2009年3月28日
話し言葉vs書き言葉
話し言葉なのか書き言葉を知っておくのはコミュニカティブな英語を身につける上できわめて重要な要素です。というのも、インフォーマルかフォーマルを左右する要素として「話題」と「相手との関係」と並んで、「話し言葉と書き言葉の別」は重要な役割を負っているからです。
こういう問題意識がないと、大学の研究者、あるいは法務関係の人などのように、日頃硬い文章を扱っている人の場合、ただの会話がえらい文語調にもなってしまうわけで、決して笑える問題ではありません。また、わが国の場合、受験英語を通じて英語を学んでいる関係で、英語ができる(とされている)人ほど、何でもない会話に書き言葉っぽい難語のたぐいを並べるわけで、これも聞いていて疲れます。
まずは、復習がてら、次のミニクイズ(5問)で、ある単語が話し言葉に属するか書き言葉に属するかに対するご自分の感覚を確かめてみてください。出典は、ロングマンの学習英英辞典 (LDOCE) です。
英語の話し言葉VS書き言葉 powerd by けんてーごっこ
いかがでしたか。日頃から意識していないと見当もつかないはずです。改めてロングマン学習辞典の項目についている、W2だとか、S2のありがたみがわかるのではないでしょうか。(この辞典はWriting と Speaking での頻出最上位単語を3,000語まで取り上げて、pardon のように S3という表示だけの場合、話し言葉としては頻出上位の3,000単語レベルで、わりとよく使う方だけれど、書き言葉では使われないという意味になります)
★ 話し言葉と書き言葉を使い分ける重要性
スピーキングにおいては日本語だって、気楽な話をしている場面なのに、「そのうえ」に代えて「くわうるに」が出てきたり、「それなら」と言わずに「しからば」などと言う人がいたら、びっくりしますし、続けばげんなりします。
逆にプレゼンのように改まった英語を使う席で、「こうしたサンプルの多く」ということで、many of these samples と言うべきところを、a lot of these samples などと言ったりすると、聴衆には「たくさんのサンプルが」がと聞こえるわけで、こっけいな感じになってしまいます。
こういったことは、スピーキングのテストでも当然、問題にされ、主として、「単語の選択は適切か」という角度から採点されています。例えば、ケンブリッジ英検の First Certificate of English: Handbook for teachers 2008 を見ると、スピーキングでの評価項目として、Grammar and Vocabulary, Discourse Management, Pronunciation, Interactive Communication を挙げた上、Grammar and Vocabulary が何かと言えば、それは、こう説明されています。
the accurate and appropriate use of a range of grammatical forms and vocabulary 用いられる一連の文法形式ならびに語彙の正確さ、妥当性
Interlocutor(面接委員)とのやりとり、あるいは相手(ケンブリッジ英検のスピーキングテストは原則として二人一組で受けます)とのやりとりの中である単語を使うとして、It's been raining without letting up all day. I hate this continual rain. などと言ったら、聞いている人は、「ああ、continuous のつもりで、continual を使っているんだ」とすぐ気づきます。これが「正確さ」ということです。そして、次の「妥当性」がまさにここで言っているインフォーマル、フォーマルの区別の問題です。例えば、インタビュアーとのやりとりで、Yeah を連発していると、きちんとしたときは Yes を使うというルールを知らないのだという不利な判定を受けることでしょう。
★ 話の段取りに応じて言い方を選ぶ
話し言葉と書き言葉を使い分けていく上での前提として、英語では、まとまりのある話や文章がディスコース・マネジメントというスキルを使ってまとめられていることを知る必要があります。段取りがあるのです。
人がきちんとした話を英語でし、あるいはちゃんとした文章を英語で書くという場合、共通しているのは、話の筋道が通るように、構成を相手に示して行くという昔ながらの作法です。これはきわめて重要なポイントです。重要だからこそ上でちょっと触れたとおり、ケンブリッジ英検でもスピーキングの評価項目に入っているわけで、また、ライティングの答案でも、このことはチェックされます。
言葉を換えて言えば、ディスコース・マネジメントがきちんとできなければならないわけで、英語圏の人間は作文教育を通じて、筋道の通った文章を書き、あるいはきちんとしたものの言い方をするには、どういう段取りがあるかを心得ています。
ざっと言えば、段取りないし局面としては、以下のようなものがあり、出る所に出ればきちんとした話ができ、また、ものが書けるという人は、こうした段取りに合わせて、どういう言い方をすればいいのかを知っているのです。
1)話をふくらます
2)比較する
3)例を挙げる
4)因果関係を示す
5)自分はこう思うと述べる
6)自分が言っていることの確率ないし確実さを説明する
7)一歩譲る
8)新たな話題を持ち出す
9)項目を列挙する
10)言い直す
11)人の発言を報告し、引用する
12) 話のまとめをつける
例えば、上の「新たな話題を持ち出す」で言えば、教育のある人間の場合、会社のレポートなど改まった書き方を要するときは、こんな言い方をするものです。例えば「常識的に納得できるコスト削減」について話をしたいとして、書き言葉なら、こういう感じです。
The main issue in this case is sensible cost cutting. Cost cutting, as we all know, entails...
We are faced between the choice of sensible and destructive cost cutting.
There is the argument that cost cutting is not always sensible.
これがプレゼンのような(フォーマルな感じの)話し言葉だったら、こうです。
I'd like to talk about sensible cost cutting.
What I'd like to do is to explain to you what sensible cost cutting is.
What I want to do is to give an account of sensible and destructive cost cutting.
そして、友達どうしだったら、こうでしょう。
Okay, let's take cost cutting for example. I'd say we have two kinds here. Sensible cost cutting and one's that not. I'd call the latter kind, I mean the one that doesn't make sense, um, for lack of better word, destructive cost cutting.
Now, let me bring up something. Cost cutting. Ever wondered what makes cost cutting effective, or better yet, sensible?
長くなってきたので、次回以降、こういった段取りに応じた言い方の選択を見て行こうと思います。例えば、話をふくらまそうという場合、話し言葉では、moreover は書き言葉である上、おおげさなので、besides や what's more あたりで済ますといった話をする予定です。Macmillan English Dictionary for Advanced Learners の New Edition をお持ちの方は、付録の Writing Skills を見ておいてください。これをネタにしますので。
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先生が日頃上げてくださる記事のおかげで合格することができました。少なくともこれまではインフォーマルかフォーマルといった切り口でコロケーションを学ぶ姿勢を、こちらを除いては、あまり見かけませんでした。そのせいか特に会話で使う平易な単語を並べ替えて表現を組み立てることは、私を含めて苦手な人が多いのではないでしょうか。同じ苦労を後の世代がしなくて済むように、多数の意識が変化していくことを期待したいものです。
[返信]
「ぼらてぃりてぃ」さん、けんてーごっこがなくても読んでくださっているんですね。ありがとうございます。
おっしゃるとおり、フォーマル/インフォーマル、書き言葉/話し言葉の別に対する問題意識が全般に薄いと思いますので、ちょっとまとめて記事を書こうと思っています。ご期待にそえるよう頑張ります。