前編では、5つの観光協会で組織した「田辺市熊野ツーリズムビューロー」の活動によって、熊野地域が世界遺産に登録された後も一時的なブームにとどまらず、年々世界から多くの旅行者を呼ぶことに成功している理由を紹介しました。
2014年に外国人宿泊客が急増した熊野本宮温泉郷では、訪日客の約4割がビューロー経由の客です。現在、宿泊客に占める外国人の割合は5%に過ぎませんが、ビューローの2012〜13年度のネット予約の利用状況を見ると、1人あたりの泊数・客単価は日本人が1.3泊・1万447円に対し、外国人は2.5泊・2万4400円と、日本人の約2.3倍の経済効果があることが分かります。
2015年「プロが選ぶ宿100選-日本の小宿」で審査員特別賞を受賞、旅行口コミサイト「トリップアドバイザー」のホテルアワード2015旅館部門で国内15位に選ばれた「霧の郷たかはら」は外国人に人気の宿です。2008年に和歌山県が建設し、民間が運営する指定管理施設としてオープンしました。
運営を任された代表の小竹治安さんは海外での滞在経験が長く、英語だけでなくスペイン語や中国語にも対応できるマルチリンガルで、FIT客(個人旅行の外国人客)とのコミュニケーションや、たかはらの魅力を高めるプロデュースでも力を発揮しています。別名「天空の宿」とも呼ばれるこの宿は滝尻王子から歩いて2時間のところにあり、宿泊客の大半は徒歩で宿にやってきます。宿からの景色や地元食材を使った料理、スタッフのもてなしが評価され、外国人客の中には施設貸し切りで滞在するグループもあるとのことです。2014年は外国人客が55%を占めました。
このように熊野観光は地域全体で底上げがされており、ブランド力、知名度や評価は年々高まっています。世界一のガイドブック「ロンリープラネット」の2009年版では、熊野の情報は「本宮」「湯の峰」の紹介だけでしたが、2011年版では「熊野古道」が囲み記事になり、巻頭ページで紹介されています。熊野ではロンリープラネットに対して積極的にプロモーションや情報提供を行っており、改訂版を出す際にはわざわざ電話がかかってくるといいます。2013年版では巻頭カラーのTOP25で京都・大阪と並び、関西モデルコースと紹介されました。
2011年には熊野古道と熊野本宮大社が「ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン」で三ツ星を獲得。ガイドブックではイギリスの「ラフガイド」や「ナショナルジオグラフィック」などにも取り上げられ、注目度は増しています。
海外旅行会社では、オランダの「BOOKING.COM社」やスペインの「イベロ・ジャパン社」などでツアー企画など旅行商品が作られ、湯の峰温泉や川湯温泉の旅館・民宿へ送客されています。また2012年には日本で初めて「世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)」の『明日へのツーリズム賞』のファイナリストにビューローが選出されました。