安倍晋三首相が国会答弁で、自衛隊を「わが軍」と呼んだことが波紋を広げている。直後に「自衛隊」と言い直しているから、言い間違いの類いだろうが、首相は憲法改正による自衛隊の軍隊化を目指しているので、つい本音が出てしまったのだろう。
政府見解によると自衛隊は軍隊ではない。憲法九条は「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」と定めているが、自衛のための必要最小限度の実力は戦力に該当せず、自衛隊は軍隊に当たらない、という論法だ。
軍隊がない前提だから、日本の法律には米軍など外国軍や旧軍を除き、軍隊という記述がほぼ見当たらない。唯一、出てくる海上保安庁法二五条も、海上保安庁と職員が軍隊の機能を営むことを禁じる条項である。
日本への武力攻撃や緊急事態が発生し、自衛隊が出動する際、防衛相は海上保安庁を統制下に置き、指揮できる旨が自衛隊法で定められている。自衛隊が軍隊でないという前提があるからで、軍隊と認めれば、有事でも防衛相の指揮下に入れない恐れが出てくる。
「わが軍」発言が意図的であれば、自衛隊を合憲とする政府の憲法解釈や、それに基づく法体系を覆す重大な発言である。野党側には速やかに、首相の意図を確かめ、こう切り返してほしかった。「自衛隊を軍隊と言うのなら、憲法を改正する必要なんてないんじゃないですか」と。 (豊田洋一)
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