフフフこうやってまぁ頂いて参りましてね飲んだところが旦那の前ですがね燗冷ましですらうめえんだ。
これが樽から出たやつでございますからうめえのうまくねえの。
ええ?あっという間に1升を3日で飲んじゃったんですよ。
で嬶がねまぁ5合だ1升だってんで度々ねまぁ3度ばかりねええうまくこうやってくれましてね。
である時ね蔵の掃除を頼まれてねお清どんにね『ちょいとこの辺がねええ?大きい物が入るから邪魔だから片づけてくれ』ってんで。
で片づけてたらねええ?蔵の奥に一斗樽が3樽も積んであるじゃありませんか。
『おいおいおい。
ええ?これはお清どん空なのかい?』っつったら『冗談じゃないよお前さん。
蔵元から届いていっぱい入ってるんだ』と。
『旦那の寝酒にこれは飲むんだ』ってんで。
『ヘエ〜ッある所にゃあるもんだ』ってんだね。
ええ。
それからねそれをヨイショ〜ッてんで『旦那だってうわばみじゃねえんだからねええ3樽もいっぺんに飲める訳じゃねえだから1樽頂こう』ってんでヨイショ〜ッてんで担いでね1樽もらったんですがね」。
「おいおい冗談言っちゃいけないよお前。
ええ?そんないい酒を1樽持ってかれちゃたまったもんじゃない。
今日はその酒の話じゃないんだよ」。
「ええっ?酒じゃねえんですか?あっじゃああのタクアンの一件でござんすか?いやどうも旦那あれも悪気があってした訳じゃねえでござんすよ。
ええ。
お清どんがね『ちょいとお勝手の所がねどうもここん所が出っ張っちゃってねええ?荷物の置き方が悪いんで働きにくくてしょうがねえ』ってんですよ『だからなんとかしてくんないかい?』ってぇから『お〜そんな事はおやすい御用だ』ってんで動かしてやったらね『まあ〜すまなかったね。
大層ここが広くなったから動きやすくて仕事がしやすいよ』ってんでね縄にからげてええ?タクアンを3本くれたんですよ。
『な〜にタクアンぐれえ』ってんで食ってみるってぇとねうめえのうまくねえの。
3日間ねタクアンだけでおかずが要らねえで飯食っちゃったんですよ。
それからまたね行ってね『こね間もらったタクアンはばかにうまかったけどあらぁもう無えんだろうな?』ってお清どんにそう言ったらね『冗談言っちゃいけない。
家は大人数だからズ〜ッとほらタクアンだよ』ってんでね縁の下見せられた。
ええ。
それでまぁねまぁ3本ずつもらってくのも面倒くせえからこれだけあるんならってんでヨイショ〜ッてんで1樽もらってね」。
「お前みんな樽のまんま持ってくねおい。
冗談じゃありませんよ。
タクアンの話じゃないんだよ」。
「えっ?タクアンじゃねえ?あっじゃあ下駄の一件でござんすか?あれも旦那悪気があってした訳じゃねえんでござんすよ。
ええ?何しろねええ?あのね『下駄箱をねちょっとかびが生えてきたからね風通しよく掃除をしてくれ』ってぇから全部ね下駄箱の物を出しましてね。
それでねええ見たらねいい下駄が8足。
総桐の。
『ええ?こらぁいい下駄じゃねえか柾の通った。
誰が履くんだい?』っつったら『旦那が全部履くんだ』ってんですよ。
ええ?で旦那だってね蛸じゃねえんだからいっぺんに8足も履ける訳がねえんだからまぁ3足ぐれえはもらってもいいんじゃねえかってんでねええ3足もらってきましてね」。
「おいお前かい?あれ持ってったのは」。
「ええ。
もうね物を盗むのを山賊
(3足)てぇのはここから始まったんじゃねえかと思って」。
(笑い)「下らない洒落を言ってんじゃないよ。
