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【文芸時評】
4月号 図書館という「鏡」 早稲田大学教授・石原千秋
「文学界」が公共図書館特集を組んでいる(「『図書館』に異議あり!」)。書き手にとって図書館は微妙な存在だ。ベストセラー作家にとっては、自分の本が何十冊も図書館にあって、それが何十人待ちという状態はありがたいものではない。一方、個人の読者をあまり期待できない専門書かそれに近い本では、図書館(特に大学図書館)の存在は大きかった。
いま「大きかった」と過去形で書いたのは、現在は大学図書館でさえ専門書をきちんと買わなくなったからだ。少し前なら、専門書でも全国の図書館が購入する500部は基礎部数として計算できたが、いまはもうそれが読めなくなっている。
与那原恵は「公共図書館は、その国、地域、住民たちの姿を映し出す鏡のようなものかもしれない」(「『民営化』の危険な罠」)と言うが、もっと切実な鏡は書店であり古書店だ。僕は学会があると、その町にある書店と古書店に足を運ぶ。その棚を見れば、その大学の人文系の水準はわかる。だからこそ、公共図書館や大学図書館が果たす役割は大きい。図書館は、ベストセラーの部数を減らしてでも、売れない良書をきちんと買ってほしい。