僕は普段ジャズを好きで聞いています。「厚木からの長い道のり」には感動と同時に考えさせられもしました。以前、ジャズ喫茶でリクエストノートに載っていた大西さんのライブ盤をリクエストしたところ、マスターから彼女のものはかけない。あんな芋は聴くな。少しは俺の著作を読んでくれよみたいなことを言われました。僕はその言葉に失望し、それ以来、その店には行かなくなりました。因みに店のマスターはジャズ本の監修などをする、有名ジャズ評論家なのです。
作品を創造する過程では他者の影響や試行錯誤、時には失敗作も含め、長い目で、時には温かく見守ることも大事だと思うのですが、歴史上の名演や演奏家と比較し、手厳しく罵倒したのでは未来あるミュージシャンもたまったものではない。もう少し表現者の苦労を尊重すべきではないだろうか。村上さんも心無い批評にたびたびあってきたと思いますが、これからも頑張って下さい。
(ジュン、男性、48歳、講師)
小さな店の主人というのは、それぞれの見識があり意見があり、それを生きがいにして生きている人が多いようです。うまく意見があえば優れたメンターになれますし、そうじゃない場合はただの安っぽい独裁者みたいになります。僕も音楽については好き嫌いがそれなりに激しい人間ですが、できるだけ人にはその意見を押しつけないようにしてきました。ただ「自分が好きじゃないものを好きとは言えない」という態度を貫いてきただけです。それほど好きになれない演奏に対しても、「あんなやつはイモだ」とか「あんな音楽はクズだ」とか言ったことは一度もありません。嫌いなものを嫌いだと大声で公言するよりは、好きなものをじっくり賞賛する方が、お互いなにかと気持ちよいものですよね。
村上春樹拝