2014年8月、米グーグルで約7年間、自動運転車の開発を率いた人工知能(AI)研究者セバスチャン・スラン氏が同社を去った。
スラン氏は米スタンフォード大学のAI研究所長だった2005年に、米国防高等研究計画局(DARPA)が開催するロボットカーレースで初の完走を果たした後、グーグルに参画。同社の秘密研究所「グーグルX」を創設すると、自動運転車の他、メガネ型端末「グーグルグラス」など数々の研究計画を立ち上げてきた。
同氏はグーグルを離れた理由を、2011年に自身が創業したオンライン教育企業・米ユダシティーの経営に専念するためだと説明する。ユダシティーはインターネットを通じて大学レベルの講義を配信するMOOC(大規模公開オンライン講座)の先駆け的企業。スラン氏が専門とするAIのほか、データ解析やアプリ開発など60科目以上を配信し、登録者数は世界で300万人を超えた。
自動運転の第一人者はAIの未来をどう見据え、なぜ教育業界に転じたのか。本誌に盛り込み切れなかった内容を含め、スラン氏へのインタビューを2回に分けて掲載する。
「AIの味方」から「人間の味方」に
世界有数のAI研究者でありながら、なぜ教育の道を選んだのか。
セバスチャン・スラン氏:これは冗談でよく同僚に話すことなのだが、私はAIの研究者だったとき、人間よりも機械の味方だった。ユダシティーは逆に、機械ではなく人間を助けるためにある。機械を賢くするのではなく、人間の能力を高めたいと思ったのだ。
米国、特にシリコンバレーでは今、職を得るのに必要なスキルと、人々が一般的に持っているスキルの間に巨大なギャップが生じている。高度なスキルのいらない仕事が機械に代替されていく一方、技術的スキルに秀でた労働者には無数の求人がある。しかし、大学を卒業してから時間が経つ人や、子育てを終えて再就職を考えている女性などにとって、そうしたスキルを身に付けるための道筋は用意されていない。