2014年9月 8日
受動態のはなし
文法書の「受動態」の項をご紹介します。読みづらくなるので、4,5箇所ほど入っている豆知識的なコラムは割愛しました。
* * * * * *
1-7 受動態と能動態
受動「態」・能動「態」と言う場合の「態」は英語のvoiceの訳語で、そのvoiceがそもそも何を指すかと言えば、必要に応じて実質的意味を保ったまま動詞の主体と客体を入れ替えた場合の、本来の主体本位のセンテンスが能動態で、敢えて客体本位に作り変えたセンテンスが受動態です。
作り方のおさらいをしますと、手順はこうです。The Chinese invented gun powder.(中国人が火薬を発明した)→ 目的語を主語の位置に移す一方、主語を目的語の位置に移した上、by を頭につける。動詞の部分は、BE動詞を時制に合わせて変化させた上、動詞はED形にする → Gun powder was invented by the Chinese.
受動態の役どころは、基本的意味あいを変えることなく、言葉の座りないし英語としての通りのよさを確保するために、主語と目的語を入れ替えるというものです。したがって、「働きかけるヒト・モノ・コト」(主語)があるのは当然として、さらに、「働きかけられるヒト・モノ・コト」(目的語)が不可欠です。ということは、 It was raining. (雨が降っていた)のようなBE動詞の場合は、最初から「働きかけられる」モノがありませんから、[誤用例]I was rained. のような英語を作れません。「雨に降られた」と言いたいなら、I was caught in a rain. という言い方になります。また、She's suffering from bad cold.(彼女はひどい風邪にかかっている)のような自動詞も、やはり「働きかけられるモノ」がない例ですから、 [誤用例]A bad cold was suffered by her.といった言い方ができません。[誤用例]She is suffered from a cold.も同じ理由で不可です。
1-7-1 複数センテンスで使う受動態
なぜ受動態を使うのかと言えば、理由は大きく分けて二つあります。ひとつは、新情報をセンテンスの後段に回すためです。英語感覚では、まず相手の知っていることを取っ掛かりにして切り出し、その上で新情報を伝えるのがわかりやすいとされています。
「わたしは職場でひどい目に遭った」「上司に三度、怒鳴られた」と言いたいとします。英語感覚からすると、下の二つの例文の場合、(b) の方が「英語的」と言えます。第2文が既知の事項である I で始まるからです。
(a) I had a terrible day at work. My boss yelled at me three times.
(b) I had a terrible day at work. I was yelled at by my boss three times.
もうひとつの理由は重たい要素を後ろに回すためです。特に書き言葉で、先行するセンテンスを受けて、第2文を考えるときに、大きな役割を果たします。例えば、「ビタミンB1は、炭水化物を燃やし、また、ご自分の皮膚の健康維持に必須です。日本人科学者の鈴木梅三郎が1910年に発見しました」と言いたいとします。これを英語で言う場合、以下の二つの例では、(b) の方を使うのが一般的です。
(a) Vitamin B1 aids in burning carbs and is also essential for maintaining the health of your skin. A Japanese scientist Umetaro Suzuki discovered it in 1910.
(b) Vitamin B1 aids in burning carbs and is also essential for maintaining the health of your skin. It was discovered by a Japanese scientist Umetaro Suzuki in 1910.
これは End Weight(文末重点)と呼ばれる方法で、英語では、大事な話は後半に持ってくるという暗黙の了解があることを指します。そして、このように、大事な点が後ろに回るように受動態を使うと、結果的に、既知の事項で切り出して、新情報をあとから出すという End Focus(文末焦点)というルールを満たしており、読みやすくなります。
いずれにしろ、英語を使う場合、飽くまで能動態が原則です。他動詞の用例を調べた研究でも、能動態が9割を占め、受動態は1割です。したがってPeople speak English in the U.K. (イギリスではみんな英語を話している)をEnglish is spoken in the U.K.(イギリスでは英語が話されている)のように、BE動詞と他動詞のED/EN形(いわゆる過去分詞)で作る受動態を使うのは、普通の言い方(つまり能動態)での目的語にわざわざスポットライトを当てたい例外的な事由があるときだけと言えます。そうとすれば、自分自身、わざわざ受動態を使いたい理由を言えないなら、使わない方が賢明というものです。
特に会話ではWHO+WHATという構図でのコミュニケーションが期待されるので、「誰が/何が」を積極的に示すのが基本です。したがって話し言葉で受動態をやたらと使うと違和感を抱かれることにもなります。
他面、行為主体がわかり切っている学術文献や主体を示さず客観的な記述に努めようとする報道記事では受動態が多用されるということを意味します。事実、学術文献などのアカデミックライティングだと、活用のある普通の動詞のおよそ1/4が受動態で使われると言われています。
1-7-2 単一センテンスで使う受動態
受動態と能動態は書き換え問題のためにあるのではなく、各々、英語を使う際、こういう場合は、普通は能動態、あるいは受動態という棲み分けがあります。
しかも、他動詞の用例中能動態が9割で、受動態は1割という実証研究からわかるとおり、受動態は飽くまでも例外的な形です。特に会話に至っては、元々「誰が」どうしたのかが最大の関心事ですから、受動態は滅多に使われません。
それでは、どのような場合に受動態がむしろデフォルト(初期設定)として使われるのでしょうか。
第一に、行為主体をいちいち言う必要のない場合は受動態を使います。例えば、普通に話をするときは 「誰が、何が」で切り出しますから、
We regularly check our procedures. (われわれは定期的に手順をチェックしている)
と能動態で話すものです。
一方、事業のあらましを説明するときのように、「誰が」という行為主体が二の次となるときは、
Our procedures are regularly checked. (われわれの手順は定期的にチェックされている)
というふうに受動態にします。
実際、製造工程の説明などは受動態で通すのが一般的で、自分たちの苦労話が主題なら別ですが、普通は、いちいち、We first...then...などと説明することはまずありません。
「行為主体をいちいち言う必要がない」例には、行為主体を言うと感じが悪くなる場合も含まれます。例えば、「ビル内は禁煙です」と言いたい場合に、
We prohibit you from smoking in this building. 当ビル内であなたが喫煙することを禁ずる
という言い方によるといかにも強圧的で、感じが悪くなります。そこで、普通は以下のように受動態を使います。
Smoking is prohibited in this building.
