2020年の東京は、オリンピックやパラリンピック、そして社会全体を通じてロボティクス応用の先進事例を発信する場になりそうだ。健常者を超える義足のアスリート、新しい競技への可能性、大会の演出から警備、おもてなしまで、走り始めたロボット業界の動きを追う。
100メートル走。10秒弱の刹那に世界中の観客が熱狂する、オリンピックの花形競技だ。その100メートル走で世界一を目指すチームが日本にある。
■日本製で勝つ
「20年の東京パラリンピックで、日本人の義足のアスリートがオリンピックの記録を上回るタイムで優勝する」。こんな壮大な目標を掲げるのが、ソニー子会社のソニーコンピュータサイエンス研究所(ソニーCSL)に所属する遠藤謙氏(36)だ。
「病気で下肢を切断した友人のための義足を作りたい」。遠藤氏はこんな思いから米マサチューセッツ工科大(MIT)メディアラボで身体能力の解析や義足の研究を専攻して博士号を取得した。以後競技者用の義足や障害者用のロボット義足の開発を手掛ける。最終的な目標は、競技に限らず「障害者が健常者を超えること」だという。
遠藤氏が開発するのはスキー板を曲げたような炭素繊維製の「ブレード」と呼ばれる義足だ。12年のロンドンパラリンピックで200メートル走の世界記録を出したオスカー・ピストリウス選手が着用していたのはアイスランドのオズール社製。スポーツ用で高いシェアを持つ。
ピストリウス選手はロンドン五輪にも出場したが、メダルは取れなかった。その後殺人罪などで訴追され表舞台から姿を消した。遠藤氏の夢は日本の選手が日本の義足を装着して、東京五輪金メダル走者のタイムを抜くことだ。だが壁にぶち当たった。
工学的に高性能な義足を開発するだけでは記録は伸びない。義足の性能をフルに引き出すアスリートの知見が必要だ。
「ピストリウスのことで議論したければ、為末さんに会ってみないか」。12年9月、ある知人が紹介してくれたのが、400メートル障害競技で世界を舞台に戦った元陸上選手の為末大氏だった。
「是非やりましょう」。為末氏は障害者のスポーツ参加に積極的。偶然同い年だったこともあり意気投合した。さらにチェアスキー開発に関わったアールディエス(埼玉県寄居町)の杉原行里専務を加えた3人で、14年5月に新会社のXiborg(サイボーグ、東京・渋谷)を設立した。
Xiborgは国内のトップ選手3人と契約し、14年夏から月1回程度の練習会を開いている。狙いは、為末氏の指導によって義足の反発力を生かす走り方を身に付けること、そして各選手の走り方を計測して義足開発に反映することだ。「3人の選手の体形や走り方はかなり異なる。計測で得られた選手の特性に合わせて義足を設計していくことが記録の向上につながるはずだ」と遠藤氏は語る。
■自然な歩行目標
遠藤氏にはもう一つのミッションがある。「ブレードが自動車のF1カーだとすれば、一般の人が乗る車に当たる義足も作りたいのです」。このために開発したのがロボット義足だ。一般的な義足は構造が固定されており、ももの筋肉で引き上げて歩くような動き方になりやすい。「人は歩行中、足を前に出したときや蹴り出すときに、自然に足首の角度を変えている。その動きをロボット技術で再現する」
義足の着地を検出し、蹴り出すときに足首部分に強い回転力を与えるといった制御を、センサーとモーター、コンピューターで行うものだ。なるべく多くの障害者に届けるために、価格を下げ、18年ごろの製品化を目指している。
遠藤氏はこのロボット義足で、ある競技会へのエントリーを済ませた。16年10月にスイス・チューリヒで第1回大会が開催される「サイバスロン」だ。ロボット義足を装着した競技者が凹凸や傾斜、階段などの障害物が設置されたコースを進んだり、椅子に座る作業をこなしたりしてタイムを競う。
競技を企画したのは、遠藤氏と研究者仲間を介して知り合いだったスイスのETHチューリヒおよびチューリヒ大学のロバート・ライナー教授。リハビリロボットの研究者として知られるライナー氏は、一般の人々の目に触れる大会を開催することで、競技を通じて障害者の社会参加を進めたいと考えた。遠藤氏もこれに共鳴した。
義足競技のほかに強化型義手レース、脳インターフェースレース、機能的電気刺激自転車レース、強化型外骨格レース、強化型車椅子レースの計6競技が開催される。
ロボット技術が障害者の補助だけでなく、その可能性を引き出す役割を帯び始めている。
「サイバスロン」のようにロボット技術と競技をキーワードに障害者と健常者の境をなくそうとする動きは、国内でも出てきた。
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