【原子力政策】この道でいいのか(3月28日)
原子力規制委員会の田中俊一委員長(福島市出身)は東京電力福島第一原発事故から丸4年の今月11日の会見で、事故の教訓を忘れ原発を強硬に推進する勢力があると示唆し「そういう論に決してくじけてはいけない。事故の教訓に学ばないなら原子力はやめた方がいい」と訴えた。
高線量や汚染水が原発事故の収束を阻む。現場の苦戦をよそに、原発再稼働をはじめ原子力の延命策が進む。安倍晋三政権は事故の教訓をエネルギー政策に生かすべきだ。
田中委員長は第一原発の現状を「度重なる労災事故や汚染雨水の排出などが起こるたびに福島県民に不安と憤りを与えている」と指摘。「大きなリスクを顕在化させない戦略的な取り組みと、進捗[しんちょく]状況を正直に県民に伝えることが極めて大切だ」とした。
県原子力対策監を務める角山茂章会津大教育研究特別顧問は、日本原子力学会の会議で大熊町のオフサイトセンターが原発事故で機能しなかった事例を挙げ「免震重要棟がなかったら東日本は崩壊していたのではないか」と緊急時の脆弱[ぜいじゃく]さを批判した。
安倍政権は、九州電力川内[せんだい]原発1、2号機(鹿児島県)、関西電力高浜原発3、4号機(福井県)について、規制委が安全対策の新規制基準に適合しているとする「審査書」を決定したのを受け、再稼働に前のめりだ。田中委員長は「リスクがゼロと確認したわけではない」と慎重だが、安倍首相は「世界最高水準の安全基準」を繰り返す。
国や電力業界は廃炉原発の解体費や廃止措置に使う資金などについて会計・料金制度を変更し電気料金に上乗せして回収を進める。国民負担数兆円に関する論議はされない。本県では震災(原発事故)関連死で1800人以上が犠牲となり、県民11万人以上が避難する。国などの姿勢はまるで原発事故などなかったようだ。新たな「安全神話」による「思考停止」が続く。
事故翌年の平成24年7月、国会事故調は報告書を出した。黒川清委員長は二本松市出身の世界的歴史学者・朝河貫一が100年前に著書「日本の禍機」で示した警告を引用した。朝河は日露戦争の勝利に酔い「変われなかった」日本が進んでいくであろう道を正確に予測していた。「変われなかった」ことで起きてしまった原発事故に日本は今後、どう対応し、どう変わっていくのか、世界は厳しく注視している-と。社会構造や日本人の「思い込み」を抜本改革しないと危機はまた来る。「この道しかない」は危うい考えだ。(小池 公祐)
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