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中国の新たな攻勢 AIIBの罠に嵌まるべからず

週刊文春 3月28日(土)13時1分配信

 中国主導で設立するアジアインフラ投資銀行(AIIB)の設立国メンバーに英国、フランス、ドイツ、イタリア、スイスなどの欧州勢が次々と参加を表明した。すでに表明済みのアジア諸国を加えて30カ国以上に拡大。英国は1950年、最も早い時期に中華人民共和国を外交承認した西側諸国の代表格だが、今回も欧州の先陣を切った。

 AIIBは習近平国家主席が提唱した中国主導の新たな国際金融機関である。潤沢な外貨準備を利用し、大規模インフラ建設に融資することで自国企業に受注機会を提供し、生産資材を海外輸出し、減速傾向の国内景気を底上げする狙いがある。資本金1000億ドルのうち中国の出資比率は断然トップ。本部が北京に置かれ、初代総裁も元中国財務省次官が就任することから運営管理に中国の思惑が強く反映されるのは間違いない。

 さらに重要なのは、AIIB設置によって、欧米主導に代わる中国主導の新国際金融秩序を構築しようとしていることだ。先発のアジア開発銀行(ADB)を主導する日米両国に対する挑戦である。

 そんな最中の3月20日、麻生太郎財務相が条件付きながら「(参加に向けて)協議となる可能性はある」との考えを示し、安倍晋三首相や菅義偉官房長官が即座に「慎重に検討する必要がある」と打ち消した。中国に対する安全保障上の懸念からすれば、欧州諸国と日本は決定的に立場が異なる。“バスに乗り遅れるな”で結論を出しては禍根を残すことになりかねない。

 中国はG7(先進7カ国)の結束を分断することに成功した。オバマ米政権は今般の欧州の対中雪崩現象を前に、不足するアジアのインフラ資金をどう手当てするのか代替案を出し切れていない。ここは日米両国でADBのさらなる強化策を構築するなどして踏ん張るべき時だろう。

 中国は戦後70周年を迎え、戦後の国際秩序を守れと日本に呼びかける一方で、戦後の国際金融秩序であるブレトンウッズ体制に果敢に挑戦している。尖閣諸島で領海侵犯を繰り返し、南シナ海では岩礁7カ所の埋め立て工事を進めて一方的な現状変更を試みている。こうした中でAIIB問題を捉える必要もあるだろう。


<週刊文春2015年4月2日号『THIS WEEK 国際』より>

濱本 良一(国際教養大学教授)

最終更新:3月28日(土)13時1分

週刊文春

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