HOME英語ニュース・ビジネス英語
 
 


日向清人のビジネス英語雑記帳:スペースアルク
 

2006年11月 8日

なぜ自動詞か他動詞かが問題となるのか

文法をひととおり勉強した人なら誰でも動詞には目的語を取らない自動詞 (intransitive verb) と目的語を取る他動詞 (transitive verb) の別があり、前者には BE 動詞を初めとする連結動詞 (linking verb) が入るということを知っているはずです。

しかし、そもそも、なぜこうした区別が問題となるのか、また、自動詞か他動詞かがわかっていると、どういうゴリヤクがあるのかということになると、そこまで意識し、おさえている人は少数派なのではないでしょうか。

目的語を取る動詞が他動詞で、目的語のないのが自動詞と機械的に覚えるのも一つの方法でしょうが、その背後にある理屈まで知っておいた方が楽しいはずです。同じ千本ノックでも、その結果としてこういうセンスが身につくのを楽しみにしながら繰り返すのと、ただただ苦しさに耐えながらやみくもに練習問題を繰り返すのとでは大違いです。

そこで、今回は、この自動詞と他動詞の区別の問題を考えてみることにしました。

★ 区別のゴリヤクは三つ

そもそも自動詞と他動詞を区別することの実益は何に求めるべきなのでしょうか。自分でこれまで勉強してきたところでは、以下、三つのゴリヤクがあります。

第一に、他動詞しか受動態を作れないというルールがあるので、どれが他動詞でどれが自動詞かがわかっていないと最初から話になりません。

第二に、動詞と名詞とを結びつけようという場合、自動詞だと前置詞が接着剤代わりに必要となる反面、他動詞は最初からいきなり目的語とくっつくことになっているので、間に前置詞などを入れると間違いになります。前置詞の項で取りあげた、discuss about something などはありがちで、しかも同じ文法ミスの中でもかなりレベルが低いとされるものの一つです。

そして、第三に、自動詞か、他動詞かによって、HOW? に答える 副詞、例えば、dramatically や sharply といったものを入れる位置が変わってきます。Sales dropped sharply. に見られるとおり、自動詞にこうした態様を表す副詞をくっつける場合、Sales sharply dropped. というふうに、自動詞の前に入れるのではなく、うしろに回すのが普通です。逆に他動詞との関係では、We have significantly expanded our production capacity.(当社は生産能力を大幅に拡充している)のように、動詞の前に入れます。従って、自動詞か他動詞かの別をわかっている必要があります。

ところが、どれが自動詞で、どれが他動詞かの判別となると、簡単ではありません。実際、辞書を見ると、「自・他」あるいは v.i. /v.t. などというどっちつかずのラベルがあり、どちらでもいいような感じすら受けます。文法書を見ても、目的語を取らないのが自動詞で、それを取るのが他動詞という程度の簡単な説明で終わっているのが普通です。

しかし、上で触れたとおり、自動詞か他動詞かを区別する実益があるわけですから、もっと踏み込んで自動詞の何たるかを、そして他動詞の何たるかを考えておく必要があるのではないでしょうか。

★ 他動詞とは何ぞや、自動詞とは何ぞや

もともと英語の transitive での trans はラテン語の「わたっている」「またがっている」という意味の言葉から来ているぐらいですから、transitive verb つまり他動詞は、主語とその動詞の目的語との間で橋渡し役を務めるものです。したがって、他動詞を使うセンテンスの構図はこうなります。

動作・作用の起点(主語) + 動作・作用の内容を示す他動詞+動作・作用の及ぶ相手

そうとすれば、ここでのセンテンスの内容は、What does it do? または What did it do? に答えるものとなります。言ってみれば、他動詞を持つセンテンスでの主語は「何かをする」ことが予定されているのです。

例えば、「経営する」という意味の他動詞 run を使って、「彼女は100万ドル規模の事業を行っている」と言うとすれば、こうなります。

She runs a million dollar business.

ごれを上の構図に当てはめて分解すると、

動作・作用の起点 = She
動作・作用の内容 = run
動作・作用の及ぶ相手= a million dollar business


です。そして、She runs a million dollar business. は、What does she do? に対する答えになっています。

次に、自動詞を意味する intransitive verb での intrans は、要するに NOT across ということですから、ここでは「橋渡しされる」ものがありません。他動詞のときの構図を流用して言えば、目的語を取らない自動詞を使っているセンテンスの構図はこうなります。

主語 + 他に及ばない動作・作用/状態

動作・作用があっても他にまで及ばない、あるいは、状態の描写であるということは、そこで語られていることが主語限りのものだということです。センテンスの内容は、What is its state? (どういう状態になっているのか)あるいは What happened? (何が起きたのか)に答えるものであり、ここでの主語 は「何かをする」ということがなく、「何かが、こうである」あるいは「何かが、どうだった」という説明が、しかも主語限りのいわば自己完結的な説明が行われているだけです。

例えば、「運行する」という意味の自動詞 run を使って、「田町行きのバスは10分置きで運行されている」と言うとすれば、こういう言い方になります。

Buses to Tamachi Station run every ten minutes.

