団塊の世代が75歳以上になる2025年に介護を担う人材が全国で30万人不足する。厚生労働省がまとめた推計である。

 今でも介護現場で人手は足りない。2月の有効求人倍率(常用)は2・51倍と、全職種平均の1・11倍を大きく上回る。賃金が安いことが大きな理由だ。

 人材を確保するために、賃金アップは欠かせない。その原資は、事業所が介護保険サービスを提供した対価として受け取る介護報酬だ。

 その介護報酬を国は4月に全体で2・27%引き下げる。人手不足からサービスが縮小する悪循環に陥ることをまず、避けなければならない。

 報酬引き下げ後も、一定の条件を満たした事業所は、賃金上乗せ分を受け取れる。しかし、その代わりにボーナスを減らし、職員数を減らす事態が生じる懸念は労使双方から上がっている。年収ベースで増えているか、労働環境が悪化していないか、チェックすることが当面、必要になるだろう。

 介護報酬を引き上げれば、税金や保険料を通じた国民の負担は増す。それでも、必要なサービスのためには、負担増も視野に入れるべきである。その前提として、現行の給付に無駄がないか点検し、効率的な使い方を考えることが必要だ。

 また、賃金以外にも、待遇改善に工夫の余地はある。

 京都府は、13年度に独自の認証制度をつくった。一定の基準で事業所にお墨付きを与え、ホームページで検索できるようにした。その基準は、人材育成の計画を作って全職員に公表する▽休暇取得や労働時間短縮に取り組んでいる、など17項目。すべてを満たすと認証される。認証を目指す事業所には研修や相談の機会も設けて、取得を促している。

 こうした仕組みがあれば、学生らが職を選ぶ際の参考になるし、事業所が自らの業務や運営を見直すきっかけにもなる。国が後押ししていいやり方だ。

 厚生労働省の専門委員会が人材確保策についてまとめた報告書にも、新人が将来の展望を持てるよう、事業所はキャリアパス制度や賃金の上がり方が分かるようにすることが盛り込まれている。

 また、政府は今国会で介護福祉士の届け出制度を設ける法改正を目指している。離職時に届け出た介護福祉士に求人情報を流したり、復職時に研修の機会を設けたりする方針だ。これも人材確保の一助にはなる。

 介護を「選ばれる職」にする知恵と工夫が求められている。