【10月3日 AFP】韓国・ソウル(Seoul)の主婦、ジェニファー・チャン(Jennifer Chung)さん(54)は毎朝、2人の息子と夫を送り出した後、法律違反の常習者たちの探索に出かける。主なターゲットは、地元の塾講師や料理店店主、美容室オーナーなどだ。

「法定限度額を超えた受講料を親に請求する塾、料理の産地をメニューに表示していない店、医師にしか認められていないスキンケア治療を行う美容室。みんな法律違反です。当局に通報するため、証拠が必要です」と、チャンさんはAFP記者に語った。ハンドバッグにはビデオカメラを隠し、小さな穴からレンズを外へ向けている。

 チャンさんの覆面調査の典型例は、客として何食わぬ顔で店に入り、ビデオカメラで違法行為の現場の会話や光景を隠し撮りして、その映像を当局に送るというもの。通報するたび、関係当局から報奨金を受け取る。稼ぎは月に200万ウォン(約13万円)にも上るという。

■多くの主婦がパパラッチを実践

 チャンさんが特別というわけではない。韓国では、中年女性を中心に「市民パパラッチ」が増えている。富豪や有名人の生活を追うのではなく、近隣住民の軽微な違法行為を録画しては、金に換えているのだ。

 韓国政府はこうした報奨金制度をますます拡充させており、「パパラッチ養成学校」が盛況だ。学校では、尾行や盗撮の方法を教えるだけでなく、疑惑を振り払うために無実のふりをする演技まで指導している。

 ソウルのパパラッチ学校「ミスミズ(Mismiz)」の創設者、ムン・スンオク(Moon Seung-Ok)氏はAFPの取材に、「パパラッチはかなり儲かる業種になった。今では、フルタイムの仕事にしている人もいる」と語った。生徒数は、景気が悪くなると急増する。主婦たちが家計の足しにしようと副業を探すからだ。

■パパラッチは「愛国的な務め」?

 自身もベテランのパパラッチであるムン氏は、「市民パパラッチは人員不足で過労気味の当局者や警察を助ける行為」であり「愛国的な務めで、しかも利益を生む」仕事だと強調する。

 緊張した面持ちで講義を受ける40~50代の主婦4人に、ムン氏は次のように力説した。「良心がないとか、ネズミになったとか、他人の弱みにつけ込んで金儲けをしていると非難する人もいるが、罪悪感を感じる必要は全くない。彼らは犯罪者だ。法を犯して大金をせしめている。彼らは罰されるべきだ!」

 ムン氏が執筆した教科書には、タバコのポイ捨てやゴミの分別間違い、売春や保険金詐欺まで、報奨金がもらえるさまざまな違法行為が並べられている。中でも、受験戦争が過熱する韓国で一番の標的となっているのが、規定以上の受講料を請求したり、法律で禁止されている深夜クラスを開講している塾経営者たちだ。

 教育省は、報奨金制度を開始した2009年7月以来、総額34億ウォン(約2億2000万円)の報奨金を支払った。報奨金トップの人物は920件の違反を通報し、1人で3億ウォン(約2000万円)を稼いだという。

■「社会に相互不信を生むだけ」との批判も

 こうしたパパラッチに対し、不況下で頑張る家族経営の事業を圧迫しているとの批判もある。韓国塾連盟の広報担当者は、「プロの賞金稼ぎが、子どもの教育現場を荒稼ぎのための遊び場にしている」と非難。おかげで、多くの小規模経営の塾が閉校に追い込まれていると述べた。

 国立済州大学(Jeju National University%)のオ・チャンス(Oh Chang-Soo)教授(法学)も、状況を憂慮している。

 オ教授はAFPの取材に、報奨金制度が「賞金稼ぎたちのドル箱」になってしまったと語り、健全な市民精神の育成にも、真の公正感覚の育成にも役立っていないと指摘した。「パパラッチは罠を仕掛け、誰かが規則に違反するのを今か今かと待ち構えている。こうした行為は、市民間の不信感をあおるだけだ」 (c)AFP/Jung Ha-Won