これを分解すると、

主語= buses to Tamachi
他に及ばない動作・作用= run
動作・作用がどういうものかの説明=every ten minutes

となります。

ここで自動詞とは何ぞやをもう一度まとめておくと、こう言えます。自動詞というのは、組合わさっている主語さえあれば、一応意味が通じる動詞であり、その動作・作用の対象である目的語がありません。大半が (a) laughやsleepのように自分ではコントロールできない行為、(b) ある場所での行為・状態(例えば stay in Tokyo)それに (c) 場所的移動(例えば walk)を表す言葉です。

このように、自動詞というものは、目的語を必要とせず、主語さえあれば意味が通じる動詞ではあるものの、I stayed.であれば、当然「どこに」という補足説明が期待されますから、単独で使われることはむしろ少ないと言えます。つまり実際上は、「どこで」「どのように」「どのぐらい長くか」を説明する副詞的要素が続くものです。しかし、何かが続くとしてもその動詞が表す動作・作用が及ぶ名詞というのではなく、飽くまで補足的要素です。他動詞を使っての We discussed the matter.(われわれはその問題につき協議した)という例のように、動作・作用の起点(ここでのWe)と到達点(ここでのthe matter)というものがないことにおいて、自動詞は独特の世界を持っています。

★ 他動詞か自動詞かの判別法

動詞は前項で取りあげた run のように、他動詞として使われもするし、自動詞としても使われ、しかも、いずれであるかによって意味も違って来るというものがたくさんあります。そこで、ある動詞が自動詞なのか、他動詞かを見きわめる必要があります。意味が違うということに加えて、自動詞なら、所定の前置詞を接着剤にして名詞と組み合わせるといった操作が必要ですし、他動詞なら逆に前置詞を入れてはいけないというルールが働きますから、この見地からも判別が大事です。

この点、文法書が普通、自動詞、他動詞の別にあまりページを割かないだけに、C. Edward Good の A Grammar Book for You and I, ...oops Me! (Capital Books) がユニークです。

まず、自動詞がそもそも別の名詞とセットで、つまり目的語とセットで使われなくてもいいのは、その本質からだとし、「自動詞というものは、その文法上の主語の動きや位置を語るものであり、直接目的語の入り込む余地がない」と説明しています。

Amber runs across the field.

Amber walked through the woods.

といった例を挙げ、いずれも Amber の体の動きまたは位置、ありかを語っており、こういったものが自動詞なのだとしています。

そして自動詞の場合、もともと組み合わさる名詞の存在が予定されていないので、それを持ち込むときは、上の across や through といった前置詞というオプション部品が必要になるのに対して、他動詞の場合は最初から名詞と組み合わさることが予定されているので、前置詞という部品がなくても用が足りるようになっています。

ところで、この本がユニークなのは、自動詞、他動詞の判別法です。動詞が "x" だとして、

Can I "x" somebody or something? と自問して Yes と言えるなら、その x は他動詞で、そうでなければ自動詞だというのです。わかりやすくなるよう、一部、言葉を補充しながら、そのアプローチをご紹介しましょう。

たとえば、「順守する」という意味の動詞 comply の場合、

Can I "comply" regulations?

と自問した場合、答えは No ですから、それは自動詞だということであり、したがって名詞に結びつけるためにはオプション部品が、ここでは前置詞 with が必要となります。「われわれは法令を順守する義務を負っている」と言いたいなら、こうです。

We are required to comply with regulations.

次に「逃げる」という意味での run の場合、

Can I "run" a dog?

と尋ねた場合、答えは No ですから、それは自動詞ということであり、したがって I ran away from the dog. というふうに名詞に結びつけるためには away from などの前置詞が必要となります。

同じ run でも、「密輸する」という意味の run の場合は、

Can I "run" guns?

と自問したとき、Yes と答えられますから、他動詞となり、They run guns across the border.(連中は国境をまたいだ銃の密輸をやっている) のように、前置詞なしで目的語の guns と結びつけて使います。

端的には、目的語をいきなり取れるかをチェックし、取れるとしたら前置詞なしで使うんだよということです。逆に、主語限りの話であり、動作・作用が及んで行く先がない場合は自動詞だから、他の名詞と結びつけるときは前置詞が必要になります。

ただ、この方法は、自動詞、他動詞といった名称を知っているかは別として、ともかく「これはいつも前置詞とセットで名詞に結びつけるな、あっちは前置詞なんか使わないよな」という経験のあることが前提になっているので、ビギナーにはちょっと厳しいかも知れません。コメントしてくださったjiangminさんのおっしゃるとおり、多少なりとも自動詞、他動詞の判別を経験していないとぴんと来ないおそれがあります。

そうは言っても、 verb intransitive ということで v.i. が、verb transitive ということで v.t. が何の断りもなく無愛想に並んでいる辞書を使う際に、以上のことを思い出しながら使ったほうが、その動詞のイメージもふくらみ、のちのち役立つはずです。

