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日向清人のビジネス英語雑記帳:スペースアルク
 

2009年3月30日

話をふくらますツール(話し言葉vs書き言葉ーその2)

前回、英語圏の人々は主として作文教育を通じて自分のディスコース(人が書き言葉または話し言葉を通じて意味を伝え、相手が自分の解釈に従ってその言葉の意味を受け止める営み)を管理する術を身につけているとした上で、ディスコース管理の上での節目となるジャンルを以下のとおりご紹介しました。

(1)話をふくらます
(2)比較する
(3)例を挙げる
(4)因果関係を示す
(5)自分はこう思うと述べる
(6)自分が言っていることの確率ないし確実さを説明する
(7)一歩譲る
(8)新たな話題を持ち出す
(9)項目を列挙する
(10)言い直す
(11)人の発言を報告し、引用する
(12) 話のまとめをつける

実は、これは Macmillan English Dictionaryが付録の Improve Your Writing Skills で使っている区分ですが、別に独自のものでもなく、よくあるパターンです。

例えば 1993年に出て以来のロングセラーである、 Victor C. Pellegrino の A Writer's Guide to Using 8 Methods of Transition は、「つなぎ」ないし「接続表現」が定型的に使われるジャンルとして以下の15種を取り上げています。

時系列を示す
時間的に「いつ」「どのように」起きたのかを示す
順番を示す
繰り返す
例を出す
一歩譲る
結論を示す、まとめる
話を追加する
比較する
対照する
因果関係を示す
区分し、分類する
空間の配置に即して展開する
強調する
文節どうしをつないでいく

このように、英語の世界での話す内容、書く内容の整理のしかたは定型的で、意識している否かは別として、きちんとした教育を受けている「英語使い」は誰しも、こうした区分に従って「その場面でよく使う言い方」を心得ているものです。(したがってライティングの勉強をしている人は、上の各「ジャンル」につき、典型的な接続表現を二つか三つ、在庫として持っている必要があります。つまり、それで短文を作ってみよと言われたらぱっと思う浮かべることができる程度にマスターしていなければなりません。ケンブリッジ英検の場合、FCE以上では然るべき linking つまり「つなぎ」を使えるかがチェックされるぐらいで、そのぐらい重要なスキルです)

そこで、ひとまず Macmillan の区分にしたがって、個々の「ジャンル」でどういう言い方がされ、また、そのうちのどれが主として書き言葉で使われ、どれが話し言葉なのかを見て行きましょう。

★ 話しをふくらますときの言い方

英語で言えば、amplification のために使う「つなぎ」ですが、ぱっと思い浮かぶのは、次のようなもので、どれも読者のことは当然ご存じかと思います。

and
moreover
furthermore
in addition
what's more
besides

まず、and はニュートラル。但し、いいオトナが乱発すると、幼稚園の子供が、「朝、学校に行った。そしてお昼を食べた。そしてね・・・」とものごとを単純に並列するときのしゃべりかたのように聞こえるので要注意です。

次に moreover, furthermore は明らかに書き言葉です。したがって、話し言葉では使わない方がいいと考えます。ただ、moreover は、改まった席でなら会話の中でも使う人がいます。

さらに、in addition は言わば、and の強調バージョンですが、話し言葉でも使わなくはないものの、書き言葉くさい感じがあります。映画で、酒場でのならず者どうしが会話しているなかで、in addition などと言っている人がいたら、こいつは何者なんだと感じる、そういう種類の言葉です。

一方、what's more や besides は明らかな話し言葉です。ですから、academic writing では避けるのが賢明です。またEメールでは、だんだん「話し言葉化」していますから、使ってもいいと思います。わたしは気にせず、メールの中でどんどん使っている方です。

ところで、Macmillan の Improve Your Writing Skills では、この問題は、Adding Informationという項で説明されていますが、なるほど、そうだよなと思ったことが三つありました。

一つは、learner writing のサンプルを見ると、冒頭に and を持ってくるスタイルが目立ち、academic writing のサンプルと比べて6倍にもなるした上で、文頭のandはアカデミックライティングでは御法度だと言っている点です。アカデミックライティングを含め、改まった感じの文章では and を文頭に持ってこないというのは教育のある人間の世界では常識に属するわけで(但し、この記事でご紹介したとおり、ビジネスライティングではこのルールは大幅に緩和されています)、実際、プロの英語通訳でらっしゃる favouriteさん(現在は、「英語使いmakiの日常」というブログです)も、ご自分のブログでするどい問題意識を見せてくれています。すなわち同じ和文英訳でもプレスリリースのような純然たる書き言葉の世界とスピーチ原稿とでは、おのずと英語のスタイルも変える必要があるという前提に立ったうえで、スピーチ原稿の場合は、聞きやすさが優先されるので、

正式な書き言葉ではありえない表現、例えば短縮形を使うとか、then や and を文の冒頭に持ってくるとかでも、流れが自然で聞くときに理解を促しやすいのであれば、格調くずさない範囲ならアリ」

と述べてらっしゃいます(下線はわたしが付けました)。ちなみに通訳で金を取っている人もピンキリで、ここまで英語のことがわかっている方は少数派だというのが私の経験です。

二つ目は要素を追加する場合、in addition to と besides を使えるけれど、アカデミックライティングあるいはビジネスでのレポートのような場面では、in addition to の方が頻繁に使われるという事実です。言い換えれば、in addition to と besides との比較では、後者の方がインフォーマルであり、したがって、友達や同僚どうしの気楽な会話では、in addition to を使うのを避け、besides で行けということです。

三つ目は、moreover, furthermore, そして besidesの比較です。ここでは、これらの「接続表現」はいずれも、単に要素を追加するだけでなく、さらにその内容をふくらませるときに使うのだと強調した上で、besides は learner writingでの使用例を見ると、academic writingの8倍以上も使われているけれど、実は、academic writingでは使ってはいけないものだよと釘をさしています。これも話し言葉なら、むしろ besides の方が自然ということを言っているわけです。

次回は、look like, in the same way, similarly, likewise といった接続表現が定型的に使われる「比較」のジャンルを見て行きます。ロングマンの英英辞典をお持ちの方は是非、個々の言い方を引いてみてください。そして、W1, S3などのラベルをチェックしてください。

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Comments

ご紹介ありがとうございます。お褒めの言葉をいただき恐縮です。

andで文を始めない、というのを一体いつ習ったのか考えているのですが、ある程度書けるようになってから指摘され、「おおそうなのか、これはOKだと思ってた」とちょっと驚いた記憶があるので、英国人学校の2~3年目だったようです。学校唯一のノンネイティブとして、さんざん英語の補習をしてもらった甲斐がありました(笑)。日向さんにこのように言っていただけると、いい教育を受けさせてもらったんだなあ、としみじみ嬉しく思います。

[返信]

ということは、英語圏の人は、10代で文頭のandやbutは駄目だよと教わるということですよね。しかし、なんであれ、いい教育を受けられたのはたしかで、同じ日本人として,何かいっしょにトクをしたような気にもなります。

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