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そしてレーンと空間もふしぎあらためて思ったが、へたくそであってもボウリング場を訪れると否応なしにワクワクしてしまうのは、あの独特の音と匂いに大きな理由があると思う。ボウリング場は祭だ。
あと、これほどまでに空間の大部分に立ち入ることができないスポーツも珍しいのではないか。レーンには入ってはいけないのだから。やっぱりボウリング場って不思議でおもしろい! と思った。 営業開始前におじゃましたので見ることができた光景。レーンのメンテナンスしてる!
しかし言われるまで気がつかなかったのはレーンそのものの不思議さだ。あれ、ものすごく平滑だ。あんなに平らであることが求められるスポーツもそうないのではないか。「装置産業」の「装置」が意味するのは、機械部分だけではなくこのレーンの強度と精度のことも指していると思った。
動画で。こういう具合に動いてました。これはクリーニングとオイリングを行うマシン。詳しく書くと長くなるので割愛しますが、レーンにはオイルがひいてあって、それがボウリングというゲームの奥深さを生んでいるのだ。
レーンの奥側から見ると、オイルでてかてかしているのがよく分かる。
そして社長さんに指摘されて目から鱗が落ちたのは「ボウリング場って柱がないんですよ」という一言。
それだ! ぼくがボウリング場に感じていた面白さは広大な無柱空間にあったのだ! これってちょっと空港に似ている。 以前西村さんが「元ボウリング場のスーパーめぐり」でレーンがあったフロアを推理する際に「柱がない」を手がかりにしておられたが、まさにそういうことなのだ。 おもしろい。だが同時にこのことが今回の田町ハイレーン閉館の理由でもあった。 閉館の理由今回とても親切にかつノリノリでお話をしてくださった吉川社長。
「ここは2階から8階までのフロア全部に柱がないんですよ」と吉川社長。なんと8階まで!
階段で移動すると、フロアにいるときの天井の高さよりもはるかに階高が高い印象を受けたのだが、おそらく全フロアに柱がないため床・天井の梁の大きさがすごいためだと思う。 そしてこれが田町ハイレーン閉館の理由だ。「新しい耐震基準を満たせない可能性がある、ということです」 びっくりしたのが、かつてはレーンがあって今はレストランになっている6階のここ。あいかわらずゴージャス感がすてきだが、なんとレーンを撤去せずその上に床を張ったそうだ。つまりこの床材の下にはいまでもレーンがある……! あと左右の空調のデザインがすごーくかっこいい。
「無柱のかわりに外側の構造がかなりがっしり造ってあって、聞いたところによると建設当時の基準の3割増しで設計・施工してあるということです。おかげで先の地震のときもびくともしませんでした。ただそれだけにガワはだいじょうぶでもフロアのほうがどうなるか、という問題がありまして」と社長さん。
「おそらくだいじょうぶなのではないか、という話もあったんですが、うちの親会社の株式会社タツノはガソリンスタンドに設置されるガソリン計量機のメーカーでして……」 ガソリン計量機メーカーであることがこの話に何の関係が? と思ったら「事故であろうと災害であろうとひとりのけが人も絶対に出さない、という会社なんです」とのこと。なるほどー! 「装置」の裏に工具やネジなどのメンテナンス用具があった。「ボウリング場が閉じるたびに同じ装置があるところに部品が送られてくるんですけど、今度はうちのがどこかへ行く番だね」
そういう理由であって決して経営が苦しいくなって閉館するわけではないんです、と何度もおっしゃっていたのが印象的だった。
きけば「あの田町ハイレーンが閉館なのだから、うちが閉じるのもしょうがない」という流れで全国でボウリング場がなくなっていくことを危惧されているそうだ。そういう「口実」として機能してしまうぐらい、ここ田町ハイレーンはこの世界では名門だったのだ。
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