ええ?困ったもんだねお前そんな事を他へ行ってしたらえらいこったよ」。
「ええ他じゃやりませんで。
もうお宅と決めてるもんですから」。
(笑い)「冗談じゃないそんな事決められちゃ困りますよ。
実はね今日のお前を呼びにやった用というのはええ?夜な夜な家の三番蔵にお前化け物が出るってんだ。
それをお前に見届けてもらいたいんだ」。
「へっ?れきでござんすか?そうですか。
ええ。
え〜それじゃちょいとこれから家へ帰りましてねええ親類の者と相談をして…」。
「おいおいいけませんよいけませんよ。
お前帰った日にゃねもうね腹が痛いとか頭が痛いと言って二度と戻っちゃこないんだから。
ええ?お前一人じゃないんだよ」。
「えっ?私一人じゃねえんでございますか?何だな〜旦那それを早く言っておくんなさいよ。
ええ?で誰が一緒なんでございます?」。
「家の番頭だ」。
「あっそうですか。
番頭さん強いんでしょうね?」。
「お前の後ろでガタガタ震えてるよ」。
「えっ?あ〜番頭さんいけねえな震えてちゃそんな所でええ?こっち出てくんなきゃ。
エ〜エヘヘヘ。
え〜どうも私はね旦那ねその化け物ってな相性が悪いんですよ。
ええ。
とにかくね捉めえどころが無えでしょ?フワフワしてまして」。
「そんな事を言わないでね?頼むよ三番蔵なんだ。
とにかくねええ?前に離れがあるからそこでもって見届けてくれないか?」。
「離れで?番頭さんと二人で?ヘヘヘヘ左様でござんすか。
ええ。
分かりやした」。
「さぁさぁそれじゃねここに酒が支度してあるからこのお酒と行灯を持って離れへ行っておくれ」。
「分かりましたへい。
じゃあ番頭さん。
私がええこの食い物を持ってきますから番頭さんその行灯をひとつお願いしますんで。
ええ。
ようござんすか?急に離れ開けちゃいけませんよ。
化け物だってねええ?今日は退屈だってんで蔵じゃなくってね離れのほうにいるかもしれませんから」。
「分かった分かった。
ええ?それじゃ開けるからね」。
「いないようだよ」。
「あ〜そうですか。
ドッコイショノショッと。
エ〜トあっ何だい箸が無えや」。
「アア〜ッどこへ行くんだ?お前」。
「驚かしちゃいけませんよ。
ええ?箸が無えから取りに行こうと思って」。
「急にお前立ち上がっちゃいけませんよ。
あ〜びっくりした。
ええ?私も一緒に行くよ」。
「何だな〜。
だってそこへ行くだけですよ?」。
「それだってお前離れないようにええ?袂を押えてるから」。
「何だな〜袂を押えてちゃ歩きにくくっていけねえや。
ええ?あっお清さん箸が無えんだがね」。
「おいおい箸が無いってぇじゃないか。
駄目だよちゃんとええ?渡しておやり。
何だお前たちはええ?まるでお前咎人みたいな歩き方してるじゃないか。
いいかい?あんまりガブガブやり過ぎてね酔っぱらったりなんかして化け物の正体が見届けられないなんてぇ事になると困るからねいいかい?ほどほどにして」。
「分かりました。
ええ。
じゃあごめんくださいまし。
さぁ番頭さん一杯いきましょう」。
「いや〜。
いいや。
私は何だかねお酒を飲む気になれないんだ」。
「こういう時はねグ〜ッと飲んでねええ?酔わねえってぇと少しね度胸がつきませんからええ?いきなさいよ」。
「いや。
いいよ」。
「そうですか?じゃあ私は頂きますんでね。
ええ。
なるだけこういう時はねガブガブやってね神経を麻痺させねえとねとてもつきあっちゃいられませんから。
ええ?まだね早えですからね化け物は大概丑三つというええ出る時間が決まってますからね」。
