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 現場カーブで事故が起きる危険性を、3人は具体的に予見できなかった――。

 107人が死亡したJR宝塚線脱線事故で、業務上過失致死傷罪で強制起訴されたJR西日本の歴代3社長に、大阪高裁は一審に続き無罪を言い渡した。

 検察が起訴した別の元社長もすでに無罪が確定している。

 これほどの大事故をおこした企業のトップが誰も処罰されない事態に、遺族は「とうてい納得できない」と憤った。

 来月25日で事故から10年を迎える。無罪であっても、一連の裁判を通じて浮き彫りになったJRの安全軽視の姿勢は明白だ。経営陣の責任はきわめて重いことを指摘しておきたい。

 事故の直接原因は、死亡した運転士が速度を出しすぎたためとされた。だが、現場が急カーブに切り替えられたのは事故の9年前だ。速度超過による脱線の危険性が高まったのに、JRではこの間、誰も安全装置を付けようと考えなかった。

 元社長らは「安全対策は担当者に任せていた」「当時、安全装置を設置する法的義務はなかった」と繰り返した。

 きのうの判決は「大規模鉄道事業者として率先して安全対策を進めることが強く期待されていた」と指摘し、組織としてのJRの責任を示唆した。

 刑法で過失責任が問えるのは個人だけだ。市民で構成される検察審査会は、組織を束ねる元社長らに責任があると判断し、強制起訴に持ち込んだ。しかし大きな組織ほど業務は分かれ、責任のありかは見えにくい。

 その結果の「全員無罪」だ。

 記者会見で、遺族は組織そのものを処罰できる法整備が必要だ、と強く訴えた。巨額の罰金を科すほか、経営陣の安全意識が低い場合は公表するとの案を挙げた人もいた。

 事故で人が死亡した時、組織を処罰する法律は英国にあるが、日本への導入には慎重論も強い。関係者が責任追及を恐れて口をつぐみ、原因究明に支障をきたす懸念があるためだ。

 だが課題はあっても、国レベルで検討する価値はあろう。

 組織を処罰対象に加えることのメリットとデメリットは何か。遺族の疑問にこたえる事故の原因究明をどう実現するか。考えることは多いはずだ。

 10年たっても、遺族は「脱線事故の真相を知りたい」と求めてやまない。この現状は、いまの法制度に不備があることを如実に物語っている。

 事故の犠牲を決して無にせず、より安全な社会へとつなげる仕組みを整えていきたい。