電王戦 第三局の感想

大阪戻ってきました!開発者サイドの感想として書きたいこと、書かなければならないことはたくさんありますが、取り急ぎ、開発者だから言えることを4つだけ書きます。

27歩は悪手ではない可能性

本譜、27銀成とやねうら王が2筋を突破してそこでやねうら王の評価値がプラスに転じたと記者会見で私が言ったこともあってか、直前の先手の27歩が攻めを呼び込んだ悪手であったかのように言われています。(「27歩で攻めを呼び込んで何がしたかったんだ?」etc…)

しかし、この時点ではやねうら王の評価値的には優勢ではなく、微差でした。
やねうら王は飛車を成ってもまだ形勢をほぼ互角と見ていました。

つまり、飛車を成らせたこと自体は悪くなく、74歩〜85桂の攻めが一つの勝負どころだったのかなと私は捉えています。そしてそのあとの49桂で、ここで急激にやねうら王の評価値が上がりました。やねうら王は49桂に代えて39銀打で難しいと見ていたようです。しかし49桂でも本譜のように入玉が絡むので49桂が悪手かどうかはやねうら王の棋力では正しく評価できていない意味があります。

なので、飛車を成ってからの数手の攻防で明暗分けたのかなと思います。人間的に見ても、ソフト的に見ても、攻めの手順の組み合わせが多く大変指し手が難しい局面なのだとは思います。

見よ!これが、300億局面を調べた指し手だ!

本局ではやねうら王はいくつものラッキーがあったのですが、一つ目は、電王手さん+私の指し手入力にかかるタイムラグによって(事前貸出において稲葉先生が即指されていたときとは)読み筋が変わって指し手が変化した30手目の43銀。(ほんの直前まで72玉の予定)

二つ目は、40手目の24飛です。これは、将棋所上では、やねうら王がお昼休憩に入った直後に指しました。お昼休憩は思考時間にカウントしないのですが、そうは言っても将棋所上での時間は減っていきますから、持ち時間が減ったと錯覚し、その時間の分だけやねうら王は早いタイミングで1分将棋に突入してしまいます。

そういう意味ではお昼休憩に入って直後に指したことにより、この持ち時間が減ったと錯覚するのは防げました。それだけではありません。24飛に対してponder(予測手)が28歩。ここはプロ的には27歩とは受けたくないところだと思うので、ponderの28歩は100%当たると思っていました。そして、昼食休憩後、電王手さんが24飛と指し(昼食休憩中は電王手さんの動きが保留されている)、稲葉先生がしばらく考えられて28歩。この間、1時間強。一時間以上、やねうら王はこの次の1手のことだけを考えていたわけです。

長い時間考えても指し手が短い時間のときと変わらないことも多々ありますが、まれに変わることがあります。逆に言うと、長い時間考えたのに指し手が変わらなかったのであれば、その時間考えたのはまるっきり無駄です。時間を損しただけです。

ところが長い時間考えて、指す直前に指し手が変化したとします。このとき初めて、長い時間を考えた効果があったということになります。

やねうら王は一時間以上を費やし300億局面以上調べることが出来ました。(8Mnps×3600秒=288億)

そしてこれまた指す直前にひねり出した指し手が13角。そこまでは全く読み筋にも現れなかった指し手です。(そこまでは42金と金を寄る指し手などが候補手に上がっていたと思います。)

300億局面も読めない私には、意味はもちろんわかりません。しかし、これが悪手である可能性は極めて小さいです。何せ300億局面もこの1手のために調べたのですから。

おそらく…おそらくですが、このあとさらに300億局面調べたとしても13角に変わりはないと思います。長い時間考えたときにそれほど指し手は変化しないのが普通だからです。つまり、指す直前で13角に指し手が変わったというこの13角は2時間以上長考したのに値するような指し手なのです。

このように昼食休憩に入った直後に指す+ponderが当たるというラッキーに加えて、この局面が戦いが起きる直前の、1時間考えるに値する局面であったことというラッキー、1時間強の思考で指す直前に指し手が変わるというラッキーがありました。

人間、持ちあわせている幸運の総量と不運の総量は等しいという説を私は信じているのですが、この現象を目の当たりにして「こりゃ、帰りの飛行機、墜ちるな…」と思いました。

先手が一貫して入玉を狙っていたらどうなっていたのか

やねうら王は相入玉は少し苦手ですが、入玉阻止自体は本譜のようにそこまで悪くないです。

まあ、取り逃がしても本譜は駒点が足りないので長引くものの、256手まで行って立ち会いによる判定勝ちにはなると思っていました。(やねうら王は相入玉は目指さないかも知れません)

一般的に、将棋ソフトは序・中盤では1手あたりの考慮時間を長めに取り、終盤の時間を減らすように調整するのですが、こういう将棋だと終盤の指し手がガタガタになります。

それは序・中盤に比べて終盤の1手当たりの思考時間が少ないということのほかに、序・中盤に比べて、終盤は持ち駒をたくさん持っていますから、駒打ちがあって局面の分岐数が大きくなり、深くまで読めなくなるという事情もあります。

さらに、本局のような展開だと、人間の指し手が全く当たらないので、ponderが当たらずに読み直しになります。何故全く当たらないかというと、人間のほうが入玉勝負は遥かに上手いからで、そもそも上手い人の指し手がponderで当たり続けるのであればそのソフトは人間並の指し手であり、そのソフトも入玉が上手いはずです。

つまり、入玉の下手である将棋ソフト(将棋ソフト全般)は、入玉将棋においてponderはなかなか当たらないのです。

この3つの理由により、かなり浅めにしか読めなくて、逃す可能性はあると思っていました。

やねうら王は何故即詰みに討ち取らなかったのか?

最後の投了図の1手前の局面はやねうら王はmate 17と見ています。最長でも17手以内にどう応じても詰むということです。

あの局面は即詰みがあるんじゃないのかと言われるかも知れませんが、即詰みより必至を経由した短い寄せがあるなら、やねうら王はそちらを選ぶことが多いです。

また、私も長手数の即詰みより、短い手数で読みきって勝ちならそっちを選んだほうが良いと考えています。

なぜなら、将棋所で最低でも1手には1秒を要するので、例えば63手の即詰みには63秒を要することになります。切れ負けしてしまいかねません。なので、勝ちを読みきっているなら、ソフトは(選べることなら)短い手数のほうの手順を選択すべきなのです。詰将棋探索、糞食らえなのです。

続きはまた明日以降!

取り急ぎ、将棋の内容で書きたかったのは以上、4点です。
将棋の内容以外のことは明日以降、ぼちぼち書いていきます。

対局してくださった稲葉先生を始め関係者の皆さん、お疲れ様でした!


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