【外国人入居拒否】 法務局、人権侵犯認めず アパートの「外国人不可」 仲介の大学生協は謝罪
入居を希望した京都市のアパートが「外国人不可」のため、賃貸契約できなかった欧州出身の20代の留学生が、法務省の京都地方法務局に外国人差別だとして救済措置を求めたところ、法務局は「人権侵犯の事実があったとまでは判断できない」と退けた。
不動産相談窓口でアパートを仲介した龍谷大(本部京都市)の生協は留学生に謝罪し、「外国人不可」の物件紹介を中止。大学側も生協に改善を促した。留学生の支援者らから、法務局の対応を疑問視する声があがっている。
▽透明性欠く
法務省はヘイトスピーチ(憎悪表現)と呼ばれる外国人差別の街頭宣伝をなくそうと呼び掛けており、ホームページでは「外国人であることを理由に理容店が客を拒否した」というケースを人権侵害として紹介している。救済を求めた留学生に対しては、申し立てを認めなかった理由の説明を断った。留学生は「(法務局の対応は)透明性を欠いている」と批判している。
留学生は2013年1月、生協の窓口で京都市内のアパートを借りようとしたが、外国人を拒む家主側の意向を生協で伝えられた。法務局は14年9月、「侵犯事実不明確の決定をした」と留学生に通知。「生協には啓発を行った」とも伝えた。法務省の規定では「啓発」は人権侵犯がない場合も実施できる。
だが、留学生は「多くの日本人はこれが差別だと思っていないのではないか。法的拘束力もない啓発だけで再発が防げるのか」と疑問を投げかけ、「日本文化を学んで成長の機会を得られたが、この問題では傷ついた」と振り返った。
▽不安解消
龍谷大生協の 堂免裕子 (どうめんゆうこ) 専務理事は、家主側は部屋を外国人に貸すことに「漠然とした不安」を感じているとみている。今回の問題をきっかけに、「外国人不可」の賃貸住宅の仲介をやめた。最近は、未払い家賃の補償制度や生活習慣をめぐるトラブルへの対応を、家主側に丁寧に説明しているという。堂免さんは「大学はいろいろな人を受け入れる。留学生に限らず多様性(ダイバーシティ)という観点が重要だ」と話す。
法務省人権擁護局は共同通信の取材に対し「そうした事案を取り扱ったかどうかも含めてお答えできない」( 大山邦士 (おおやま・くにお) 調査救済課長)と答えた。同省はプライバシーの保護などを理由に、人権救済の申し立てへの対応は原則として公表していない。
外国人差別問題に取り組む 師岡康子 (もろおか・やすこ) 弁護士は「留学生に対し家主が契約の段階で断るといった行為がないと人権侵犯には当てはまらない、と考えているのではないか」と推測する。
日本政府は「人種差別撤廃条約」に加入し、政府は差別を禁止し終わらせる義務を負っている。だが人権団体の間では「実行が不十分」という見方が根強い。師岡氏は「条約に合致するよう、あらゆる差別行為を禁じる『人種差別撤廃法』をつくるべきだ」と訴えている。 (沢康臣)
◎人種差別撤廃条約
人種差別撤廃条約 人種差別をなくすため、日本を含む170カ国以上が結んでいる。あらゆる人種差別を撤廃する政策をとり、差別を禁止することを義務付けている。1965年に国連総会で採択され、69年に発効。日本は95年12月に批准した。しかし留保条件を付け、人種差別思想の流布や差別の扇動を罰する法律をつくる義務については、憲法の表現の自由との関係で履行しない余地を残した。
◎人権侵犯
人権侵犯 各地の法務局は差別などの訴えを受け付けると、「人権侵犯(侵害)」に当たるかどうか調べ、救済や再発防止をはかる。調査や救済措置に強制力はない。人権侵犯があったと認定した場合、加害者を対象にした「勧告」「説示」や、関係機関への「要請」などの救済措置をとる。悪質な場合は警察に告発する。人権侵犯がなければ「不存在」、有無を確認できなければ「不明確」と決定する。
(共同通信)