富が滴るトヨタの地元、思い出校舎も建て替え-賃上げ、税収増
2015/03/30 00:00 JST
(ブルームバーグ):愛知県豊田市に住む杉山孝子さん(71)は、孫が通う小学校の建物が古く、耐震性能を備えていないことに不安を感じていた。幼稚園に通う孫娘も来年4月に入学予定だが、もう心配する必要はない。そのころには耐震基準を満たす立派な新校舎が完成しているからだ。
若いころ、この地域に移り住んだという杉山さん。3人の子供も豊田市立寺部小学校に通った。今の校舎はその当時で既に古い印象があったという。その思い出深い校舎も近く取り壊される。新校舎の建設予定地は2016年4月の開校を目指し工事の槌音が響く。「建て替えないと危ないといつも思っていた。新しくなるのはいいことだと思う」と手を引く孫娘に目をやりながら話した。
豊田市が寺部小新校舎建設など市民サービスのための予算を付けられる背景には、寺部小から約3キロ離れた場所に本社を構えるトヨタ自動車 の存在が大きい。リーマンショック後、落ち込んでいた市の税収は、14年度に過去最高2兆1300億円の純利益を見込むトヨタの復活もあり、急回復している。
杉山さんによると、建て替えに伴う区画整理で、学校周辺の狭い道路も大幅に拡張されるという。地元の景気について「トヨタが良くなっているのでこの辺りも良くなっているように感じる」と話す。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券の宮嵜浩シニアエコノミストは、トヨタの地元の状況について「一言でいえばデフレからの脱却の表れ」とコメント。税収が低迷したデフレ期は施設の維持と補修で精一杯で新規のインフラ構築に手が回らなかったが、好業績の大企業による賃上げも定着し、名目ベースで賃金や税収が増えたことで、「新規のプロジェクトに回す余裕が出てきた」と話す。
駅前再開発も人口約42万人の豊田市の一般会計(当初予算額)で、法人市民税は09年度に前年度比96%減の16億2800万円に急減。その後の数年間は20億-50億円前後で推移していたが、14年度は262億円と同6倍近くに増加し、15年度もほぼ同水準を見込む。市民税や固定資産税などからなる市税も14年度に同3割近く増加し、15年度も同水準の見通し。
市では金融危機後の税収減を受けて、市庁舎建て替え工事の凍結などさまざまな支出を削り、蓄えも取り崩して対応してきた。市の貯金にあたる財政調整基金は、13年度末に113億円とピーク時の約3分の1まで目減りしていたが、15年度末には約240億円まで回復する見通しだ。
豊田市財政課の西脇委千弘課長によると、市はこのほか人口増加地区に中学校や交流施設の建設、市営住宅の建て替えなどの建設事業を15年度に予定している。市は名鉄豊田市駅前再開発や地域医療センターの建て替えなど百億円を超える規模の長期プロジェクトも進めている。
新規事業やりやすく西脇氏は、市民に必要な事業は税収に関係なく行うと前置きした上で、法人市民税の大半を占めるトヨタや関連企業からの税収増で、大規模投資を伴う新規事業が「環境としてやりやすいのは確か」と述べた。
トヨタの豊田章男社長は昨年5月の決算会見で、社長就任以来、国内で一度も税金を払っていなかったと述べた上で、「納税ができる会社になり、スタートラインに立ったことを素直にうれしく思っている」と話していた。
安倍晋三政権は発足以来、大胆な金融緩和や財政政策などを通じて企業業績を改善させ、さらに投資や賃金の増加を経て消費拡大につなげ、経済好循環の実現を目指してきた。政労使会議では企業や労組側に賃金の引き上げを呼びかけてきた。
トヨタはこれに対し、今年の春闘で労組要求額は下回ったものの昨年に続いてベースアップ(ベア)月4000円を容認。賃金制度維持分や年間一時金では満額を回答した。会社側で交渉を担当した上田達郎常務は回答に際しては「日本経済を良くしたい、好循環をしっかりやっていきたいというのは政府も会社も組合も同じ思い」だったと述べた。
三菱UFJモルガンの宮嵜氏はアベノミクスについて、景気刺激を最高潮に持っていった政策で、「国を挙げて企業の収益改善を所得とか賃金増加につなげていこうという大号令」だとし、「それにトヨタも乗っかった」と指摘。本来は景気回復とともにじっくり増えてくる法人税収と所得税収増を一気に実現させたことで、ここ1-2年は「効果が鮮明に出てくる」と話した。
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更新日時: 2015/03/30 00:00 JST