2006年2月27日
StartとBeginの使いわけ
和英辞典で「始まる」「始める」を引くと、start、begin のどちらでもいいような書き方になっています。英英辞典を見ても同じようなもので、例えば、Oxford Advanced Learner's Dictionaryでbeginの項を引くと、わざわざstartと比較するボックスがあり、There is not much difference between begin and start, though start is more common in spoken English.と説明しています。どちらを使おうと大差はないけれど、話し言葉ではstartが使われることが多い(逆に言えば、beginはフォーマルな感じがある)というわけです。
ただ、あとで取りあげる begin 独自の世界との関係で、ちょっとおもしろいのは、begin について、The story begins on the island of Corfu.(話はコルフという名の島から始まる)という例を挙げながら、一連の出来事を語る場合によく使われるとしている点です。
このように基本的には begin、start は、どちらを使おうと問題ではなく、互いに入れ替えても意味は変わらないと、ひとまず言えます。しかし、場面によっては、もっぱら start を使うのが普通で、begin が使えないケースがあることも事実です。この点、かなり英語ができる人でも、begin の方が start よりフォーマルな感じがあり、これを更に堅苦しい言い方にしたければ、commence が使われるという程度の認識にとどまっており、begin が使えないケースまではおさえていないということもあるでしょうから、きょうはこの問題に焦点をあわせてみます。
まずは、start しか使えず、ここで begin を使ってしまうと響きがおかしくなるとされる例をご覧ください。
(1) 旅行などでの移動の開始時点を言う場合
NOT I think we ought to begin at six, while the roads are empty. BUT I think we ought to start at six, while the roads are empty. (道がまだ空いている6時に出るべきだと思うよ)
(2) 機械などが「始動する、起動する」ことを言う場合
NOT The car won't begin. BUT The car won't start. (さっぱりエンジンがかからない)
(3) 機械などを「始動させる、起動させる」ことを言う場合
NOT How do you begin the washing machine? BUT How do you start the washing machine? (この洗濯機を動かすのはどうすればいいんだ)
以上の例は、Michael Swan の Basic English Usage (Oxford) で取りあげられているものですが、Swanは、なぜそうなのかという理由は説明していません。まあ、よくよく眺めてみると、いずれも、begin が、「それまでしていなかったことをする」つまり "do something that you were not doing before" (Chambers Essential English Dictionary) であるとするなら、 set something in motion (何かが動くようにする、始まるようにする)という感じが強調されているようでもあり、それが start の特色のようにも思えます。
このあたりの感覚を明確に描いているのが、William Joseph Currieと清水健二の共著『英語の類義語使い分けBOOK 動詞』(ベレ出版)です。同書によると、begin も start も、今まで止まっていたものが動き出すという点では共通だけれど、start の場合は、動き出したのちも、その活動や運動を続けていく「運動性」にウェイトがあるのに対して、begin の方は、「目的を達成するための活動や運動の『開始の瞬間』のみに焦点が当てられる語で、start のような運動性を表すことはありません」と説明しています。
つまり、二つとも「突発性」(静止状態から運動している状態への移行を言いたいのでしょうが、何か難聴にでもなってしまいそうな、すごい日本語です)において共通しているが、それに続く「運動性」において、それがある start と、それがない begin とに区別され、棲み分けがあるというのです(以下、「Currie/清水説」)。そこで「車のエンジンがかかった」ことを表す場合はあきらかに「運動性」が問題なので、こうなると言います。
(4) NOT The engine of the car began. BUT The engine of the car started. (車のエンジンがかかった
日本語では、「車のエンジンがかかる、かからない」といった言い方をするものの、英語では、普通、主語は車かエンジンかのいずれかで、こういったくどい言い方はあまりしません。その意味で、この例文自体、ちょっと変わった感じがします。しかし、それは別として、上の文例 (2) と(3) の場合、なぜ startであり、begin ではまずいのかを「運動性」があるからだとすっきり説明できるので、なるほどと感心します。文例の (1) も、出発後、目的地に向けての一連の活動が続きますから、やはり「運動性」で説明がつきます。
ところで、以上の場合は、beginだと具合が悪く、start しか使えないというケースでしたが、どちらかと言うと、startまたはbeginのいずれかが使われるのが普通だという場合もあります。例えば、前記の Basic English Usageは、こんな例を挙げています。
どちらかと言うと、start を使うケース…
(5) ある程度日常的に繰り返されるもので、始まりと終わりのあるものを言う場合(5-1) It's starting to rain.(雨が降り始めて来た)
(5-2) What time do you start teaching tomorrow morning?(あしたの授業で教壇に立つのは何時からですか)
↑
上記のCurrie/清水説に照らして考えた場合、スタート後の「運動性」ありと言えますから、この尺度から考えても、startの方がbeginよりしっくり来ると言えます。
どちらかと言うと、begin を使うケース…
(6) 時間がかかり、あるいはゆっくり流れるものを言う場合
(6-1) Very slowly, I began to realize that there was something wrong.(少しずつではあったが、何か変だと気づき始めた)
