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日向清人のビジネス英語雑記帳:スペースアルク
 

2009年12月11日

英会話の命:接続表現 (cohesive device)

来年の夏を目標に、英語できちんとした話をするためのスキルを説明した本を書こうと、目下、構想を練っています。一般に英会話は、文法がわかっており、単語やフレーズの知識があればこなせると誤解されているのに対して、そうではなく、英会話は、相手との「掛け合い」の中での独特の手順ないし枠組みの上に成り立っているものであり、そういった枠組みを理解した上で、要所要所で接続表現を中心とする決まった言い回しを使っていって、初めて筋道の通った話ができるんですよ、ということを説明していくつもりです。いくらフレーズ集を暗記してもそれで英会話ができるようにはなりません、という話でもあります。

もっとも、理屈はこうですよ、使う言い回しはこうですよと書いてあるものを読んだところで、わが国の場合、日常的に英語に触れているわけではなく、具体的なイメージをなかなかつかめません。そこで、勘どころとなる言い回しを二往復程度の会話例の中で紹介していくアプローチで臨むことにしたのですが、そこが共著者である狩野みき先生の役どころとなります。[ちなみに狩野さん、来月下旬にアルクさんから『女性の英会話 完全自習ブック』を出されるとのこと、楽しみです]

狩野さんは、帰国子女であることに加えて、日本語でも英語でも "brilliant and engaging conversationalist" とでも形容すべき方であるだけに、会話例を作らせたら右に出る者がいません(実例はこちらをご覧ください)。そういう方によるバーチャル会話の世界を通じて、会話の運び方に慣れていただこうというのがこの本のねらいです。

硬い表現で言うならディスコース・マネジメントのガイドブックです。「ディスコース・マネジメント」という言葉はわが国で耳慣れない言葉かも知れませんが、英語学習の世界では「筋道立った話を自ら構成していくスキル」という意味で使われており、例えば、ケンブリッジ英検の FCE (ヨーロッパ共通参照枠の B2) のための教師用ガイドブックでは、こう説明されています。

This refers to the candidate's ability to link utterances together to form coherent speech, without undue hesitation. これは、受験生が、むやみにつっかえることなく発話内容をつなげて行き、筋道の立った内容の話をする能力を指します。

当然、coherent であるというのはどういうことかという疑問が湧きますが、Graeme Kennedy の Structure and Meaning in English: A guide for teachers (Pearson) は、このように説明しています。

We expect texts to be coherent. We expect the sentences or utterances to be connected in meaning so that the text as a whole 'makes sense', is 'meaningful' and 'comprehensible'. テキスト[訳注 コミュニケーションに供されるひとまとまりの言葉]は筋道だっていることが予定されている。すなわちテキスト全体として「意味が通じるものであり」「意味を成しており」かつ「内容的に理解できるもの」となることを期してセンテンスまたは発話が意味上つながっているのが普通とされる。

そして、Kennedy は、このような coherence を確保する要素として cohesion というものがあるとして、次のように続けています。

Texts are said to display cohesion when different parts of the text are linked to each other through particular lexical and grammatical features or relationships to give unity to the text. Cohesion can thus contribute to coherence. テキストは、テキスト内の異なる要素が互いに語彙的側面または文法的側面において、または相互の関係上結ばれており、その結果、テキストとしての一体性が認められる場合に「きちんとつながっている」とされる。その意味で「きちんとつながっていること」は筋道だった話をするための要素である。

そうとすれば、筋道だった話をするためには「きちんとつながっている」ことを積極的に示して行くツールが必要になるわけで、それが今、シリーズでご紹介している「前置き用副詞」を初めとする各種の接続表現 (cohesive device) です。

このようにコミュニカティブな英語ないし英会話をこなせるようになるには、接続表現をここぞという所に配して使いこなすスキルが不可欠なのですが、書店で英会話本をいろいろとのぞいても、ディスコース・マネジメントという見地に立って接続表現の扱い方をまとめて説明しているものがないようです。

それでは高校レベルの文法書はどうなのだろうと調べたところ、これが貧弱で、がっかりしました。例えば有名私立高校の英語の先生から、「どの先生もみなさん、これを中心に据えています」ということで頂戴した Forest を見ると、副詞はもっぱら動詞を修飾する要素として捉えられており、会話において大きな役割を果たす接続副詞 (linking adverbial) の一種である「文を修飾する副詞」にわずか1頁弱の説明を付しているだけで、それも「副詞は語を修飾するだけでなく、文全体を修飾することもできる」という程度で終わっています。これでは、コミュニカティブな英語でいかに接続副詞が使われているかなど想像もつかないことでしょう。

もっとがっかりするのは、教育現場では、およそ接続表現などに力を割いていないという事実です。松江高専の飯島先生という方が書かれたSome Features of Japanese Clause Relationsというレポートに高校の英語教師17名を対象としてアンケート調査が載っていましたが、それを見る限り、接続表現が大した扱いを受けていないのがよくわかります。つくづくわが国の英語教育は浮き世離れしていると改めて感じます。やっぱりガラパゴスです。

接続表現というものは、当たり前と言えば当たり前の話ですが、話の中での先行部分があとに続く部分とどういう関係にあるのかを明示するわけで、その意味で「きちんとつながっている」かを左右するきわめて大事なツールで、これの会得なくして筋道だった話はまず無理とも言えるぐらいです。それだけに、英語で会話ができるようになりたいという方々が、このあたりの感覚を会得して、自分のスキルとできるような本を書きたいとの思いが募ります。冬休みの宿題です。

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Comments

「いつか」、ではなく「来年の夏」と知り、とても嬉しく思っています。このような本を待ち望んでいました。

前置きの副詞は、次の発言の位置づけを予告する役割と同時に、私にとっては、カンマが示すとおり、時間稼ぎの役割も果たしてくれています。
とりあえずひとこと言って、その間に次に続く言葉を考える時間を与えてくれる、会話に欠かすことができないアイテムでもあります。

「ディスコース・マネジメントのガイドブック」の出版、たのしみにしています。

[返信]

ciachiさんのご期待に応えるものとなるよう、頑張ります。これまで目を通した、discourse analysis や conversation analysis関連の資料とケンブリッジ大学が進めている English Profileを元に、「英語を話す」ということがどういうことなのか、自分なりに解明し、ご紹介するつもりです。

日向先生こんにちは。

接続副詞は、英会話で多用されているのですね。
是非とも上手に使えるようになりたいです。
出版が待ち遠しいです。

[返信]

夏前に刊行したいという予定を聞かされています。ご期待に背かないものとなるよう、頑張ります。

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