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パイロットのうつ病への理解が、変わりつつある

ジャーマンウイングス機の事故と関連して、パイロットの精神疾患が注目されている。米国FAAなどでは、うつ病に関して、服薬しながらの勤務を許可することで、病歴を隠さない方向へ導く取り組みが進められている。

 
 
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TEXT BY ALEX DAVIES
TRANSLATION BY KENJI MIZUGAKI, HIROKO GOHARA/GALILEO

WIRED NEWS(US)

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ジャーマンウイングス機の事故(日本語版記事)で使われていた機体「エアバスA320」のコックピット。正面に操縦棹がなく、脇に操縦用のサイドスティックがある。画像はトルコ航空のもの。Wikimedia Commons

米国とカナダだけで、航空会社に所属するパイロットは50,000人以上いる。毎年その全員を対象に精神疾患チェックを行うのは、現実問題として不可能だと、ダイアン・ダモス博士は言う。同博士は航空心理学の学位を持ち、1970年からパイロットの選抜プロセスに関する仕事をしてきた専門家だ。

米国では、航空会社がパイロットを雇うとき、候補者の健康診断と身元調査を行わねばならない。さらに米連邦航空局(FAA)は、毎年の身体検査証明を要求している。ただしそれは主に身体的な疾患に関するものだ。

検査に関する規定には、「心理的状態についての全体的な印象をチェック」するという条項はあるが、「正式な心理的テスト」は含まれていないと、FAAが要求する健康診断を行ってきたジェームス・ファンデルプルーグ医師は指摘する。

うつ病に関しては、以前から、その病歴が身体検査における不合格理由となっており、仕事を続けたいと望むパイロットたちは、症状を隠そうとするのが普通だった。国際民間航空機関(ICAO)の報告書(PDF)は、医師から抗うつ剤の服用を勧められたパイロットのうち15%は、FAAに通知せずに仕事を続ける意図を示したという調査結果を紹介している。

また、4,143人の元パイロットを対象にした調査によれば、そのうち223人が向精神薬を服用した経験があったが、症状をFAAに報告していたのは14人にすぎず、向精神薬の服用を報告していたのは1人だけだったという。

しかし、少なくともうつ病については、状況が変わりつつある。FAAは2010年に方針を変更し、特定の種類の抗うつ剤(プロザック、ゾロフト、セレクサ、レクサプロ)については、服用するパイロットが飛行業務に復帰することを認めたのだ。

これは、1987年のオーストラリアでの先例にならったもので、カナダにも同種のプログラムがあるが、ヨーロッパにはないという。

ファンデルプルーグ医師によると、米国でのプログラムの基準は、パイロットが症状を安定的に抑えることができており、かつ最低6カ月間にわたって同じ薬を服用していることだという。これに該当するパイロットは、まず心理テストと精神科医による診察を受ける。そして、テストと診察の結果は、FAAが指定する監察医によって審査される。

さらに、これらの結果はFAAの精神科医へ送られ、そこでこのパイロットが飛行業務につけるかどうかが判断される。飛行が許可された後も、6カ月ごとの状況報告、年に1度の心理テスト、勤務先の航空会社のチームパイロットによる3カ月ごとのレポートといったように、さまざまなかたちで経過観察が続く。そして、これらすべてに合格すれば、向こう6カ月間有効の身体検査証明が発行されるのだ。

パイロットがうつ病を隠したり、無視したりせず、周囲に打ち明けられるように導くという考え方は、正しい方向への一歩だ、とダモス博士は語っている。

※厚生労働省によれば、うつ病の12カ月有病率(過去12カ月に経験した者の割合)は世界では1~8%、日本では1~2%とされている。前述のICAOの報告書によると、米国の12カ月有病率は6.6%。また、別の調査によると、「今までにうつ病と診断されたことがある」人の割合は日本10%、英国27%、オーストラリア26%、米国23%。

※この翻訳は抄訳です。
 
 
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