(6-2) We will begin the meeting with a message from the President.(大統領から寄せられたメッセージをもって、この会議を始めたいと思います)
↑
Currie/清水説で行くと、begin の方は目的を達成するための活動や運動の「開始の瞬間」のみに焦点が当てられる語で、start のような運動性を表すことがないわけですが、(6-1) の場合、「薄々変だな」と感じ始めて、その後、「ますます変だな」と、感触が強くなっていくプロセスがあるわけですから、「開始の瞬間」のみに目を向ける begin をここで使っていいものだろうかという感じがします。
これに対して、(6-2) は、メッセージを読みあげる、会議の冒頭での一定時点を取りあげている限りでは、「開始の瞬間」を守備範囲とする begin なのだと、これは納得できます。
なるほど、このCurrie/清水説はそれなりに説得力があり、一つの説明としてはおもしろいのですが、普通の英語の使い手は、理詰めで判断しているわけではなく、「この手のものは start と stop で語るから、この場合は、startでしょう」とか「こういった場合の終わりの方は end だから、始まりはその反対語のbeginじゃないの」という程度の感覚だと思います。こういった見地から上の (1) から (6)を反対語という見地から捉え直してみると、こうなります。
(1) I think we ought to start at six, while the roads are empty. ← 出発した場合、途中で停まったりするわけで、そういった場合は、stopだし、普通、最初の一歩を言うときはstartだから、ここはbeginではないでしょう。
(2) The car won't start. ← 機械類のボタンをながめると、StartとStopが並んでいることに示されるとおり、機械類の停止が stop であるからには、その起動を言う場合は、 start が対応しています。
(3) How do you start the washing machine? ← 同上。
(5-1) It's starting to rain. ← 反対に降りやんだときは、It's stopped raining. ですから、ここは、いわば対応する start が自然と言えます。
(5-2) What time do you start teaching tomorrow morning? ← こういった作業を切り上げるときは、普通、I stopped doing something around... と言ったりしますから、start-stopというセットで言えば、ここは start で行きたくなります。
(6-1) Very slowly, I began to realize that there was something wrong. ← こういったプロセスは、It all ended when suddenly it dawned on me that...(突如として…であることに気づいたとき、これに終止符が打たれた)といった感じで終わりの方が語られるものです。そこで、end-begin という組み合わせから考えて、ここは start より begin の方が座りがいいと言えます。加えて、上のOxfordの辞書でも言う通り、何かが積み上がっていくプロセスを語る場合は、begin を使う方が自然という感じもあります。
(6-2) We will begin the meeting with a message from the President. ← The chairman ended the meeting with concluding remarks. (議長は閉会の辞をもって会議を終わらせた)というふうに、endを使いますから、ここは begin の方がいいのかなと思えます。
以上のことのまとめ代わりになると思いますが、Merriam Webster's Collegiate Dictionary, 10th ed. は、こんなふうにさらりと説明しています。
BEGIN, opposed to end, is the most general. START, opposed to stop, applies esp. to first actions, steps, or stages.(BEGINは、end の反対語であり、もっとも広く使われる。START は、stop の反対語であり、特に、一連の行為、順序がある場合の手順、段階における最初の一手、一歩を指すために使う)
要するに、反対語とのセットで考えるべきだよということです。例えば、文例の (2) で行けば、The car suddenly stopped.とは言っても、The car suddenly ended.とは言いませんから、ここではstart-stopのセットが使われるとわかり、したがって、エンジンの始動を言うには、start を使うのが自然だという流れになります。
結局、begin も start も互いに入れ替えて使えるのが普通だけれど、もっぱら start あるいはもっぱら begin が使われるケースというのも確かにあり、そういった場面では、start-stop、begin-end というセットで考えると意外となぜそういう使いわけになるのかが見えるという話です。
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Comments
ちょうど使い分けで悩んでいたところで、
分かりやすいご説明を発見でき、嬉しかったです。
ありがとうございました。
反対語とセットで考えるというのは目からウロコでした!
ところで、begin to~、begin ~ingとstart to~、start ~ing
の違いや使い分けなどもありましたら、ぜひ教えていただければ幸いです。
[返信]
おたずねのTO不定詞と動名詞の違いは、以下のページでまとめてありますので、ご覧ください。勉強している感じですね。頑張ってください。
http://eng.alc.co.jp/newsbiz/hinata/2005/09/to.html
http://eng.alc.co.jp/newsbiz/hinata/2005/05/i_enjoy_a_trave.html
- 匿名
- 2006年12月 6日 14:09
匿名さんが私の知りたいことと全く同じことを質問されていたのでうれしくなりました。反対語とセット は本当になっとくです。
今からto不定詞、動名詞に飛びます!