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久美子社長が社長を辞められなかった本当の理由 〜 大塚家具騒動にみる事業継承のもう一つの問題点

■久美子社長圧勝も、問題は山積

27日に行われた大塚家具の株主総会で会社側の取締役選任案が可決され、大塚久美子社長の続投が決まり、久美子社長排除を求めた父の勝久元会長側の株主提案は否決されました。

久美子社長体制を支持した株主は61%にのぼり、米ファンドや金融機関の大株主が久美子社長支持にまわりました。いっぽう元会長側提案は36%しか支持を集められず、表面的には久美子社長側の圧勝です。創業者であり、筆頭株主である勝久氏の経営方針より、コーポレートガバナンスを重視し、厳しい市場環境の中での経営改革を訴える久美子社長の経営判断に株主が期待をかけた結果でしょう。

いっぽう、主要取引先であり同時に株主でもあるフランスベッドが元会長側支持にまわり、従業員持ち株会も半数が元会長側につくなど、株主総会後も、今後の経営には予断を許しません。今回は何とか勝ちましたが、売上回復も含め、久美子社長の前途にはいばらの道が待ち受けているのです。

■なぜ久美子社長は経営権争いから降りなかったのか?

では、なぜそこまでして久美子社長は続投の意思を曲げなかったのでしょうか? 大勢の株主やマスコの前で実の父母に人格攻撃までされてもじっと耐え続ける久美子社長の経営権への執着の源泉には、もちろん会社への愛もあるのでしょうが、私にはそれ以上に「経営者を降りられない理由」があったとしか思えません。実際、2005年には11年勤めて取締役までした大塚家具を一度退職しているのですから、今回もこのように壮大な親子喧嘩で世間の晒し者になるより、静かに身を引く選択肢もあったはずです。

それでも彼女が引退の道を選ばなかった理由はずばり、久美子社長が個人的に抱えている借金のためではないかと思うのです。

■長男のために会長と妻が作った「ききょう企画」

2009年、久美子社長はいったん退職した大塚家具に社長として戻ります。それに先立つ2007年には証券取引等監視委員会からインサイダー取引が指摘されて課徴金納付命令が出されるなど社内のスキャンダルが発覚し、売上が大幅減。そこで起死回生の策として勝久元会長直々に、久美子氏が社長として呼び戻されることになるのです。

このとき久美子社長が出した条件が、コーポレートガバナンス確立のための社外取締役の受け入れと、事業継承だと言われています。では、事業継承とは具体的にはどういう内容だったのでしょうか?

『週刊朝日』4/3号での勝久元会長手記によると、大塚家具の持ち株会社であり、勝久元会長に次ぐ9.7%の株式をもつききょう企画の株を、久美子社長と長男以外の弟妹に分配するよう久美子社長が懇願したといいます。上場しているとはいえ、事実上の同族経営会社で事業継承するためには当然の要求だといえます。

しかし、注目すべきはこの時点で、長男である勝之氏がききょう企画の株の50%をもっていたということです。5人の子供がいる中で、なぜ勝之氏だけが半数の株をもっていたのでしょうか? 答えは簡単です。長男だから。贈与も含め長い年月をかけて勝之氏に創業者勝久氏の持ち株が移譲されていたとしか思えません。

私の知人や友人の中小企業経営者の中で、圧倒的に多いのが二代目、三代目の長男です。彼らは生まれたときから事業継承をするのが当たり前という環境で育てられており、会社の株式についても事業継承の一策として株式譲渡が行われます。中には産まれた直後から株式譲渡が始まったという方も少なくありません。

それに対して、長男を除くその他の姉妹と弟には、便宜上多少の株の移譲はあっても、経営に影響力をもつ多数が移譲されることはまずありません。これは先代が亡くなった後に株式が分散し、兄弟姉妹で経営権を巡る紛争が起きるのを防ぐためです。日本の多くの同族企業では、このように長男だけに株式を優先的に贈与していくことにより、スムーズな事業継承をめざすスキームが常識とされてきたのです。

■負けたら借金だけが残るはずだった久美子社長

手記の中で勝久元会長は「長男の株を久美子社長と他の弟妹に分配した」と語っています。「分配」の内容は無償か有償かの譲渡でしょう。その結果、久美子社長と弟、妹たちはききょう企画株の購入資金もしくは贈与税、あるいはその両方の多くを借入によりまかなわなければならなかったと推測されます。そしてききょう企画もまた、勝之氏から130万株の株を引き受けるために発行した社債15億円(勝久氏が引受人)の返還について勝久氏側から訴訟が起こされています。

