HOME英語ニュース・ビジネス英語
 
 


日向清人のビジネス英語雑記帳:スペースアルク
 

2013年6月27日

現在形と過去形の話

今、文法書を書いているのですが、どういう内容の本かがわかるよう、その中での時制の現在形と過去形の部分をご紹介します。なるべくコンパクトな本にしたいので、現在形と過去形もこの程度で収めたいと思っています。既存の英文法書を勉強した方にはなじみのない説明のしかたかも知れませんが、文法というのは数ある選択肢の中からコンテクストに見合ったもの選別する眼力養成法というアプローチで行くと、こういう形のガイドラインの方が使い勝手がいいかと思います。

内容は、Michael Lewis の The English Verb と、Downing & Lockeの A University Course in English Grammar にもとづいています。

時制:現在形、過去形

時制というと、客観的に存在する時間軸にそって動詞の形をそれに合わせないといけないかのような印象を受けますが、そうではありません。事実、後述するとおり、現在形だからと言って時間軸上の「現在」のことばかりを指しているわけではありません。時制を理解するに当っては、時間軸上の出来事が話し手/書き手にとり身近な現実と感じられれば現在形を使い、距離感があれば過去形を使うという感覚が大事で、「現在形」「過去形」といった名前にとらわれないようにするのが最大のポイントです。

現在形

名前こそ「現在」形ですが、時間軸上の「現在」との関係は希薄で、現在形は、話し手/書き手が事実と認識しているモノ・コトを表すのに使われています。実際、文法書に現在形の例文として載っているものを見れば、いずれも、When? On what occasion? と、時間軸上の位置を特定するための質問をしたら、答えられないものばかりでで、時系列上の問題ではなく、事実の問題であることがわかります。

✔ 現在形は、時間軸を意識する必要がない、事実を言うために使います:We produce 1,000 units a month.  I work in the IT industry.   I go to the gym regularly.
✔ 「詫びる」のように、「そう言う」ことイコール「そのように行為する」ことである場合、現在形を使います: I apologize for the mess-up.  I warn you that this conversation is being recorded.
✔ 臨場感を出すため、スポーツ中継では、数秒とは言え、済んだことであり、本当は過去形を使ってもいい場面で敢えて現在形での描写をします:Sharapova, on the backhand, hits the ball. 
✔ 同じく臨場感を演出するため、報道記事の見出しも、Chinese investors pursue property deals. といった例に見られるよう、過去の出来事を報じている場合であっても現在形を使います。
✔ 同様に過去の話をしている場合に、強調したい点にスポットライトを当て、前面に出したいとき、現在形を使います:He was just a mediocre salesman, and then suddenly, he wins the President's Award for Top Producer. What do you make of that?
✔ 天気予報が典型ですが、say, tellあるいはsee, hearといったコミュニケートする動詞や understandといったメンタルな動詞で過去の事実を報告する場合、報告内容が今なお通用することを強調するため、現在形を使います:The weatherman says heavy rains are set to continue.  Jack tells me that Jill has left the company to join a rival company.

過去形

過去形という文法形式を使いこなす上で頭に入れておくべきポイントは、「距離感」を表す道具だということであり、実際には、時間軸上の距離、現実との距離(仮定)、そして社会関係上の距離として表れます。つまり I went to Osaka yesterday.は時間軸上で現在とは距離があることを、If I were you...は現実と距離があること即ち仮定であることを、さらに、Could you sign here? は相手との距離を空け、丁寧な感じを出そうとしていることを示しています。

✔ 過去形も現在形同様、時間軸とは無関係に事実を言うためのツールですが、現在形を使う場合に比べ、話し手/書き手にとり、物理的時間的な隔たり、または心理的な隔たりのあることを表しています。
✔ 過去の時点を明示または黙示で特定して、その出来事を「済んだこと」したがって、現時点との物理的時間的隔たりを意識しつつ言うときは過去形を使います: He spent his life abroad.
✔ 過去の時点を特定する last year 等の語句がある場合は過去形の守備範囲となり、漠然と過去を振り返る現在完了は使えません: ◯ I bought an iPad last week. ✕ I have bought an iPad last week. 
✔ 過去の時点の特定は、コンテクストに照らして黙示的にわかれば十分です:Did you hear the news? 
✔ 具体性に欠ける once, whenといった接続副詞やwhile, as soon asといった接続詞でも、「過去の済んだこと」を言うためには十分とされます。I once knew a trilingual economist.  While we drove toward Tokyo, I brought him up to speed about the negotiations.  
✔ 実質的には現時点での話でも、過去形を使うことで、心理的距離感が演出される結果、丁寧な言い方になります:What was the name again, please?
✔ また、こうした過去形を使うことによる距離感の演出は、She talks as if she knew everything. や I'd tell you if I knew. のように、従属節の中の動詞を過去形にすることで「実は違うこと」を強調するような例でも見られます。そこで、相手にも、as if she knew everything (but in fact) she doesn't, if I knew (but in fact I don't) と聞こえることになります。

MEMO 過去形を使うと現実味が薄らぐというのは非常に大事な点です。例えば、「じゃ、機会があったら、この話、伝えておいてくれよ」と相手に言った後、向こうが、I'll pass this on if I see her. と言ったなら、言われた方は、「そのうち会う機会がありそうなんだ」と感じ、一方、 I'd pass this on if I saw her. という言い方だったら、saw と、過去形なので、彼女と会える可能性があまりないんだと受け止めることになります。

Trackbacks

Trackback URL: 

Comments

コメントフォーム
Remember personal info?