社説:金銭で解雇 功罪両面の議論深めよ
毎日新聞 2015年03月30日 02時32分
政府の規制改革会議は、裁判で「解雇無効」とされた人に企業側が金銭補償して解雇できる制度の導入を柱とする意見書をまとめた。労働者側から申し出た場合のみ制度を適用するとした。
「カネを払えば解雇できる」という風潮が強まるとの批判もあるだろう。ただ、現実には不当な解雇は多数あり、まともな金銭補償もされずに泣き寝入りしている人は多い。解雇に対する金銭補償を制度化することが労働者に不利になるのか、冷静に考える必要がある。
経営側の事情による整理解雇は、(1)人員削減しないと会社の存続が難しいこと(2)解雇を回避する努力義務を尽くしていること(3)解雇する労働者の人選の妥当性(4)説明など手続きの適正さ−−の4要件をすべて満たした場合のみ認められている。
解雇で紛争になったときには、労働局のあっせん、労働審判、裁判という道がある。今回の制度は、裁判で「解雇無効」の判決が出た場合、復職せずに金銭で退職する解決方法を提示するものだ。
裁判に持ち込めば金銭補償の平均額は高いが、決着するまでに1年以上かかるのが普通だ。労働者側が解雇無効を勝ち取っても、会社との信頼関係がこじれてしまい、結局は補償金を得て退職するケースが多い。裁判自体が慰謝料請求よりも地位確認を求めた方が多額の補償金を得られるという事情もあるという。
金銭補償による解雇を制度化し解決金の相場を設けることで、労使双方に費用や事務負担がかかる裁判を回避し、迅速な解決が図られることが期待されている。
法的には厳しい解雇規制が定められているものの、4要件を満たさない「不当解雇」が横行しているという現実もある。中小企業で働く人を中心にわずかな金銭補償で解雇されている人が多い。非正規雇用労働者は補償もされず泣き寝入りしているのが実情だ。
大企業の正社員以外の弱い立場にある人々にとっては、解雇される際の金銭補償を制度化する意味は少なくない。
一方で懸念される点も多い。提案では労働者の申し出がある場合に限定されているが、いずれ経営者からの申し出でも認められるようになるのではないかと警戒する声は多い。解決金の水準が低く設定されれば、労働者の金銭面での救済が不十分なまま安易な解雇が広がる恐れがある。解雇された後の生活保障や職業訓練を充実させることも必要だ。
厚生労働省は検討会を設置して制度化について議論を始めるが、功罪両面を詳しく検討し議論を尽くすべきだ。