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スズキ「アルト」、軽量化で世界一の低燃費 開発競争は一層激しく

SankeiBiz 3月30日(月)8時15分配信

 エコカーの開発競争がますます激しさを増す中、スズキの新型軽自動車「アルト」が驚きの数字をたたき出した。ガソリン1リットル当たり37.0キロ。これはトヨタ自動車のハイブリッド車(HV)「アクア」と並び、世界一の低燃費となる。その秘密は、ただでさえ車両重量が軽い軽自動車をさらに約1割も“減量”した徹底的な軽量化にあった。

 「これほどの軽量化が果たして可能なのか…」。新型アルトにかかわったスズキ幹部は当初、社内で決まった開発方針の実現に自信がなかったという。車両重量は610キロで、前モデルと比べ60キロも軽い。4人乗りの乗用車では国内最軽量だ。価格を抑え、燃費性能を向上させるため、軽メーカーは既に軽量化を徹底して追求している。それをさらに1割減らすのだから、並大抵の目標ではない。部品の形状や材料を一つ一つ見直す努力を重ねるしかなかった。

 最も寄与したのはボディーだ。アルトでは、新開発したプラットホームを初採用した。シミュレーション技術の進化を受け、従来は前後に分かれていた骨格部分を連続した形に見直した。これにより、ぶつかったときの衝撃を前後左右に逃すことができ、使用する補強部品の量を減らすことができた。またフェンダー(泥よけ)を初めて樹脂製にするなど軽い樹脂部品も多用した。

 エンジンは新しいプラットホームに合わせてサイズを小さく改良し、圧縮比を高めるなどして燃費性能も向上させた。加えて新開発のサスペンションは形状を見直して部材の使用量を減らしたほか、座席のフレームには強くて薄い超高張力鋼板を使っている。

 スズキの鈴木修会長兼社長は新型アルトの開発で、「1979年に初代を出した原点に戻って、庶民感覚で機能を重視した車づくりを目指した」と話す。初代アルトは47万円の低価格で軽自動車人気を盛り上げた。その後、優遇税制により維持費が安い軽は日本人の生活に浸透。今では新車販売の約4割を占め、広い室内空間をウリにした背高のっぽで豪華なモデルが売れ筋となっている。

 そんな中、車高が低いアルトは昔ながらの軽の姿を保つ。スズキの背高軽「スペーシア」は同じ形の軽自動車では最軽量レベルながら、重量は840キロだ。対して610キロまで軽量化したアルトは燃費性能だけでなく走行性能も向上。時速100キロまでの加速は前モデルと比べ1.6秒短縮した。日常使用ならこれで十分だと感じられるほど低速域からキビキビとした走りを可能にしている。11日に発売したスポーツモデル「ターボRS」は、ターボエンジンを搭載し力強い加速を実現。車体に補強部品を組み込んで、より安定した走行ができるようになった。

 新型アルトが登場するまで、軽自動車の燃費トップはダイハツ工業の「ミライース」(35.2キロ)だった。0.1キロ単位で猛烈な燃費競争を繰り広げてきた両モデル。ダイハツも当然、次の一手を準備しているとみられるが、スズキが新型アルトで一気に2キロ程度も上回ったため挽回は容易ではない。

 ただ、アルトに燃費性能で並ばれたトヨタは、年内に発売が見込まれるHVの新型「プリウス」で40キロの大台を超える可能性が高い。軽自動車が40キロ以上の燃費性能を求められるのも「もはや時間の問題」(軽大手幹部)とあって今後、さらなる軽量化を含めた開発競争が一層激しくなりそうだ。(田辺裕晶)

最終更新:3月30日(月)9時49分

SankeiBiz