ムスリム苦しめる「イスラム国」呼称 メディア対応は


(更新 2015/3/24 16:00)

イスラム理解を高めるには…

イスラム理解を高めるには…

「イスラム国」の呼称をめぐる波紋が広がる。変更を求める世論。「実名」にこだわるメディア。何が正しいのか。イスラム理解を目指した議論を深めるときだ。

 テロや人質事件で世界を震撼させた「イスラム国」(IS)。そのインパクトは、後藤健二さんや湯川遥菜さんの殺害で日本にも一気に及んだ。テレビや新聞が名称を連呼し、日本のムスリムにも悪影響を及ぼした。

 イスラムの名前がついた団体が信用金庫の口座を開けなかった、公共施設を予約できない、ムスリムと分かる姿で歩いていると人々の視線が冷たい…。トルコ大使館や各地のイスラム団体が、「イスラム国」を使うメディアに呼称の変更を求める要請や声明を出している。

 東京都板橋区議の中妻じょうたさん(民主党)は、今年2月から、ネット上で「イスラム国」の呼称使用中止を求める運動を始めた。ムスリムの親しい友人が地元にいる。彼らが苦しんでいるのを何とかしたい。賛同者が千人集まれば十分と思っていたら、すぐ2万人を突破し、3万人に近づく。予想以上の反響だった。各マスコミに賛同者名簿を送り、「イスラム国」表記の考え方をただすつもりだ。

 日本や世界では複数の呼称が並立し、大変ややこしい。日本政府が「ISIL」と呼ぶ理由について、安倍首相は国会で「イスラムの代表のような印象を与え、イスラムの人々にとって不快な話だ」と説明した。米CNNは「ISIS」、英BBCは「Islamic State」。日本のメディアは「イスラム国」で統一されていたが、最近NHKはBBC式の「IS=イスラミックステート」に変更した。

 アエラは朝日新聞に準じているが、総じて新聞を中心にメディアは「ISIL」「ISIS」は過去の名前で、「イスラム国」は正式名として使用を続け、カギ括弧をつけたり、過激派組織と前置きしたりして国との違いを示す。そこには「実名報道」へのこだわりが見える。一方で、前出の中妻さんは「それはメディアの内輪の論理にすぎないのでは」と反論する。

「目の前に差別や人権問題が起きているのに、名称の正確性がどこまで優先すべき問題なのでしょうか。『イスラム国』以外の名前で呼んでほしいだけ。かたくなに拒む理由が分かりません」

 一方、日本のイスラム学者の間でも「『イスラム国』と呼ぶだけで誤解してしまうのは単なる勉強不足で本質的問題ではない」として、現状維持を唱える人もいれば、「中東でもイスラム国と呼ばない人がほとんど」と呼称変更を支持する人もいる。

「彼らはムスリムではない」という主張もあるが、イスラム社会から生まれた集団であることに変わりはない。日本人がイスラム教について理解が乏しく、ネガティブな情報が染み込みやすい特殊事情もある。呼称問題を「言葉狩り」に終わらせず、政府、メディア、民間が対話を重ね、イスラム理解を高める方向を模索するべきだろう。

AERA 2015年3月23日号より抜粋

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