クローズアップ2013:大阪都構想、制度設計案 財政効果かき集め 市政改革・民営化、「まやかし」批判も
597日前
橋下徹大阪市長が掲げる大阪都構想の「青写真」となる制度設計案が9日、公表された。大阪府・市は都構想による財政効果を最大1000億円近くと試算したが、都構想との関係に疑問符が付くうえ未実現のものも多く、早くも議会や市内部から「まやかしだ」と批判が出ている。都構想が争点となる9月の堺市長選も見据え、効果をアピールする橋下市長だが、議会や有権者の理解を得られるかは不透明だ。【津久井達、村上尊一】
「もっとしっかり効果額を積み上げてほしい」。府市関係者によると、橋下市長は先月、都構想の制度設計を担う大都市局の職員らに号令をかけた。
橋下市長や松井一郎知事は就任当初、都構想で年間4000億円の財政効果を生み出すとの目標を打ち出したが、構想が具体化すればするほど、思ったような効果が見えてこない。一部の職員らは疑問を感じながらも、市民サービスを廃止・縮小した市政改革プラン(237億円)や、市営地下鉄の民営化(275億円)、ごみ収集の民営化(79億円)などを効果額に加えていったという。
今月上旬、職員らが最終的な効果額を説明すると、橋下市長が今度は「議員に説明するのが難しい。市議会では持たない」と戸惑った様子を見せた。しかし、大都市局幹部らが「(市長として)やってきたことを効果と言わずにどうするんですか」などと説得すると、最終的に了承したという。
1000億円近くに上る効果額を公表した9日。橋下市長は記者団に「大きな大きな節目だ」と胸を張った。しかし、試算した効果額と都構想の関係の薄さを指摘されると、「議論しても仕方ない。今までの府市を改めるなら、それでいいじゃないですか」と反論。「経済効果も合わせて3、4兆円という数字を出している有識者もいる。そういう議論に修正しないと、非常に小さな議論になっている」と、将来的な効果を盛り込むべきだと主張した。
だが、議会は冷ややかだ。自民市議は「統合効果ではない。地下鉄などは明らかに関係ない」と疑問視。協力が期待される公明市議でさえ、「効果額に市政改革を含むのは疑問だ」と、自民と同様の疑問を呈した。
自民府議は、人件費の削減効果も問題視する。「都構想でなく、市政改革を進めれば出てくる効果額だ。でたらめにもほどがある」と話す。制度設計案によると、北区と中央区を分離する5区案では学校、交通などを除く府・市の職員計約2万8363人(12年度)は、再編直後には特別区に計1万1039人を配置し、今の区役所職員数4912人から倍増させる。都の職員は1万807人。これが15〜20年後には、退職などで特別区は9789人、都は9811人まで削減できると見込み、年間270億円の効果があるとしている。
都構想を実現するには、府・市両議会での議決を経て、大阪市民を対象にした住民投票で過半数を得る必要がある。ある市職員は「市民から『まやかし』との批判は避けられない。堺市長選を控え、思うように都構想のメリットが出せない焦りもあるのではないか」と行方を案じた。
◇健全化へ道筋示せず
税収不足に悩む大阪市は今後10年間、300億〜400億円程度の収入不足が毎年続くと試算している。しかし、今回の制度設計案では都に移行した場合の長期的な財政シミュレーションは示されなかった。市から特別区に引き継がれる財産も、大きな地域格差を抱えたままだ。都構想が持続可能な制度かどうか、不安は解消されていない。
設計案では、市から引き継ぐ遊休地などの普通財産について、特別区間で25〜49倍の格差が生じている。こうした財産は収入不足を補填(ほてん)する重要な財源だが、格差を埋める具体策はまだない。資料作成にかかわった幹部職員は「市長や知事の意向に沿うように資料をまとめたので、相当無理な作りになっている。机の上で機械的に数字をはじいただけで、うまくいくかシミュレーションしたわけではない」と不備を認める。
また、府・市の事務について、市が担ってきた消防や下水道などを都に移管。特別区は保健所の運営など中核市並みの権限を持つ。しかし、区への権限委譲のため必要な、125に上る法令改正が残り1年半でできるかも不透明だ。橋下市長は9日、「テクニカルな話は国会で考えてもらう。事務権限なので一括でできるのではないか」と話した。しかし今後、府市と協議を進める総務省行政課は「法定協議会の意向が自動的に法改正に反映されるわけではない。協定書が完成したら一つずつ精査する」と慎重な姿勢をうかがわせた。
設計案を示した9日の協議会で、自民党の木下吉信市議は「膨大な資料を見て、15年4月に特別区が本当にできるのかという印象を持った」と懸念を表明した。市幹部も苦しい胸の内をこう明かす。「時間をかければかけるほど厳しい状況が見えてくる」