第二に、受動態にしないと、どうでもいいことでセンテンスを切り出す結果を招くときです。
そもそも英語は必ず「誰が、何が」という形でテーマすなわち主語を高く掲げ、次いで、それについて語る、コメントするという格好をとります。悪く言えば形式主義ですが、このことから時にはどうでもいいことが主語の位置に来てしまうので、それを是正するために受動態を使います。
例えば、「アメリカではみんな英語を話している」という例を考えた場合、英語の並び順の原則から言えば
People speak English in America.
となります。People[←主語] speak[←動詞] English[←目的語] in London[←副詞句]ということです。
この場合、言葉を話すのはpeopleに決まっているから、こんなものはいちいち挙げなくてもいいはずなんだけれど、何しろ主語の位置を空けたままにするわけには行かないので、とりあえず入れてあるわけです。しかし、このままでは意味の薄いセンテンスです。
そこで、peopleと比べて意味があり、ウェイトを置いてしかるべきEnglishを主語の位置に持ってくるために、
English is spoken in London.
といった受動態を使うことになります。
同様に、自分がかわいがっていたペットのRover が車にはねられたことを人に伝えようとする場合、車のことよりはペットの名前を先に出すだろうから、自然と受動態を使って言うことになります。つまり、
(a) A car hit Rover this morning. 今朝、車がローバーをはねた。
(b) Rover was hit by a car this morning. ローバーが今朝、車にはねられた。
この他、最初に頭に浮かぶ単語(テーマ)に即して能動態にするか、受動態にするかが決まるという側面もあります。
「この扉は常時施錠しておくこと」と言いたい場合、扉がテーマである以上、以下の二つの例では、(b) の方が英語感覚では普通です。
(a) Employees must keep this door locked at all times.
(b) This door must be kept locked at all times.
第三に、時系列に即して、客観的な筆致で、歴史や人物描写をするときは普通、受動態です。
Penicillin, the first true antibiotic, was discovered by Alexander Fleming in 1928. 本当の意味で最初の抗生剤と言えるペニシリンは、1928年、アレグザンダー・フレミングによって発見された。
Alexander Fleming was born in 1881... He was appointed Professor of Bacteriology in 1929...He was appointed professor of bacteriology in 1929...He was knighted in 1944, and with Chain and Florey, he was awarded the Nobel Prize in 1945. アレグザンダー・フレミングは1881年に生まれ・・・1929年に細胞学の教授に任命され・・・1944年にナイトの称号を授与され、1945年には、チェインとフローリーとノーベル賞を共同受賞した。
第四に、最近大きく変わったことを伝える場合、よく現在完了+受動態という組合せが使われます。(行為主体が問題ではないので、省略されている例でもあります)
The Tokyo Station has been totally remodeled. 東京駅は全面的に改修された。
Haneda Airport has been expanded recently and pressure continues for more expansion. 羽田空港は最近拡張されたが、一層の拡大を求める声が続いている。
1-7-3 BY 誰々/何々が入っている受動態とそうでないもの
受動態には、以下の(a)のように、「by誰々/何が」が示されているタイプと(b)のようにそうでないものとがあります。より多く使われるのは短い (a) の方で、長めの (b) の6倍多く使われると報告されています。特に、短めの (a) は、フォーマルなライティングで頻出します。
(a) The results are shown in Table 2. 結果は表2のとおり。
(b) The police vehicle was surrounded by angry residents. その警察車両は怒った住民たちに取り囲まれた。
前置詞 BYを入れるか入れないかの判断は、前置詞BYの目的語が取り上げるに足る新事実ないし新情報であるかによりけりです。以下の二つの例文を比べてください。
(a) My smartphone was stolen. スマホを盗まれた。
(b) My smartphone was stolen by someone who I thought was my friend. 友だちと思っていた奴にスマホを盗まれた。
モノを盗むのは泥棒に決まっていますから、普通はいちいちBYを入れて盗む行為の主体を示したりしません。しかし、(b) の例のような「ニュース性のある」事実であるときは、そのことを示すために、by付きで取り上げるのが一般的です。
- Comments (0)