2014/8/9

公立校でも進む小中一貫校 中1ギャップ♂消の決め手?

入学時の不登校・いじめ急増

 学校環境の変化で、中学1年生に不登校などが増える中1ギャップ≠ェ問題となる中、政府の教育再生実行会議は「学年区分を弾力的に設定できる」として学制改革の提言に、「小中一貫教育学校(仮称)」の制度化を盛り込んだ。一方、大阪市では小中一貫校の設置を推進しているが、「交通の不便」などの原因で応募者が少なく必ずしも順調にいっていないのが現状だ。

《中1ギャップとは》

 小学校から中学校に進学したときに、学習内容や生活リズムの変化になじむことができず、いじめが増加したり不登校になったりする現象。小学校までに築いた人間関係が失われる、リーダーの立場にあった子どもが先輩・後輩の上下関係の中で自分の居場所をなくす、学習内容のレベルが上がるなどの要因が考えられる。

不登校率が改善

 文部科学省の調査によると、2012年度の中学1年の不登校数は全国で2万1194人で、小学校6年の6920人の約3倍に急増している。

 この原因に中学校の元教頭(58)は「中学進学後に学校生活が一変して適応できずに、それが原因でいじめや不登校になる生徒も多い」と 中1ギャップ≠フ存在を指摘する。

 元教頭は国立大学の付属中学の教師の経験もあり、「通常の小学校では、個々人の学習課題が中学に十分に引き継がれていない。また、小学校の学級担任制から中学は教科担任制に変わることで生徒側にも戸惑いが生まれる」と小中の連携不足も不登校の原因の一つと分析している。

大阪市が目指す小中一貫校

 大阪市では2010年度に小中連携アクションプランを作成し、11年度からは小中一貫した教育の視点からすべての小中学校で「学力向上」「体力向上」「健全育成」を柱に一貫した教育を展開してきた。

 そして市教育委員会でも小中学校の「教育システムの違い」「学習内容の応用化や多様化」「指導観や指導方法の違い」を指摘し、さらに「他の小学校から入学してきた生徒との人間関係の形成」「子どもの心身の発達の違い」から中学校において「学力向上の課題やいじめ・不登校など生活指導上の課題が生まれる」と指摘していた。

目玉施策も応募少ない

 12年度からは橋下徹市長が「スーパー校」と位置付ける施設一体型小中一貫校の設置を進め、「やたなか小中一貫校」(東住吉区)が開校。 今年4月には「むくのき学園」(東淀川区)も開校した。さらに来年4月からは西成区の新今宮小学校と今宮中学校からなる「いまみや小中一貫校」を開校する。

 3校に共通した小中一貫校の売り≠ヘ児童生徒を全市から募集。そして小学校1年生から生きた英語学習を行う「9年間で伸ばす英語力」▽小中教員の協働した指導や小学校高学年からの「充実した教科指導」▽英語検定や漢字検定、小学生からの部活動、小中学生の活発な交流活動で「伸ばすチャレンジ精神」―の3点を挙げている。

私立に負けないスーパー校

 ただ、先行した2校は全市から公募したが、「交通アクセスの不便さ」「転校を敬遠した」などの理由から校区外の応募者は少なかった。

 また、橋下市長は西成区の活性化を目指して「西成特区構想」を掲げ、来年4月開校する「いまみや小中一貫校」は構想の目玉施策だ。新校舎はあいりん地区にある今宮中学校の敷地約2万平方mに約10億円かけて新校舎を建て、萩之茶屋、今宮、弘治の3小学校を統合させる。

 小中一貫校では、中学校の英語や体育の教諭が小学生を指導することが可能となる。教師は1人の生徒に9年間関わることで、より高度で充実した教育が期待できる。また、英語教育やタブレット端末によるICT(情報通信技術)活用などの授業も行う考えだ。

 市教委はさらに、「地元の府立今宮高に進学できる特別枠の設定についても検討を進めている。保護者の支持も得られるはず。府教委と協議したい」としており、実現すれば公立では全国初の「小中高12年一貫校」となる。

 一方で学校を取り巻く生活環境を危ぐする声も多い。敷地周辺ではごみの不法投棄が目立ち、府警によると、同地区での覚せい剤などの薬物の摘発者数は年間400人以上という。

 市や西成区などでは小中一貫校の開校に向けて同地区の清掃作業や防犯カメラを設置して環境改善を急ぐ考えだ。

 元中学校の教頭は「既存の小中一貫校にも課題は多い」と指摘する。「子ども同士の関係が9年間、固定し、人見知りや過保護になるのでは」「通常の公立小から一貫校に転校した場合、カリキュラムが違い対応が難しい」―などの声も指摘されている。

【記者の視点】 メリット、デメリットも合わせて有効活用

 私立の一貫教育の大きな目的は極論だが、いかにして希望の学校に進学するかにかかる。一方、公立の「小中一貫教育」のねらいは、大きく分けて二つある。一つ目は、小中学校の教職員の人的交流を促進し、子どもの「学力観」「指導観」「評価観」の共有が図れることだ。

 二つ目は、いわゆる「中1ギャップ」と呼ばれる急激な環境変化にワンクッションを挟むことができること。デメリットは、人間関係の固定化か。

 新しい教育制度にも当然、メリットもデメリットもあるだろう。導入したからには、いかに有効に新しい教育制度を活用するかにかかる。

 一貫教育の導入で小中学校間の情報交換などが頻繁に行われれば、児童生徒に対するきめ細やかで適切な対応を効果的に行えるようになる。それを可能にするのも教育的な人材の養成とやる気にかかっている。

今週の1面

PCでも紙面がそのまま
閲覧可能です。

スマートフォン用

読者プレゼント

読者アンケート集計結果

間違い探し

中学入試問題

頼れる治療家

地元発掘ガイド

フレッシュスター

鳥取発!紙上ショッピング

スタッフブログ

都島ドット・コム

ニーズサービス