★ まとめ

自動詞なのか、他動詞なのかは、その動詞、例えば、discuss であれば、「それを discuss できるのか」と自問し、Yes と言えるなら他動詞だというふうに区別します。逆に disappear のように、 "something disappeared " という目的語なしの形で使うのが普通で、"We disappeared something. " という用法に違和感があれば、それは自動詞です。ただ、このあたりは、こういった問題意識を持ちながら観察を続け、ある程度場数を踏まなければなりません。

こうした自動詞と他動詞を区別することの意味合いは三つあるというのが私の理解です。第一に、他動詞であれば、名詞と組み合わせるときは前置詞ナシで使います。つまり discuss something というパターンであり、discuss about something などと言ったら間違いだということです。

第2に、他動詞であれば、Various issues were discussed.(様々な問題が論じられた)と、受動態で使えます。「何々 was discussed」という受動態に違和感がなければ、その動詞は他動詞だということも言えるわけで、そこから逆に 普通、「何々 disappeared」というふうに目的語を取らない自動詞として使うのが普通であるものは、× Something was disappeared from the company. といった受動態を作れない、無理に作れば誤用例だということになります。

第3に、他動詞であれば、HOW? に答えるタイプの副詞と一緒に使うときは、動詞の前にその副詞を入れるのが一般となります。例えば、日本航空の2006年3月期中間決算の説明会で、社長が事業構造の抜本的見直しを進めるという趣旨の発言をしたのを受け、The Wall Street Journal はこの発言を "We will dramatically overhaul our business structure." と言った旨伝えていますが、これなど、We will overhaul our business structure dramatically. とするのは、いかにも座りが悪い感じがあります。やはり他動詞の場合は、動詞の前に入れたくなるものです。(こういった HOW? に答える副詞をどこに入れるかという問題については、 How?に答える副詞を入れる位置:Sales suddenly increased.なのかSales increased suddenly.なのか(英語の落とし穴の13)をご覧ください)

Revised November 10, 2006

__________________________________________________________________________


Bean_line.gif



人気ブログランキングに参加しております。よろしかったら、このリンクをクリックして一票入れてください。どうぞよろしくお願いします。人気blogランキングに一票

Trackbacks

Trackback URL: 

Comments

日本語の自動詞、他動詞と英語のそれとは根本的に異なるように思います。つまり、意味で区別できないとおもわれるのですが。look atなどは 目的語を取る文章を構成しているように思います。確か、意味で考えるなと予備校の先生はおっしゃっていたと思いますが。

[返信]

ありがとうございます。ご覧のとおり、ここでは英語の自動詞の話をしています。

こんにちは、いつも参考にしています。僕は今学生ですが、自動詞は前置詞をとって目的語をとると大学教授は授業中におっしゃいました。phrasable verbというものがあるそうです。英語の自動詞と他動詞と、日本語の他動詞、自動詞は根本的に異なるように思います。日本語のそれらと異なり、意味で区別できないようにおもうのですが。

[返信]

そういう考え方もあるのだと勉強になりました。ただ、ここでは英語の文法書が取る一般的な立場に基づいて書いております。

日向先生、こんにちは。最近こちらのブログを読むようになりました。とてもタメになります。ありがとうございます。
さて、下記質問です。

上の記事では、
”他動詞であれば、HOW? に答えるタイプの副詞と一緒に使うときは、動詞の前にその副詞を入れるのが一般となります。”

とありますが、リンクが張ってある、6/18の記事では
”★ 目的語を取る動詞との関係でも、動詞のあと、つまり文末”

となっていて、矛盾してると思うのですが?どちらが本当でしょうか?

[返信]

今回の記事の内容の方が正しいので、リンク先の記事を訂正しました。ありがとうございます。
 リンク先の記事を書いた当時、ネットで調べた上、他動詞の場合、動詞の前に副詞を入れる方が多いことを確認して喜んでいたのに、書いているうちに枠組みがずれてしまったようで、失礼いたしました。

こんにちは。いつも参考にしてます。
今回の記事は腑に落ちませんでした。
Can I "x" somebody or something? と自問して答えられるかどうかが分るのは既に"x"が自動詞か他動詞かを知っているからであって、知らないとやっぱり分らないので、少しも分りやすさが増してないように思います。

[返信]

うーん、ごもっともです。「Can I "x" somebody or something? と自問して答えられるかどうか」は、「これはおかしいと」感じるようなセンスが涵養されていることが前提にあるからです。そのあたりの感覚を記事の中では、「場数を踏む」必要として表したつもりだったのですが。
 強いて日本語の用法に引きつけて言えば、他動詞を使って、「エンジンを止める」とは言えるけれど、「エンジンを『止まる』とは言えません」よねという感じを出したかったんですが。ちょっと本文の表現、考え直します。
 結局、まずは辞書で出発点を確実なものにしておいてから、あとは、動詞が出て来るつど、「そうは言わないよな」というセンスが確実になるまで、試行錯誤せよということになりそうです。
 ありがとうございます。

コメントフォーム
Remember personal info?