社説:議員提案の条例 統一選でも積極提起を

毎日新聞 2015年03月30日 02時30分

 地方議会が議員提案で防災、空き家対策など政策に関する条例を制定する動きが広がりつつある。毎日新聞の集計によると2011年4月以降、274議会で可決している。

 自治体の立法とも言える条例の立案にこれまで地方議会がほとんど関与せず、首長が提案を事実上独占してきたことがそもそも異常だった。地域の課題に議員が取り組み「住民から遠い地方議会」の印象を変えていく有力な手段だ。統一地方選でも大いにプランを競ってほしい。

 地方議会が自ら提案して定める条例は通常、議員の報酬や定数、運営ルールに関わるものだ。政策に関する条例の大多数は首長が提案し議会が審査、可決して制定される。東京都議会を例に取ると、平成以降の26年間で議員提案で制定された政策条例は2件しかない。

 こんな状況を見直し、国会の議員立法のように地方議会でも政策条例を立案、制定する取り組みが目立ってきた。さいたま市議会は11件、横浜市議会は10件もの政策条例を11年4月以降に議員提案で制定した。

 これまで地方議会が提案に及び腰だった背景には、首長の権限を侵しかねないとの慎重論が根強かった事情がある。地方自治法は首長が予算を編成し執行する権限を定めており、議会は予算措置を伴う条例の立案を必要以上に自制してきた。

 だが、予算を伴う政策条例であっても首長と事前にテーマなどを調整しておけば制定に問題はない。

 防災、空き家対策、いじめ、自殺防止など役所がタテ割りで動きにくい場合や、迅速な対応が必要な課題は議員提案になじみやすい。首長と敵対するよりも、役割分担をしつつ領域を拡大するのが現実的だろう。

 もちろん課題もある。たとえば、酒席などの「乾杯」に地酒などを用いることをすすめるいわゆる「乾杯条例」がこのところ議員提案でよく制定されている。アピール効果をいちがいに否定はしないが、最近は地域振興策などの肉付けもせず、他の自治体の条例をほぼそのままコピーしたような安易さも目立つ。

 また、超党派で提案する場合は協議会で成案を得て提案する方法が一般的なため、議場での審査がおろそかになりやすい懸念もある。住民の意見をきちんと反映させる手続きを確保しないようでは、議員提案の意義は薄れる。条文作りを支える議会事務局など要員の確保も、中身のある条例を作ろうとすればするほど課題となるだろう。

 「○△条例の制定を目指します」。こんな公約は決して首長選挙の専売特許ではない。議員候補者や政党支部も地域に密着した条例の構想を積極的に提起してもらいたい。

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