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ローカルの「失敗CM」がアジアで快挙

qBiz 西日本新聞経済電子版 3月30日(月)11時30分配信

昨年8月に「これが九州の広告だ」シリーズで紹介したCMを、再び紹介したい。3月21日まで開かれた世界的な広告祭「ADFEST(アドフェスト、アジア太平洋広告祭)」で、映像部門(食品・調味料)の準グランプリに当たる銀賞を受賞したのが理由のひとつだ。

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 受賞したCMは、おなじみフンドーキン醤油(大分県臼杵市)の「FUN」60秒編。広告代理店「BBDO J WEST」(福岡市)のディレクター、今井美緒さん(34)が企画・制作した。同部門で福岡の女性クリエーターが受賞するのは初めてのことらしい。

 CMの内容は記事で紹介したように、若者や子どもが料理に挑んでは次々に「失敗」する様子を記録した。演出されたものではないリアルな失敗は、料理の「おいしさ」ではなく、「楽しさ」を伝えてくれる。

タイの広告祭会場で受賞の瞬間に立ち会った今井さんは「賞が取れると思っていなかったので、もうフワッフワしちゃって…」。アジア太平洋地区最大の広告祭で、世界的にも権威ある賞。同じ部門では、人気俳優を起用した凝った映像で人気を呼んだ日本の「ペプシネックス」CMが銅賞を受賞した。一見すると手が込んだ映像に見えない、おそらく低予算のローカルCM「FUN」が、メジャーな作品以上の評価を得たのだから、驚くのも無理はないかもしれない。

 だが、審査員からはこう言われたという。「THIS IS NEW IDEA!」

再びこのCMを記事に取り上げる二つ目の理由は、この手作り感あふれるCMを作ったクリエーターに聞きたいことがあったからだ。


 ―リアルな映像を一般の人も発信するようになったために、広告がますます効きにくくなっていると言われていますが。
 「一般の方も『いいもの』を作れるようになって、プロの広告がびっくりされにくい状況だとは思います。だから、今まで以上にコミュニケーションのためのアイデアとかに時間、予算、手間をかけないといけないんじゃないかって」(今井さん)


 それこそ、「FUN」の手法だ。例えば、ターゲットを「料理をする人たち」ではなく「料理から遠い人たち」とした点。定番の商品そのものや愛情あふれる食卓の風景ではなく、失敗を描くことで「面倒くさいけどやってみたら意外に楽しい」(今井さん)ことを、料理をしない(したがらない)人たちに伝えようとした。

 「醤油は昔から決めている人が多く、(商品を伝えても)簡単に変えにくいと思うんです」
 「おいしさとか愛情とかを描くと、『料理は大変』ということが先に来てしまう。私がそうですから(笑)」

 技術面でも工夫を施した。表情のアップをきちんと撮影しようとすると、とたんに面白さが消えることに気付き、一般人の出演者に携帯でも撮影してもらった。素人だから「引き」の映像が多い。だが、一気にリアルさが増した。こうした細かな点は、一般の人は気付かない。審査員が絶賛した「NEW IDEA!」こそが、プロのクリエーターが時間を削りまくって作る「広告」だ。

 「(一般の人も)みんな、いい映像を作れるという前提で、でもその上でさらにプロフェッショナリズムを発揮できたらいいなと思います」

 フンドーキン醤油の担当者は、今回の受賞について「代理店と苦労して作ったし、海外でもこのコンセプトが評価されたのでうれしいです。今後もいいCMを作っていきたい」と話していた。

西日本新聞社

最終更新:3月30日(月)11時33分

qBiz 西日本新聞経済電子版

 

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