沖縄の基地問題ではしばしば、法治の常識を超越し、それを骨抜きにすることが起きる。裁判の判決が下される前に内容が外部に漏れ、当事者不在で報じられる。それと同等な異常事態が起きている。
米軍普天間飛行場の移設を伴う新基地建設に関し、林芳正農相は翁長雄志知事が沖縄防衛局に命じた海底作業停止指示を一時的に無効とする判断を固めた、という。
国が投入した巨大なブロック塊がサンゴ礁を破壊している問題で、翁長知事が県漁業調整規則に基づく岩礁破砕の許可権限に基づき、全ての海底作業の停止を求めた期限は30日である。それを見越し、農相はその当日にも知事の指示を無効とする段取りを描いている。
23日の知事の停止指示を受け、防衛局は24日に行政不服審査法に基づき、水産資源保護を担当する農相に不服審査請求した。併せて、裁決が出るまで緊急に知事の指示を無効とする執行停止申立書も提出する対抗措置を取った。
林農相は、昨年の沖縄の主要選挙で示された「新基地ノー」の多数意思を無視して工事を強行している防衛省側の申し立てを全面的に認めるわけだ。
それにしても腑(ふ)に落ちない。
27日夕刻に翁長知事が意見書を林農相に提出したばかりなのに、翌28日には在京大手紙などが、農相が知事の作業停止指示の効力を止める意向を固めたと報じた。
緻密な検証を欠いた結論ありきの審査の証左ではないか。安倍政権内を発信源とする意図的な情報が振りまかれ、正当な主張を展開している県側に不当性があると印象付ける構図である。
政府と対立する自治体の主張を封じよと促すいびつな申し立てが追認されることで、国と地方の関係を危うくする「身内による身内のための審査」が鮮明になる。
いずれにしても、当初の重りの62倍から280倍に及ぶ10〜45トンの巨大ブロックがサンゴ礁をつぶし、漁業資源を壊している事実は動かない。林農相が知事の停止指示を無効と判断しても、翁長知事はひるむことなく、岩礁破砕の許可取り消しなど、粛々とあらゆる対抗策を打ち出せばよい。
沖縄県民140万人を代表する知事との面談から逃げ回り、民主主義と法治を置き去りにした安倍政権の恥ずべき姿は、沖縄側の反転攻勢の足掛かりとなろう。
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