つまり、もし久美子社長が大塚家具から追放されてしまったとしたら、事業継承のために行った株の譲渡による借金だけが残り、それを返済していく資金である役員報酬が絶たれるという事態が起こる可能性が非常に高かったのです。最悪の場合、勝久氏の経営復帰により大塚家具が倒産でもすれば、資産である大塚家具株さえも紙切れになり、まさに一生かかって借金を返済するだけの日々が待っていたともいえるでしょう。これでは前回のように「後は好きにしてください」ですませられるわけがありません。まさに大塚家具と久美子社長の運命は一体なのです。

■創業者にはない事業継承者の困難

「創業者の功績」と世間ではよく言われますが、ゼロから叩き上げの創業者は自分の責任で借金をしても、事業が軌道にのれば役員報酬や配当という名目で自分自身に還元することができます。まして上場でもすれば創業者利益は大変なものになります。日本でも屈指の大金持ちがソフトバンクの孫氏や、ユニクロの柳井氏など、創業者やほぼ創業者に近い方々で、その資産の大半が自社株であることをみても、成功した創業者がいかに自己保有株による恩恵を受けているかがわかるでしょう。

逆に、同族の事業継承者の場合は、まず、先代がもつ株式を手に入れるところから始めなければなりません。確かに会社という資産はありますが、経営は生き物ですので、創業から数十年もたてばビジネスモデルもあちこちがさびついてきますし、創業者の強烈なリーダーシップに依拠してきた会社が多いことからも、今後何十年も安泰とは誰にもいえません。

その中で、創業時より大幅に価値が上がってしまった株の取得にはどの事業継承者も頭を悩ませますし、下手をすれば自分自身の収入の大半を株の譲渡にかかる費用(株式購入資金や贈与税、相続税など)に当てる必要も出てきます。全財産をはたいても払えきれずに借入に頼らなければならないケースも決して少なくありません。

特に今回の大塚家具のように、最初から事業継承者としていろいろな便宜がはかられてきた長男ではなく、久美子社長のように中年にさしかかってから事業継承者として指名された場合、継承にあてられる長い時間というメリットを享受することができず、莫大な借金を負ってしまうケースも十分あり得るのです。

また、今年から相続税の税率改正や控除の減額など、事業継承にかかる税負担が大幅に引き上げられていることから、今後、さまざまな中小企業で事業継承の資金が捻出できず、廃業を与儀なくされる会社も出てくるのではないかと危惧しています。

■長男だけではない事業継者に対する早期事業継承の必要性

今回の大塚家具騒動では、久美子社長が金融機関で経験を積んでいたこともあり、社長復帰時点からさまざまな対策を講じたことで、もし勝久元会長との深刻な対立がなかったとしたらそれほど大きい問題なく事業継承できるはずでした。しかし、同時に「もともと想定されていなかった継承者」が事業継承をするにあたり、どれほど周到な事業継承対策を行わなければならないかが露呈したと思います。

以前の記事にも書きましたが、女性の場合は特に、もともと事業継承を期待されていなかったのに、ある日突然継承者に指名され、準備に時間をかけられない、というケースが多々あります。

折しも、前出の『週刊朝日』の大学合格者高校ランキングでは、早稲田大学商学部合格者のトップが、東京の豊島岡女子学園と報道されていました。早大商学部は伝統的に中小企業後継者の学生が多く、三代目である私の父も、二代目である大叔父たちもここの出身です。以前は女子学生はほんの一握りでしたが、少子化の流れの中で中小企業の女性継承者をめざす学生も増えてきているのはないかと思います。

そのような状況の中で、従来のような「長男に経営資源を集中する」という慣習に決別し、「男女を問わず、経営者としての資質が高い子供にできるだけ早いうちから事業継承の教育と対策を行う」という経営者の意識の転換が、今回のような親子の深刻な対立という悲劇を避け、従業員の雇用を守り、ひいては日本経済を発展させる方策となるのではないでしょうか?

その意味で、中小企業経営者に対する事業継承に対するさらなる教育や啓蒙が望まれると思います。

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