育む社会へ 保育士不足の背景(中) 制度と実態

(3/27 11:00)

園児の人数や年齢によって園の収入は変わる。年度途中に園児の増減もあるため、園長は年中やりくりに頭を悩ませる=静岡市内の私立保育所(写真の一部を加工しています)

 「子どもたちのために、経験豊かな保育士にいてほしい。だけど長く働ける環境を整えて、経験に応じて賃金を上げていくほど、園の経営は苦しくなる」。静岡市葵区で私立保育所を経営する浅井哲朗園長(63)は、その矛盾に頭を抱える。

 私立保育所の場合、昇給が経営を圧迫するのはなぜか。それは国の制度が、「保育士が全員10年以上働く」ことを想定していないからだ。

 公立は必要な人件費などを基に毎年度予算が組まれる。一方で、私立は国と県、市町が給付する「保育所運営費」の中で人件費を含めてやりくりしている。運営費は、公費と公私立一律に定められた保育料で賄われる。遠足の交通費といった実費以外を園が保護者から独自に集めることはできない。

 運営費の中で国が想定する、役職のない一般保育士1人当たりの給与ベース(額面)は、基本給19万7268円、年収約363万円(2014年度)。そこに、経験年数に応じて昇給させるための人件費が加算される。園の全職員の平均経験年数が0年だったとしても、年収に5%(18万円)の加算がついて1人当たりの年収は約381万円、平均経験が5年の園なら約399万円になる計算だ。10年以上は約417万円で一律になる。

 ところが現実は、国の想定と懸け離れている。県内の複数の園や保育士への取材では、新卒1年目の年収は額面約260万〜320万円程度、勤続10年目でも約280万〜370万円程度にとどまった。

 国の想定年収と現実に差が生じる理由は二つある。一つは運営費が職員の数ではなく園児の数に合わせて算定されること。もう一つは、国が定める配置基準よりも、現場は保育士を多く配置していることだ。厚生労働省によると、実質的な配置基準は1969年度以降、45年間変わっていない。園児や保育環境の変化に制度が追い付いていないのが実情だ。その結果、1人当たりに行き渡る賃金が国の想定よりも低くなっている。

 「基準通りの数ではとても一人一人に応じた教育・保育はできない」。全国保育士会副会長を務める焼津市の私立たかくさ保育園の村松幹子園長(58)は「親の教育力や家庭環境が変化し、よりきめ細やかな、質の高い対応が求められている」と訴える。同園では、園児104人に対して保育士13人を配置。国の基準よりも2人多いため、11人分の人件費を13人で分け合う格好だ。「多数の園が基準より余分に配置しているのではないか」とみている。

 経験による加算が「10年以上一律」の仕組みと、実態に合っていない配置基準。子ども・子育て支援新制度が始まる新年度、国はこれらを改善する。平均経験年数を1年延ばして加算率を引き上げ、「11年以上一律」とする。また、「20人に対して保育士1人」とする3歳児の配置基準を実質的に見直し、「15対1」にする。

 県内の園長からは「それでも実態に見合わない」との声が上がる。厚労省保育課は「財源が確保でき次第、余分に配置した場合への加算を追加したい」としている。

 <メモ>私立保育所の収入は「保育所運営費」の他に、延長保育や子育て支援拠点運営などの事業に対して交付される「補助金」がある。園が保育士を余分に配置したとき、独自の補助金を出す自治体もある。収入のうちいくらを人件費に充てるかは、園に任されている。社会保障制度に詳しい県立大経営情報学部の藤本健太郎准教授は「保育所は収入そのものが低く経営に余裕がない。一部の介護保険施設では内部留保のため込みが問題になったが、そういったケースは考えにくい」と話す。

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