三洋電機が発売していたコンシューマ向け製品の中で、パナソニックに残った代表的な製品が、ニッケル水素充電池「eneloop(エネループ)」だ。その人気は、いまだに衰えない。
しかし、三洋電機時代のエネループ愛用者の間で、最近話題になっていることがある。以前は量販店のレジ周りにドンと置かれていたコーナーがなくなっていたり、広告訴求が少なくなっていたり、あるいは関連商品が減っているということ。つまり、“存在感が弱まりつつある”というのだ。
しかし2013年2月には累計出荷数が2億5千万個を達成し、世界的にもヒットしてきたエネループの存在感は、本当に薄れているのだろうか。
充電池が占める割合、2003年はわずか0.6%だった
「くり返し使うライフスタイル」をキーワードに2005年に誕生したエネループは、21世紀の新たな充電池として、これまでにはない電池の使い方を提案し話題を集めた。
商品が生まれたきっかけは、電池の性能向上に取り組んでいた技術者たちがある“疑問”を持ったこと。
三洋電機は、1961年にコードレス化を実現したニッケルカドミウム蓄電池「カドニカ」を開発。その技術はやがてラジオやシェーバー、ビデオカメラ、ノートPC、コードレス電話、携帯電話などに採用され、2000年には累計出荷50億個を達成していた。
一方で国内の市販電池市場において充電池が占める割合は、2003年時点でわずか0.6%。残りはすべて使い捨ての乾電池だった。
「こんなことで世の中に貢献できているのか」──それが、技術者たちが持った“疑問”だ。作ったものが使われない。これほど技術者にとって不名誉なことはない。では、なぜ使われないのか。三洋電機は、新たなプロジェクトに取り組んだ。
ユーザーは“使い捨て乾電池”に満足していたわけではない
2004年、技術およびマーケティング部門、販売部門から約10人が参加し「乾電池から充電池へ」というベタな名前が付けられたプロジェクトチームが三洋電機で立ち上げられた。
このチームが担う役割は大きかった。
まず市場調査に取り掛かり、充電池および乾電池に関する意識調査を行った。すると51%の人が「充電池は価格が高い」という不満を挙げ、49%の人が「充電しても放っておくと使えなくなる」ことに不満を持っていた。
一方で、市場で99%以上のシェアを持つ乾電池にも、不満の声が多かった。
使い捨て乾電池利用者の61%は「使用済みの電池の処理に困る」という不満を持ち、51%が「1回の使い切りであること」が不満だとした。また41%の人が「電池がなくなったときに買いに行く手間」も不満の理由に挙げていた。
つまり当時、乾電池利用者のなかには、使い捨てへの抵抗感がすでにあり、簡単に自己放電せず、すぐに使える充電池ができれば、市場拡大のチャンスがあることが分かったのだ。
「地球環境を考える製品」としてThink GAIA第1号製品に
従来のニッケル水素充電池が自己放電するのは宿命と考えられていた。
そこで三洋電機の技術者たちは、低自己放電充電池技術の開発に着手。結果、負極に使用する水素吸蔵合金の分子構造を改良することで、自己放電を抑制できることを発見する。負極材料「超格子合金」として実用化し、これをもとに数千種類におよぶ評価試験を重ね、エネループが生まれた。
三洋電機は当時、代表取締役会長兼CEOの野中ともよ氏のもと、“第3の創業”として「Think GAIA」商品を選定するところだった。
エネループは経営陣の審査でその第1号製品に認定され、「地球環境を考える製品」というThink GAIAの理念で目指す、同社のビジョンを代表する製品に位置づけられた。