「ウ〜ンこらぁなんでござんしょう?ええ?蔵元の蔵から樽でじかに来る酒でござんしょう?ね〜?こね間こらぁうまかったんだけど今日は何だかね水を飲んでるようでうまくも何ともねえエヘヘ。
ア〜アッ」。
「アア〜ッいいね〜。
一杯いきましょうよ。
ね?いいじゃありませんかグ〜ッと。
飲んだほうがいいですよ。
ええ。
まぁまぁまぁちょいといきましょうちょいと。
ね?なめてたっていいんですからチビチビ」。
「そうかい?ハア〜ッ私もね酒は本当は好きなんだけどもね」。
「アア〜ッなるほどでもいい酒だね。
ええ?旦那様は毎晩これを飲んでんだから羨ましいな〜ウ〜ン」。
「あ〜やっぱり飲んでみるとうまいね〜ええ?ああ〜。
じゃあもう一杯もらおうかな。
ええ?ああ空きっ腹だからねええ?いい心持ちになってきたよ」。
「アア〜ッありがたいありがたいありがたい」。
「だいぶ世間がシ〜ンとしてきましたね」。
「『屋根棟も三寸下がる』というそろそろお前さん丑三つ時だよ」。
「ヘエ〜何だか薄っ気味が悪いですね。
これから化け物が出ると思うと」。
「そうだねええ?何だか気味が悪いね」。
そのうちに三番蔵のほうでピカ〜ッと光ったかと思うとガラガラガラガラドス〜ン!「ウワ〜ア〜ア〜ハ〜ハ〜ハ〜ッ出た出た出た出た。
番頭さん。
出ました出ました」。
「えらい音がしたね。
アハハ〜ッア〜ッア〜ッ私ゃ抜けましたよ」。
「何が?」。
「腰が」。
「抜けましたか?私も抜けました。
ええ。
抜けましておめでとう」。
「変な時に年始にしちゃいけませんよ。
あ〜驚いたね。
ええ?ちょいと三番蔵のほうへ行ってみようじゃないか」。
「行きますか?へえへえ。
ええ」。
怖いもの見たさで三番蔵の奥をズ〜ッと覗くってぇと。
「片や小柳小柳。
こなた龍紋龍紋。
見合って見合って。
まだまだ。
まだまだ。
ハッケヨイ残った残った残った残った残った残った残った残った残った」。
「番頭さん。
消えちゃいましたよ。
何です?今のは」。
「旦那の仰るとおり質物の気が残ってねええ?それが化け物になって出てきたんだ。
龍紋というね前相撲のまわしとね小柳という相撲取りの羽織が家で質に取ってある。
だから龍紋の羽織とええ?それと二人でもってお前相撲を取ったんだよまわしと羽織が」。
「あっそうですか。
怖くねえ全く化け物じゃありませんか。
あれっ?また何か出ましたよ」。
見ているってぇと棚にございました掛け字がス〜ッと下りて参りまして。
衣冠束帯の菅原道真公天神様が梅の一枝を持って。
「あれっ?ありゃ横丁の藤原さんから質に取ったね天神様の掛け字だよ」。
「『東風吹かば匂いおこせよ梅の花主なしとて春な忘れそ』。
こりゃ番頭。
藤原方へ利上げをせよと申し伝えよ。
ア〜アまた流されそうだ」。
(拍手)
(打ち出し太鼓)2015/03/29(日) 14:00〜14:30
NHKEテレ1大阪
日本の話芸 落語「質屋庫」[解][字]
落語「質屋庫」▽三遊亭鳳楽▽第667回東京落語会
詳細情報
番組内容
落語「質屋庫」▽三遊亭鳳楽▽第667回東京落語会
出演者
【出演】三遊亭鳳楽
ジャンル :
劇場/公演 – 落語・演芸
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
2/0モード(ステレオ)
日本語(解説)
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