133円で197kmのプチトリップ ~大都市近郊区間大回り乗車~
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旅するにはいい季節になってきて、どこかに行きたいが特に行きたいところもない。かといって目的地があるわけではないので時間は構わないが、お金はあまり使いたくない。そんな悩みを一挙に解決できるいい方法がある。
JRの規則を利用したいわゆる"大回り乗車"。これまでも各種メディアに取り上げられており、御存じの方も多いだろう。その根拠と具体例は次の通りだ。
「JR旅客営業規則第157条第2項 大都市近郊区間内相互発着の普通乗車券及び普通回数乗車券(併用となるものを含む。)所持する旅客は、その区間内においては、その乗車券の券面に表示された経路にかかわらず、同区間内の他の経路を選択して乗車することができる。」
大都市近郊区間という範囲内で発着する乗車券を持っていれば、実際に乗車する経路にかかわらず、他の経路を自由に選択して乗車できるということだ。本来であれば、最短距離であろうが遠回りであろうが、実際に乗車する経路で運賃が決まるのが原則だが、複雑に路線が入り組んだ大都市ではいちいち経路を聞いて乗車券を発売していては煩雑であるため、最短距離で運賃を計算して実際に乗車する経路は旅客が決めればいいという特例だ。
例えば東京から神田の場合、京浜東北線か山手線に乗ればいい。しかし、山手線外回り電車で品川、渋谷、新宿、池袋、上野を経由しても、最短経路の運賃140円で構わないということだ。ただし最短経路で運賃計算できるというだけで、実際の経路を指定して乗車券を発売することも可能だが上記の経路の場合480円となるので、そんな人はまずいないだろう。
この規則を利用すれば隣の駅までの乗車券で大回り乗車をしてプチ旅をすることができる。これが大回り乗車の実際だ。もちろん、発駅に戻る場合は隣の駅で下車して、戻る乗車券を買わなければならないから往復分の運賃が必要だ。大都市近郊区間は東京の他に大阪、福岡、仙台、新潟に設定されているので詳細は時刻表のピンクのページを参照されたい。
さて、この制度を利用して大回り乗車を楽しむ際に注意しなければならないルールがある。1.大都市近郊区間相互発着となる乗車券は有効期間が1日と決められているので終電を超えて翌日にまたがることはできない。2.途中下車はできないので乗り換えは構わないが、改札から出ることはできない。3.同じ経路を二度以上通ってはならない。
これらのルールを守れば、経路上でグリーン券を買ってグリーン車に乗ろうが、特急料金を払って特急列車に乗ろうが経路は自由だ。ただし新幹線は大阪近郊区間の米原・新大阪間および西明石・相生間を除いて含まれないので、利用不可と思って差支えない。
ちなみに、大都市近郊区間の大回り乗車ができるのは普通乗車券と回数乗車券に限られ、定期乗車券は経路通りでしか乗車できないのでお間違いのないように。なお、ICカード乗車券でも一向に構わない。
さて、前置き長くなったが、実際に乗車してみよう。今回は総武線の小岩駅(東京都江戸川区)から隣の新小岩駅(東京都葛飾区)まで乗車することにする。ただし、最短2.8kmではなく、営業キロで約100倍の197kmに及ぶプチトリップだ。
経路はルールに従って自由に選択すればよいが、今回は距離を稼げる臨時快速列車を組み入れてみた。経路は次の通りだ。小岩→総武緩行線→西船橋→武蔵野線・東北本線・川越線直通(臨時快速おさんぽ川越号)→川越→川越線・八高線→八王子→横浜線快速→横浜→横須賀・総武快速線→新小岩。東神奈川・横浜間が復乗となるが、総武快速線の列車が停車しないので経路外乗車が認められる。紙のきっぷを買うと運賃は140円だが、今回はIC乗車券なので133円だ。
では、さっそく小岩駅からスタートだ。なお、この旅程は鉄ちゃんであれば物足りず、素人さんには苦行かもしれないが、取材のために乗り換えは少なく半日程度で戻れて、ある程度時間的に余裕が取れる旅程にした。実践の際には各自のスタイルと体力に合わせて旅程を組みたい。
小岩を7時58分発の各駅停車千葉行きに乗車。いきなり逆方向に乗るのがこの旅の面白いところだ。
