<核のごみ 現と幻>再処理遅れ貯蔵が拡大/新方針の波紋(上)
政府は、原発の高レベル放射性廃棄物の最終処分に向けた基本方針を近く改定する。改定案の検討過程では、新たに盛り込まれた「使用済み核燃料の貯蔵能力拡大」「原子力委員会の役割強化」をめぐり、異論が出た。背景に何があり、課題はどこにあるのか。二つの新機軸を検証する。(東京支社・若林雅人)
<委員ら違和感>
最終処分への取り組みの間も生じる使用済み核燃料の貯蔵能力を拡大する。原発の敷地内外を問わず新たな地点を幅広く検討し、中間貯蔵や乾式貯蔵の施設建設・活用を促進する。(基本方針改定案から要約)
「最終処分の基本方針なのに貯蔵の話か」。2月中旬、経済産業省総合資源エネルギー調査会の作業部会。基本方針改定案を示された委員らは違和感を口にした。「作業部会の領分なのか」との声に、同省担当者は「国として正面から扱う問題だ」と理解を求めた。
全国の原発での使用済み核燃料の貯蔵量と容量は表の通り。貯蔵能力の拡大は、政府が昨春策定したエネルギー基本計画にも明記され、原子力政策で最重要課題の一つとなっている。
当面の搬出先となる青森県六ケ所村の使用済み核燃料再処理工場は稼働が大幅に遅れ、先行きが見えない。「貯蔵」と「最終処分」をセットで考えざるを得ない状況は、誤算続きの再処理路線を象徴している。
<協議会「頓挫」>
経産省は2012年、使用済み核燃料対策を都道府県と話し合う協議会の設置を表明したが、参加の意思を示したのは福井、茨城の2県だけ。「今後は全く未定」(経産省)とされ、事実上、頓挫した。
同省は16日、都道府県を対象に、原子力政策に関する説明会を都内で開いた。出席者によると、国側は最終処分について「国が前面に出る。都道府県と情報共有を図りたい」と話したものの、使用済み核燃料の貯蔵を含め、具体的な協力要請はなかったという。
東北のある県の担当者は「原子力施設が立地する県と、そうでない県の温度差を感じる」と指摘する。「新たな地点」で貯蔵が実現するには、前提として世論の関心の高まりや必要性への理解が欠かせない。
<試行錯誤続く>
電力会社も試行錯誤が続く。中部電力は1月、浜岡原発(静岡県)で使用済み核燃料の乾式貯蔵施設を建設すると国に申請した。ウラン換算で400トンの使用済み核燃料を六ケ所再処理工場に搬出するまで最長50年間、貯蔵する計画だ。
金属容器に入れる乾式貯蔵は、プールでの湿式貯蔵に比べて安全性が高いとされる。東京電力福島第1原発事故でも、乾式貯蔵容器は津波に遭っても無事だった。中部電は「必要に応じ増設も検討する」と話す。
関西電力は管内の電力消費地で、中間貯蔵施設の建設に向けた説明会を繰り返し開いている。だが、電気事業連合会の八木誠会長(関電社長)は20日の記者会見で「なかなか理解を得られない」と焦りを見せた。
貯蔵と処分の境界が揺らぎ始めている。
2015年03月29日日曜日