ギリシャの選挙でツィプラス党首率いる急進左派連合が勝利し政権を掌握した際、EUとギリシャ救済パッケージの延長に関する激しい交渉が持たれました。EUはギリシャをギャフンと言わせようと腕まくりしたのですが、実際にはギリシャがまんまと延長を勝ち取りました。

ギリシャのこの勝利の背後には、ラザード(ティッカーシンボル:LAZ)の存在があります。

また内戦で財政がグチャグチャになっているウクライナにも、強力な助っ人が居ます。それはラザードです。

ブルームバーグは、財政破たんした政府のアドバイザー役を進んで買って出るラザードに「無一文のための銀行家(Banker to the Broke)」というあだ名をつけました。

しかし財政に窮した政府に対するアドバイスのビジネスは、とても利幅が大きく、美味しいビジネスです。群がってくるハゲタカを追い払うことで、それらの国々の国民からも感謝されるし、たっぷりその報酬も貰うというわけです。

実はラザードはずっと昔からこのビジネスを行っており、有名なところでは1970年代にニューヨーク市が財政破たんした際に、ラザードのカリスマ・バンカー、フェリックス・ロハティンが財政立て直しに奔走したエピソードがあります。

最近、ラザードは勢いに乗っています。先日発表されたクラフト・フーズとHJハインツの合併のディールでは、ラザードがアドバイザーを務めました。このディールは、レバレッジをかけてクラフト・フーズをバイアウトするのではなく、特別配当をエサとしてぶら下げることによりディールの成就を促進するという、極めて巧妙で異例のディール・ストラクチャーが採用されています。

ギリシャ救済の時もそうでしたが、このクラフト・フーズのディールでも、ラザードの革新的な手法は、世界の投資銀行のプロたちを「あっ」と言わせました。

ラザードは1848年にアメリカのニューオリンズで創業しました。当初は乾物屋でしたが、徐々に金融業へと転身してゆきました。そしてニューヨーク、ロンドン、パリの三拠点を結ぶクロスボーダー、ならびに政府や企業のトップへのアドバイスに特化した投資銀行として、ユニークな存在になりました。

ラザードは常に「個人プレー」を重視する社風で、アンドレ・メイヤー、フェリックス・ロハティン、マイケル・デビッド・ワイル、スティーブン・ラトナーなどの名物バンカーを輩出しています。

その持ち株構造は複雑で、「投資銀行界の最後の王朝」と言われた時代もあります。しかし時代の流れがそのような古色蒼然たる持合いでは適さなくなったので、カリスマ・バンカー、ブルース・ワッサースタインを招き入れ、株式公開することで経営を刷新したのです。


2009年にブルース・ワッサースタインが死去してからは、ケン・ジェイコブスがCEOを務めています。

さて、リーマンショック後に、世間の投資銀行に対する風当たりが強くなりました。その際、投資銀行の派手なボーナスが槍玉に上がり、報酬水準を低く抑えるとともに、ボーナスを現金ですぐに払い出すのではなく、ディファード(繰り延べ)し、5年間勤務し続けたら初めて現金化することができる……というような「見えない手錠」をかけることが大手投資銀行では一般化しました。

これに対してラザードは、時代の流れに逆行するカタチで、なるべく直ぐに、しかも現金でボーナスを支払うという方針を2012年に打ち出しました

このようなことが可能な理由は、1)ラザードはトレーディングなどのビジネスをやっていないので、トレーダーが損を隠ぺいするなどの不正が後日発覚するリスクが低いこと、2)従業員が2000人ほどしか居ないため、目立つ存在ではなく、大手のようにマスコミから糾弾されるリスクがすくないこと、などによると思います。

いずれにせよラザードの場合、「自分が働いたら、働いた分だけ直ぐ報酬に跳ね返ってくる」ということで、社員のモチベーションは高いし、他の大手投資銀行で官僚的な組織に辟易している優秀なプロを引き抜くことに成功しています。

投資銀行の報酬が売上高に占める比率を見ると、ラザードは常にコンプ(報酬)比率が高く、これはバンカーにとって魅力です。

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因みにJPモルガンはコンプ比率が30%程度、ゴールドマン・サックスは37%程度だと思います。つまり「ゴールドマンやJPモルガンは、有名だから給与水準も高いだろう」と思ったら、大間違いなのです!

これは僕自身も経験したことなのですが、大手になるとボーナスを貰っても、レターにタイプされた「これだけボーナス出しました。キャッシングは、5年後です」というような「わけのわからない紙切れ(funny paper)」で、ボーナス交渉は、極めて苛々させられるものでした。

ボーナスを言い渡される日は、誰かがラジカセを持ってきて、ビートルズの『アビーロード』の中の曲、「ユー・ネバー・ギブ・ミー・ユア・マネー」をトレーディングルームのスピーカーを通じて流すわけです。その唄は、こんな調子です:

あなたは、なんだかんだ言って、全然、おカネを払ってくれない。
あなたは、わけのわかんない紙切れを僕によこすだけだ。
その上、交渉の途中で、泣き出す。

ぼくは、ぜったいに数字を言わない。
状況を、ああでもない、こうでもないと説明するだけだ。
そのウラを取られて、僕は泣き出す。

大学は出たけれど、おカネも使い果たし、将来は見通せない、家賃も払えなければ、行き場所もない。
どんな仕事も、ことごとくクソだ。月曜は気が重い。

それにしても、行き場所が無いという、あの魔法に満ちた感情……


これを同僚たちと合唱しながらボーナス交渉に臨んだ昔を、なつかしく思い出します。

それはともかく、ラザードはM&Aアドバイザー・ランキングで年初来第4位につけています。これは同社の規模が他社の10分の1以下であることを考えると、立派な数字だと思います。

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一株当たりの業績や、営業キャッシュフロー・マージンも、大手とは比べ物にならないほど良いです。

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LAz