209系電車。総武緩行線ではおなじみの電車だ。
西船橋で武蔵野線府中本町方面行ホームに向かう。通常走っているのはこの205系電車。ほとんどが府中本町行きだ。目的の列車はこの次だ。
先発の行先表示がJRマークになっている。臨時列車のためデータが入ってない駅はこのような表示になる。レアと言えばレアだ。
西船橋8時33分発臨時表示の快速「おさんぽ川越号」。E231系電車5両が来た。このタイプの電車は東海道・東北・高崎線ではおなじみだが、武蔵野線や川越線に入ることはない。これもレアだ。通常は快速が走らない路線なので車掌が西船橋停車中に停車駅を連呼すればいいのに何も言わずに発車したものだから、誤乗があると思っていたら案の定、発車直後に停車駅の放送を聞いて「あっ!」という声が車内であがる。気の毒だが次は東松戸まで停車しない。
南浦和を出て武蔵浦和を通過すると、間もなく東北本線へつながる短絡線に転線する。この短絡線を走る旅客列車はほとんどなく、通常は貨物列車が走る線路のため鉄ちゃんには最大のイベントともいえる。
当然、かぶりつき(先頭車両)はこのような状態となる。大宮駅の東北本線ホームを出ると川越線に入るが、川越線の電車は通常は埼京線と直通のため普段は通らない線路を転線しながらゆっくりと入っていく。
鉄道博物館の真横を通過するので、同館の展示車両も間近で見ることができた。
川越線内は全駅通過扱いだが、単線のために全駅でいったん停車してからドアを開けずに発車する。終点川越駅では異色のE231系が入線したとあって撮影する鉄ちゃんも多く、チビ鉄君も大人に負けずに頑張る姿が微笑ましい。
次の八高線直通電車まで20分ほどあるので、ブランチとしたい。売店もそば屋も喫茶店もあるのでお好みで。
著者は和食をチョイス。と言っても豚丼セットだが。580円。
川越10時11分発、川越線・八高線直通の各駅停車八王子行に乗車。
途中の拝島駅では西武鉄道の電車と顔を合わせる。
川越から約1時間、横浜線の電車が並走してきた。間もなく終点の八王子だ。
終点の八王子。八高線、中央本線、横浜線が集まるターミナルだ。
横浜線のホームに移動。乗車列車は11時30分発、快速桜木町行きだ。
運が良ければ中央本線を行く貨物列車も見ることができるので、ホームから撮り鉄もできる。
実際に取り鉄さんはいた。JR貨物愛知機関区所属のEF64形電気機関車。石油を運んでいた。
快速桜木町行きで横浜まで乗車する。
京浜東北線の電車に乗車するなら東神奈川で下車しなければならないが、今回は横須賀・総武快速線の電車に乗るので横浜まで特例の経路外乗車だ。崎陽軒でシウマイをお土産に買うのもよい。
湘南新宿ラインの電車で新宿まで行き、中央・総武緩行線の電車で新小岩を目指すこともできるが、次の成田空港行きに乗れば、乗り換えなしで新小岩に着けるので1本見逃す。
横浜12時43分発、快速エアポート成田。E217系電車。この列車で最終目的地である新小岩まで一気に帰ることにする。
13時29分。定刻で新小岩に到着。5時間31分、197キロにおよぶプチトリップは終了した。
東京近郊区間であれば、エキナカも充実しているので食いっぱぐれることはない。このようにホームに喫茶店がある駅もあるので、計画を変更して一服することも可能だ。
実際に乗車する距離に応じた特急料金を支払えば特急列車に乗車することも可能だ。ただし、同じところは2度通れないので旅程には気を付けること。
まれに車内改札が来ることもあるが、大回り乗車中であることを告げれば問題ない。慣れた人であれば経路を説明することは容易であるが、初心者はあらかじめ経路を書いた紙を持っているといいだろう。なお、気が変わって途中で改札を出たい場合は出発駅からの所定の運賃を精算すればよい。IC乗車券の場合は改札機にタッチすれば運賃が差し引かれて精算は終了する。
この季節、車窓から見える桜はきれいだ。133円で花見を兼ねたプチトリップに出かけてはいかがだろうか。
※写真はすべて著者が撮影したもの。
※この記事はガジェ通ウェブライターの「古川 智規」が執筆しました。あなたもウェブライターになって一緒に執筆しませんか?