★堤未果さん『沈みゆく大国アメリカ』(集英社新書 720円+税)
「チェンジ」を掲げ、アメリカ国民を熱狂の渦にたたき込んだオバマ大統領が今や見る影もない。その象徴が『オバマケア』と呼ばれる医療保険制度改革への批判だ。TPP問題が佳境を迎えるなか、日本も無関心ではいられない。いまホットな1冊だ。 (文・大谷順 写真・栗橋隆悦)
──アメリカの医療費の高さにびっくり。くるぶしの骨折治療費が640万円、がんの治療薬が1カ月40万円…
「アメリカの医療費は約200兆円(日本は約40兆円)。アメリカ人の自己破産理由のトップが『医療費』なのです。医療保険は、民間企業がカバーしており、高い保険料を払えない人は、ギリギリまでがまんした揚げ句、診療を拒否できないER(救急救命センター)に駆け込むしかない。日本のような“国民皆保険”をうたった『オバマケア』はそれを画期的に変える、という触れ込みだったのですが、実際は大違いでした」
──『オバマケア』で大もうけしたのは、保険会社や製薬業界だけ
「オバマ大統領は『保険料は平均2500ドル(約30万円)下がる』と言っていたのに、多くの人の保険料が上がった。薬代の自己負担額もそう。一方、病院や医師は診療報酬が減り、事務処理に忙殺されている。約5000万人いた無保険者は『オバマケア』で保険に入ることができ、一見よかったようですが、保険会社が指定する医療機関が少ないため、現実には医者にかかれない。つまりキャッシュカードをバラまいたのに、使えるATMがないという状況です」